第十二話 五属性の原理
五匹のヒュービはあらぬ方に飛ばされてしまったが、フラムは飛ばされた直後、胸元に忍ばせていたロープを取り出し、その先に付けられた鉤爪を近くの木の枝に飛ばして引っ掛け、飛ばされずに森の中に着地した。
「ほう、飛ばされる覚悟はしておったのか」
直ぐにルシェールが歩み寄って来た。
「何でリンディアの氷が砕けたでヤンス?」
ルシェールの肩に乗るパルが率直な疑問を洩らす。
「簡単な事じゃ。ヒュービの冷気を浴びる寸前に、リンディア達は自分の体の周りに口から吐いた風を纏わせたのじゃ。一見完全に凍ったように見えたかもしれんが、体の周りに隙間が出来た。そうすれば、内側から氷を砕くのはリンディアには造作もないて」
「なるほどでヤンス……」
「魔獣召喚士ならば知っておろう。一概には言えんが、炎は氷に強く、氷は地に、地は雷に、雷は風に、風は炎にと相性があると言う五属性の原理をな。幸いにもお前は特異質であり、炎以外の属性のそれなりの魔獣を召喚する事が出来るのじゃぞ。ならば何故、雷魔獣を召喚せん?」
「雷魔獣を召喚するのは……」
「やはりあ奴を気にしとるのか。お前自身が召喚した所で、何も変わらんじゃろう。三匹のリンディアを相手に五属性の原理を使わねば、尻尾は手に入らぬぞ。それとも尻尾だけに、尻尾を巻いて逃げ帰るか?」
「ここでダジャレでヤンスか?」
苦笑いするパルとは対照的に、フラムは自分の頬を叩いて気合いを入れ直す。
再びその場にしゃがみ、右手を地に下ろす。
「アルシオンボルトーア!」
召喚陣を前にフラムは印を組む。
「魔界に住みし雷の魔獣よ。開かれし門を潜り出でて我が命に従え」
フラムの印が形を変える。
「出でよ、雷魔獣バルボ!」
召喚陣の光が増し、その中からドゥーブに似た魔獣が飛び出して来た。
「ほう、バルボか。良い選択じゃ」
「バルボ、あのリンディア達を伸しちゃって!」
向かって来るバルボに気付いたリンディア達は、直ぐに大きな口を開け、一斉にバルボに突風を吹き付けた。
バルボは逃げる事なく突風をその身に受けてしまった。しかし、その身は浮き上がったものの、イグニアやフラムのように飛ばされる事なく、突風はバルボの球体に近い体を沿うようにして吹き抜けて行く。
リンディア達が息を切らせて突風が止んだ隙に、バルボが体全体をスパークさせながらリンディア達の間を駆け抜けた。
奇声を上げ、体を激しくのたうち廻らせたリンディア達は、白煙を上げてその場に気を失って倒れた。
「バルボ、戻りなさい」
バルボがフラムの前で輝き続ける召喚陣の中に消えると、フラムはまた手の印を組む。
「魔界に住みし属性なき魔獣よ。開かれし門を潜り出でて我が命に従え」
更に両手の印が形を変える。
「出でよ、魔獣ドゥーブ!」
輝きを増した召喚陣の光の中からドゥーブが飛び出した。
「ドゥーブ、崖の近くまで行って」
印を解いて召喚陣を消したフラムは、ドゥーブと共に駆け出し、崖の前で止まったドゥーブに合わせて軽く飛び上がり、ドゥーブの体の上に降り立った。ドゥーブの体が弾むと同時にフラムの体は飛び上がり、一気に黄金のリンディアが居る台座まで飛び上がった。
着地したフラムの姿を認めた黄金のリンディアは、大きく口を開ける。
「一匹相手なら、魔獣を召喚するまでもないわ!」
駆け出していたフラムは、リンディアが突風を吐き出すより早く飛び上がり、剣を抜き放ちつつリンディアの背後に降り立った。
突然奇声を上げたリンディアの尻尾は、綺麗に切断されていた。しかし、リンディアの尻尾は新たなものが直ぐに生えて来た。
「これは貰って行くわよ」
切断した尻尾を拾い上げたフラムも、そそくさと崖から飛び降り、ドゥーブの体を踏んでクッション代わりにしてから地上に降り立ち、ドゥーブと一緒にルシェールの所まで戻った。
「良くぞやった。まだ言いたい事もあるが、合格点はやれるじゃろう」
「手厳しい……」
パルがルシェールの肩からフラムの肩に戻った時、あらぬ方から空を劈くような咆哮が聞こえて来た。
「何の声!?」




