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炎の魔獣召喚士  作者: 平岡春太
 第一章 悪魔の科学者
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 第三話 剣士フリード

 フラム達が揃って声が聞こえて来た方に目を移すと、木の陰から、腰に剣を携え、鎧を身に(まと)った美形の男が姿を見せた。


「誰!?」


 フラムは素早い動きで背中の剣の柄を握る。

「おいおい、そんなに怖い顔しないでくれ。俺は戦う意思は持ってないって。それとも、こんな身形で盗賊にでも見えるのか?」

「盗賊団ならまだしも、単独で動く盗賊が盗賊ですよって格好をしているのもどうかと思うけど」

「なるほど、それもそうか。いやいや、盗賊なら金を持ってなさそうな女子供を狙うより、商人とか金を持ってそうな人間を狙うだろう」

「何で女子供がお金を持ってないって決めつけてんのよ。それに、お金を持ってる商人なら、腕のいい護衛を雇っているのが普通だし、お金がない女子供でも人質にはできるでしょう」

「確かにそれも言えるか……」

「あいつ何が言いたいんでヤンスか?」

「さあね」


 フラムは呆れた顔で剣の柄から手を放す。


「あれ? 俺が盗賊じゃないって分かってくれたのかな」

「盗賊かどうかは別として、今のところ敵対心がないって事は認めてあげる。今のところは、だけどね。それに、少し抜けてそうだし」

「抜けてる? 俺が? 何か引っ掛かる言い方だな」

「ああ、それとそれ以上近付かないこと。近付いたら直ぐに剣を抜くから」


 歩み寄ろうとした男をフラムの一言が制す。


「それで、盗賊じゃなきゃあ、あんたは何者なの?」

「ああ俺か? 俺は旅の剣士でフリードって言うんだ。で、旅の途中、森を歩いていたら声が聞こえて来たもんで、少し話を聞かせて貰っていたんだが、どうだ坊主、村を助けるってその依頼、俺に任せてみないか?」

「ちょ、ちょっと待ちなさい!」


 慌てて座っている岩から立ち上がったフラムは、その足音が聞こえてきそうな足取りでフリードに歩み寄り、少し離れた所から人差し指を振り向ける。


「随分と図々しいわね。こっちが先に依頼を受けたのよ。それを横取りしようっての? それじゃあ盗賊と変わらないじゃない」

「そいつは手厳しいな。俺はただ、強い方を雇った方が確実で早く盗賊団を片付けられると思っただけなんだけどな」

「あいつ、さらっと人を怒らせるよな事を言うでヤンス。それじゃあフラムが……ああ、手遅れでヤンスね」


 フラムの方を振り向くまでもなく、歯噛みする音が聞こえて来る。


「つまり何、あんたより私の方が弱いっていいたいわけ? 冗談、勝手に決めないでよね」

「いやいや、君が弱いって言っている訳じゃなく、俺が━━」


 フリードが言い終えるより早く、フラムが(さや)から剣を抜き、その切っ先をフリードに向ける。


「抜きなさい。相手をしてあげる」

「そう言うつもりじゃあなかったんだけどな……」


 フリードも溜め息を吐きつつ剣を抜く。

 慌てて立ち上がったウィルが止めに入ろうと駆け出すが、フラムの肩から飛び立ったパルがその前まで来て飛び塞がる。


「今行ったら危ないでヤンスよ」

「でも、二人をとめないと」

「もう遅いでヤンスよ」


 パルはウィルの頭の上に降り立った。


「それに、あのフリードとか言う剣士、悪い奴には見えないでヤンス。さすがに殺し合いにはならないでヤンスから、ここで少し見てるでヤンスよ」


 ウィルは納得した顔をしていなかったが、剣を構えて向かい合う二人のただならぬ雰囲気を前に、足が前に出なかった。

 ただ、フラムとフリードも、剣を構えたまま(しば)し動かなかった。


「口だけじゃなく、少しはやるようね」

「少しは、か。この状態で俺の強さが判るならきみもなかなかだと思うけどね。ああ、そう言えばまだ君の名前を聞いてなかったな」

「フラムよ」


 名前を言い切るより早く駆け出したフラムが振るった剣を、フリードが弾き返す。

 今まで動かなかったのが嘘のように、二人が振るう激しい剣技が打ち鳴らす甲高い金属音が響き渡る。

 余りの速さに傍観しているウィルもただただ目を丸くする。


「へえ~、これだけの剣技を持つ魔獣召喚士に会ったのは初めてだ」

「お褒め頂いてありがとう。でも、手は抜かないわよ!」

「結構、結構。こっちもそろそろ本気を出させて貰うからな」

「あら、強がり言っちゃって」

「強がりかどうか、直ぐにわかるさ」


 フリードの剣技の速さが更に上がる。

 フラムも何とか対応するが、徐々に圧倒され始め、防戦一方になる。

 二人の剣が合わさり、(つば)迫り合いとなるも、やはり力に勝るフリードが圧して行く。

 フリードの剣が、その顔が、ジリジリとフラムに近付いて行く。そして、


「え!?」


 フラムの唇に柔らかく生暖かい物が重なった。

 パルは滑り落ちるようにしてウィルの顔に張り付いた。


「見てはいけないでヤンス!」


 頬を赤く染めたフラムの手から剣が放れ落ちる。

 フリードは、固まってしまったフラムに背を向け、剣を鞘に納める。


「これで分かっただろう。俺の方が━━」


 フラムの方に向き直ったフリードの左頬に激しい痛みが走る。烈火のごとく怒りに表情を満たしたフラムのビンタだった。


「勝手なこと言ってんじゃないわよ! 確かに剣の腕はあんたの方が上かもしれないけど、私は魔獣召喚士なのよ。盗賊団が魔獣を使っているなら、魔獣を召喚してこそ勝負よ」


 フラムは素早くしゃがみ、自分の剣を鞘に納めてから右手を地面に下ろす。しかし、


「二人とももう止めて!」


 二人の間に、顔からパルを払い除けたウィルが割って入って来た。


「村がどうなっているか分からないし、こんな事してられないよ。二人とも雇ってもらえるか分からないけど、とりあえず二人とも村に来てよ」


 フラムは暫しフリードを(にら)んでいたが、ゆっくりと立ち上がる。


「この場はウィルに免じて魔獣は召喚しないであげる。ただ、剣の腕ではあんたが上でも勝負に負けたなんて思ってないんだから」


 フリードは痛む頬を撫でながら苦笑いする。

 フラムは、少し涙ぐんでいるウィルに笑いかけながら歩み寄る。


「ゴメンね。さあ、行こう」


 優しく話しかけ、フリードに向かってアカンベーをしてからウィルの背中を軽く押すようにして歩み出した。


「待ってでヤンス!」


 ウィルに払い除けられて飛んでいったパルも、慌ててフラムのもとまで飛び、その肩にとまる。


「こいつは参ったな。完全に嫌われちまったかな……」

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― 新着の感想 ―
[良い点] なんとフリードさん、フラムさんの唇を奪うとはけしからんですぞ〜だからいいぞもっとやれー(笑 いやー。しかしフラムさんも油断しちゃいましたね♪
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