第七話 釣り?
集まった兵士達が次々とイグニアに斬りかかる。
「まったく、面倒臭いわね!」
結構な数に対しても、イグニアは振るわれる兵士の剣を自らの剣で上手く捌き、隙を見て峰打ちで兵士を一人、また一人と気絶させて行く。
「へえ~、イグニアも結構やるもんね。前に見た時より腕を上げてるみたいだし。でも、まだまだ私には敵わないわね」
「どうだかでヤンス」
「何よ」
それほど時間が経っていない中、集まった半数近くの兵士が気絶して倒れていた、しかし、余りの多さに、イグニアの息も上がっていた。
「一斉に掛かれ!」
一人の掛け声と共に周りにいる数人の兵士がイグニアに襲い掛かり、イグニアはあえなく剣を叩き落され、捕まってしまった。
「放してよ!」
喚き散らし、暴れるも、数人に取り押さえられながら、イグニアは連れて行かれてしまった。
気絶している兵士は、他の兵士が抱えて連れて行く。すると、最初に厳重だったその場の警備がガラガラになっていた。
そこに、ディコが長めの竿とロープを持って戻って来た。
「あれ、さっきのお姉ちゃんは?」
「上手いこと兵士を減らしてくれたわよ。それよりも、来たばかりで悪いけど、ディコはドゥーブの様子を見て来てくれない? 私達も後からそっちに行くから」
まだ訳が分からず、首を傾げつつも、竿とロープをフラムに手渡したディコは、ドゥーブが穴を掘っている方に向かって歩いて行った。
「さて、こっちも始めますか」
その場にしゃがんだフラムは竿とロープをその場に置き、右手を地に下ろす。
「アルシオンボルトーア!」
魔獣召喚陣が現れ、光を放つ。
立ち上がったフラムは、召喚陣を前にして印を組む。
「魔界に住みし氷の魔獣よ。開かれし門を潜り出でて我が命に従え」
フラムの手の印が形を変える。
「出でよ、氷魔獣ヒュービ!」
光を増した召喚陣の光の中からヒュービが次々と合わせて五匹、飛び出して来た。
「ヒュービ、辺り一帯に目一杯冷気を吐き出して」
五匹のヒュービは大きく口を開け、上空に向けて勢い良く冷気を吐き出し始めた。すると、冷気が気化して辺り一帯に霧が立ち込めて行く。
残っている兵士達も、ただただ右往左往する。
視界が悪くなった所でヒュービは冷気を吐くのを止め、フラムの指示で召喚陣の光の中に戻って行く。全てのヒュービが光の中に消え、フラムが印を解くと共に召喚陣も消え去った。
「さて、今度はパルの出番よ」
「オイラの? 何をするでヤンス」
「じっとしてくれればいいのよ」
パルを肩から地面に降ろしたフラムは、ディコが持って来てくれたロープをパルの体に巻き付け、きつく縛り付け、一方の先を竿の先に括り付けた。
「何か、悪い予感しかしないでヤンス」
深い霧の中、兵士に気付かれることなく滝壺まで歩み寄ったフラムは、パルがぶら下がっている竿を振り、パルを水面の上に宙吊りにした。
「フラム、これは何でヤンスか?」
「見てわかるでしょう、釣りよ」
「それで、オイラは?」
「もちろん、エサ」
「オ、オ、オイラがエサ!?」
「ほら、来たわよ」
パルの下の水中に小さな影が浮かび、それが徐々に大きくなって行く。
「フ、フ、フラム! 来るでヤンスよ! 来るでヤンス!」
「騒がないの。獲物が逃げちゃうでしょう」
「無理でヤンスよ! 来る! 来る! 早く上げるでヤンス!」
「釣りは焦っちゃいけないのよ」
水面を覆い尽くさんばかりに影が広がった。
「今だ!」
フラムが竿を上げるが早いか、水の中からポポが水飛沫を上げて飛び出した。
「嫌でヤンス!!」
大きく口を開けたポポが飛び上がるパルに食いつく。もしパルが尻尾を上げてなかったら、完全に尻尾は持っていかれていたが、何とか食われずに済んだ。
「さあ、ちゃんと付いて来てよ」




