最終話 長い一日の終わり。そして……。
「お姉ちゃん! お兄ちゃん! パル!」
安全になったと確信してか、ウィルが村長と共にフラム達に駆け寄って来た。
「盗賊団をやっつけたんだね?」
「もちろんよ」
「いや、あいつらはどっちかと言えば自滅だろう」
「そうでヤンス」
フラムはとぼけた顔をする。
「まあ、そうも言えるかな。でも、もう村が襲われる心配ないわ」
「本当に有難うございました」
「ただ、村が少し壊されてしまったけど」
「そうですね。でも、あの程度なら直ぐに復興できますよ」
「それにしても、あのおっきい魔獣があらわれた時はビックリしたよ。あんな魔獣がいるなんてさ」
「あいつをやっつけたのは私ですからね」
「本当? すっごい!!」
そこに、今まで何処かに隠れていたドゥーブが寄って来た。
「何だ、この魔獣?」
「おい、ウィル」
不用意に近付こうとするウィルを、村長が止めようとするが、ウィルはドゥーブに抱き付いた。
「やわらか~い」
「大丈夫ですよ。そのドゥーブは私の魔獣ですから。それに元々害はない魔獣なんで」
「それよりフラム、腹が減ったでヤンスよ」
「そうね。夜通し戦っていたものね。さすがに私もお腹が減ったし、へとへとよ」
「そうか? 俺はまだ元気だぞ」
「あんたはおかしいのよ。ランボルトの電撃を受けて無事なだけでもおかしいのに、直ぐに動いたばかりかランボルトを真っ二つにって、普通じゃあり得ないわよ」
「オイラでもランボルトの電撃には目を廻したでヤンス」
「なら、俺は竜魔獣以上って事だな」
「そんな訳ないでしょう。本当にバカなんだから」
「でヤンスね」
「まあまあ」
村長が苦笑いしながら止めに入る。
「そう言う事ならうちでご馳走しますよ。妻にもご馳走出来るように、先に多めの料理を用意してくれと言ってありますんで」
「それは助かる」
「当然ですよ。お二方は村を救ってくれた英雄ですから」
「ちょっと、ちょっと、オイラも居るでヤンスよ」
「あ、失敬。小さな英雄さんもね」
「英雄でヤンスか……」
「何、のぼせ上がってんのよ」
フラムがパルにデコピンを入れる。
「ただ、昨夜偽の魔獣召喚士に大盤振る舞いしてしまって、それほど豪華と言う訳にはいきませんが」
「あのバカ魔獣召喚士」
フリードはラルヴァが元々剣士だとはとても言えなかった。
「それに、お二方に渡す残りの報酬も、盗賊団が居なくなってしまっては、探すこともできなくなってしまって、どうしたものやら」
「その点は大丈夫。アルドの貯め込んでいた金品を使えばいいのよ。どうしようもない研究で得たお金なんだし、もう持ち主も居ないんだから、私達に報酬を払って、村の復興に使ってもお釣りが出ると思うわよ」
「そりゃあいい。お前、頭いいな」
「頭を使わないあんたとは違いますからね」
「そりゃないだろう」
落ち込むフリードの周りを、ウィルを頭に乗せたドゥーブが走り廻る。
「それと、盗賊団に奪われたお金も、盗賊団の臭いが付いたものがあれば、そのドゥーブを使ってアジトが分かるはずだから、そこにあれば見つかるはずよ」
「お前、そんな事も出来るのか」
ドゥーブに乗っているウィルが頭を撫でると、ドゥーブが応えるように鳴き声を上げる。
「何から何まで助かります」
「ああ、それとアルドの魔導具はそちらで処分して貰える。またどんな事が起こるか分からないし」
「それはもう、こちらも重々承知しておりますので。さあ、それでは家に参りましょうか」
村長の家に行ったフラム達には、婦人によって料理が用意されていた。村長が言っていた通り、さほど豪華なものではなかったが、話を聞きつけた村人達がお礼にと次々と料理を持ち寄り、その数は昨日と同じ宴会を催す程になり、村人達も相俟って、ちょっとした賑わいとなった。
宴会が催されている間に、他の村人達がフリードが村の中で倒した盗賊の遺留品からドゥーブに臭いを嗅がせ、それを辿って盗賊団が拠点としていた場所に辿り着き、村から奪って行った物もそこに残されていたのを発見していた。
また、ジュモグリエに迷いの森を破壊された事で普通に行けるようになったアルドの研究所も、その裏口から隠し部屋の金品を村人達が持って帰って来た。
残された魔導具は、悪用されないように村人達が破壊し、別の地下深くに埋める事となった。
アルドの遺産の御蔭で、フラムとフリードは約束以上の報酬も手に入れる事となり、二人が顔を綻ばせたのは言うまでもない。
疲れもあって、この日も村に泊まる事になったのだが、もちろん宿屋ではなく村長の家に泊った。
こうして長かった一日が幕を下ろした。
翌朝、フラムが旅立つと言う事で、村のはずれに村長をはじめ、村の人達が見送りに出ていた。ただ、フリードは何も言わずに部屋から消えていた。
「まったく、出て来た時も突然だったけど、居なくなる時も突然なんだから」
「ほら、食事の時に、旅の剣士は気ままだから別れは似合わないって言ってたでヤンスよ」
「そう言うキザな所も少し引っかかるのよ」
「確かにキザはキザでヤンスけどね。でも、そう言って気になっているんじゃないでヤンスか? 何せ、あいつはフラムの初め━━」
肩に乗るパルの頭に、フラムの拳がヒットして、大きなこぶが膨れ上がる。
「今度言ったらそれじゃあすまないわよ」
「ゴメンでヤンス……」
「まあまあ、とりあえず本当に有難うございました」
村長が少し顔を引きつらせながら切り出す。
「村人一同も感謝しております」
村人達が一斉に頭を下げて、さすがにフラムも恐縮する。
「それにしても、もう一日ぐらいゆっくりしていらしたら良いのに。もう少しおもてなしさせて貰いますよ」
「ありがたいですけど、私はフリードと違って勝手気ままな旅じゃありませんから」
「そう言う事なら仕方ありませんね。おいウィル、フラムさんはもう旅立つそうだ。早くその魔獣をお返ししなさい」
ウィルはドゥーブが気に入ったらしく、フラムが気を遣って戻さなかったドゥーブに乗っているが、寂しそうな顔をする。
「いいんですよ。そのドゥーブは置いていきますから」
「本当に? やったー!」
ウィルを乗せたドゥーブが走り廻る。
「よろしいんですか?」
「ええ、ドゥーブもウィルに懐いているみたいですし。ウィル、ちゃんと可愛がってあげてよ」
「もちろん!」
ドゥーブも嬉しそうに飛び跳ねている。
「それに、色々と役にも立ってくれるはずですよ。例えば、ジュモグリエの灰がこんなに残っているんだし、供養も兼ねてそれを土に混ぜて新しい畑を作るなら、ドゥーブに任せれば直ぐだし、残った骨は……」
フラムは村長に寄り、耳打ちする。
「骨は見世物にすればお客が寄って来ますよ。竜魔獣の骨なんて、何処を探してもないでしょうからね。それで得た一割を……」
「やっぱり金の亡者でヤンス」
フラムの刺さるような視線がパルに向き、パルはフラムの肩から慌てて飛び立った。
「これ以上殴れば、魔獣虐待でヤンス!」
「あんたは口が悪いのよ!」
フラムもその後を追おうとしたが、思い出したように後ろを振り返る。
「それじゃあ。機会があったら、また来ますから」
笑顔を残してからパルの後を追う。
「こら、待ちなさい!」
こうしてフラムは村人達に見送られ、バルバゴの村から旅立って行った。
《第二章へと続く……》




