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炎の魔獣召喚士  作者: 平岡春太
 第一章 悪魔の科学者
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 第十九話 最後の賭け

「フラム!!」


 パルの悲痛な叫び声が上がる。が、


「呼んだ?」

「??」


 あらぬ方から聞こえて来た馴染みの声に目を向けると、フィールの背に乗るフラムの姿があった。村長を村に送り届けたあとに戻って来たフィールが、寸前の所でフラムを横から(さら)って行ったのだ。

 フラムが礼を言うと、フィールもそれに応えるように鳴き声を上げる。


「良かったでヤンス」


 ホッとしたのも束の間、パルをジュモグリエの左の頭が吐いた冷気が襲い、パルも何とか猛スピードで(かわ)した。


「まったく、油断するからよ」

「それはお互い様でヤンス!」

「それもそうね。それに、助かったのはいいけど、あの硬い鱗じゃあフリードも傷付けるのがやっとみたいだし、せめて剣が刺さる所があればいいんだけど……そうよ、目は━━いえ、目は傷付けられるでしょうけど、それだと余計に暴れるだけだろうし、村がそれこそなくなっちゃうわね」


 思考に暮れる中、ジュモグリエが足をゆっくりと延ばし始めた。


「早くしないと━━そうだ、あったわ。まだ試していない所が。でも、一か八かの賭けになるわね。いえ、考えてる暇はないわね。フィール、こいつの真正面から、右の頭に向かって飛んでちょうだい」


 フィールは旋廻してジュモグリエの前に廻り、右の頭に向かって飛んで行く。ジュモグリエの気を引いていたパルの横を抜け、更に向かって行く。


「フラム、何をするつもりでヤンス!?」

「あいつに一刺しくれてやるのよ!」


 フラムは剣を鞘に戻し、フィルの背に立った。

 ジェモグリエの右の頭は、フラムを待ち構えるがごとく大きく口を開けて行く。


「あのバカ、何をやってんだ! あれじゃあ自殺行為だ。止めろ!!」


 下方から見上げるフリードが叫ぶも、遠すぎてその声は届かない。

 

「今だ!」


 ジュモグリエの右の頭が大きく口を開けた所で、フラムはフィフィールの背を蹴って飛び出し、ジェモグリエの右の頭の口の中に飛び込んだ。

 主を失ったフィールが旋廻してジェモグリエから飛び離れる中、ジェモグリエの右の頭は口を閉じ、ゴクリと喉を鳴らす。


「あいつ一体何を……!?」


 フリードは呆然と立ち尽くす。


「フラムが……フラムが食べられたでヤンス…………」


 パルも悲しみに気力を失いそうになるが、直ぐに一転して言いようのない怒りが込み上げて来る。


「くっそぉ、フラムを、フラムを返すでヤンス!!」


 ジュモグリエの右の頭に飛び寄り、食い掛って来る頭を掻い潜りながら、蹴りを入れる。


「返せ! 返せ! フラムを返せ!!」


 何度も蹴りを入れ、炎を吐くが、ジェモグリエはまるで意に返さず、逆に左の頭がパルに向かって大きく口を開けている事に、パルは気付かなかった。


「しまったでヤンス!!」


 今にも冷気を吐きそうだったが、急に二つの頭が奇声を上げる。

 パルが下を見下げると、フリードがジュモグリエの足を斬りつけていた。


「こうなったら足一本でも斬り落としてやる!」

「こっちも負けられないでヤンス!」


 パルも二つの頭に気を付けながら蹴りを入れ、炎を吐く。すると、ジュモグリエが急に苦しみ始めた。


「あれ、オイラの蹴りが効いたでヤンスか?」


 二つの頭が奇声を上げ、激しく頭を振って苦しむ中、大きく開いた右の頭の口から何かが飛び出した。


「フラム!!」


 パルが歓喜の声を上げる。

 落ちて行くそれは、正しく自らジュモグリエの口の中に飛び込んだフラムだった。

 飛んで来たフィールが背中でフラムをキャッチした直後、ジェモグリエの右の頭の口から炎が噴き出す。更に左の頭の口からも、冷気ではなく炎が噴き出した。


「パル、早くこいつから離れるわよ! あんたも!」


 フィールの背からフラムがパルとフリードの指示を出す。

 訳も分からないままジュモグリエからフラム達が離れた直後、ジュモグリエの体の至る所から炎が噴き出し、その体全体が炎に包まれてしまった。

 炎の中でジュモグリエは奇声を上げて苦しむ。

 少し離れた場所でその様子を見ているフリードの元に、フィールに乗るフラムとパルが降下して来た。


「フラム……本当にフラムでヤンスか?」


 フィールから飛び降りたフラムの肩にとまるパルが、泣きそうな声で言う。


「失礼ね。こんな美しい人間が他に居る?」


 パルとフリードの冷たい視線がフラムに突き刺さる。


「確かに本物でヤンス」

「だな」

「何よ、二人して!」 

「まあまあ、それにしてもこの魔獣どうなってんだよ? 急に体から炎が噴き出してこんなになっちまってるけど」

「炎を生み出す炎袋に一刺し入れてやったのよ」

「なるほど、そこから炎が噴き出して暴発した訳か。でも、それってお前」

「ええ、外は鱗で覆われていて中なら剣がさせるかもって考えたんだけど、もし中も硬かったら死んでたわね」

「無茶苦茶でヤンス」

「それに炎袋を探すまでに炎を吐かれても終わってたし。でも、私が食べられたと思って、あんた達が外で暴れてくれたお陰で炎を吐かなかったみたいね」

「まさかお前、それを見越して何も言わずにあの魔獣の口の中に飛び込んだのか?」

「時間がなかったって言うのもあるけどね」

「お前、タチが悪いぞ」

「作戦よ、作戦。後は、炎袋から噴き出した炎が追っかけて来る速さと私の逃げ足とどっちが早いかって事ね。出来れば、あんたの方が足も速そうだし、代わって貰いたかったけど、高い所は苦手でしょう」

「それを言うなって」


 ジュモグリエを包んでいた炎が消えた後には、大量の灰の山と大きな骨が燃え残っていた。  

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