第十三話 ケイハルト死す?
氷のトンネルを全力で疾走するフラムの後方から、フラムが斬り裂いたジェモグリエの炎袋から噴出した業火が勢い良く追い掛けて来る。
圧倒的な速さで迫り来る炎に、フラムも死を覚悟した。が、その間に突如として氷の壁が出来て通路を塞ぐ。
炎は氷の壁をも突き破り、直ぐにフラムの追撃に移るが、更に氷の壁が現れ、破られても何度も現れる氷の壁に、フラムが逃げる時間を稼ぐ。
「アインベルク様とシャルロアね。これなら!」
フラムは一度も振り返る事なくその足を進めた。そして遂にその先に出口を認め、外で燃え盛る炎魔獣の炎に対処する為に再び体に冷気を纏い、一気に飛び出した。
外にも氷のトンネルが作られていて、炎魔獣によってジェモグリエの体を包む炎を防いでいたが、炎袋の炎がフラムを追って背後の穴から噴き出し、フラムの背中を押すように吹き飛ばした。
「フラム!」
パルの悲痛な声を耳にしたフラムを、正面からしっかりと受け止めたのはフリードだった。
「大丈夫か?」
「助かったわ」
多少の軽い火傷は見て取れたが、飛び出す寸前に体を冷気で包んだ御蔭で、大怪我にならずに済んだ。
「フラム、無事でヤンスか?」
フラムの顔にパルが勢い良く張り付いた。
「見たら分かるでしょう!」
邪魔だと言わんばかりにフラムはパルを引っぺがす。
地面に叩き付けられたパルは目を廻す。
「元気でヤンス……」
「無茶し過ぎですよ」
「あなたはいつもそうです。下手をすれば死んでいましたよ」
シャルロアとアインベルクも苦言を呈しながら歩み寄って来た。
「確かにもう少しで丸焦げだったかな。今ほどあんたの逃げ足が羨ましいと思った事はなかったわ」
もちろん、フリードの事だ。
「逃げ足ってお前な」
「違うの?」
「どう考えても逃げ足でヤンス」
パルにまで言われては苦笑いで返すしかない。
「そう言えば、あいつは? シュタイルだっけ」
「ああ、あいつなら用は終わったって、とっとと行っちまったよ」
「ダルメキアの存亡がかかった大事な時なのに? まあ、ジェモグリエを斬っただけでもマシか。あのままだと口に入っても炎を吹かれて終わってたし、直接炎袋を斬れたから」
「いや、俺も斬ったんだけどさ……」
「そうそう、あんたもね。御蔭で助かったわ」
ついでのような言い方に、フリードは肩を落とすも、一応は礼を言われ、苦笑いで返す。
「呑気なものですね。それもこれも全ては結果論です。私達が居なければどうするつもりだったのですか?」
「でも、残る術はあれしか残ってなかったし、それに伝えている時間もなかったから。私はみんなを信じてましたから」
「フラムさん……」
「全く、よく言いますね、あなたは。まあ、結果的ですが上手く行った事ですし、今回は良しとしておきましょうか」
とりあえず小言が多いアインベルクに納得して貰い、ほっと胸を撫で下ろすフラムの目は、他の者達と共に燃え盛るジェモグリエに向く。
自らの炎袋の炎によって燃え盛るジェモグリエの寸断された体は、先程までとは違い、復元を許されずに徐々に燃えて灰と化して行く。
更に、召喚された多くの炎魔獣の炎を加えた事で、その骨までも以前のように残る事なく灰と化して行く。
「こんなでっかい魔獣と戦うなんてもう懲り懲りよ」
「そう願いたいものですが」
「それはどう言う━━」
アインベルクがポツリと洩らした言葉に、フラムが眉を顰めたその時、
「フラム! フラム! フラム!」
肩に乗って来た突然パルが喚き出す。
「何なのよ、騒がしいわね」
「あそこでヤンスよ! ケイハルトが!」
「ケイハルト?」
血相を変えたパルが指差すその先に、その場の全員の視線が集まり、アインベルク以外の顔が驚愕に染まる。
「あれは!?」
少し離れた場所にライオとケイハルトの姿があった。
ただ、ケイハルトの後ろには姿を消していたビエントが立っており、手にする三叉戟がケイハルトの体を貫いている。
顔を苦痛に歪めるケイハルトの口は血に染まっていた。




