第十八話 見た目によらず
「何か他にいい策はないのか?」
「他にって言ったって、竜魔獣に対抗出来るのは基本的に竜魔獣だけだし……」
フラムは上空を見上げてパルを見るが、直ぐに首を横に振る。
「あと、考えられるとすれば、他の魔獣なら弱点を考えるべきなんだけど」
「弱点? こんなバカでかい奴に弱点なんかあるのかよ」
「さあね。あるかもしれないし、ないかもしれない。竜魔獣を相手にするのは当然初めてだもの。それに、弱点があったとしても、そこをつけるかどうか。でも、もうそれに賭けるしかないでしょうね」
「確かにそうかもな。弱点か……」
フラムはまた上空を見上げる。
「パル、あんたは何とかジェモグリエの注意を引いといてくれる!」
「え、、オイラがでヤンスか? サウロンの注意を引くのとは訳が違うでヤンスよ!」
そうこうしている内に、ジェモグリエはバルバゴに差し掛かり、建物を破壊し始めた。
「早くしないと、村がなくなっちゃうでしょう!」
「分かったでヤンスよ!」
パルはジェモグリエの前に廻り込み、飛んで廻ってそれ以上前に進まないように注意を引き付ける。
その間にフラムはしゃがみ、右手を地面に下ろす。
「アルシオンボルトーア!」
素早く立ち上がり、現れた召喚陣を前にして印を組む。
「魔界に住まいし属性なき魔獣よ。開かれし門を潜り出でて我が命に従え」
両手の印が形を変える。
「出でよ、魔獣ドゥーブ!」
召喚陣の光の中からドゥーブが飛び出して来た。それも一匹ではなく次々と、その数は十匹を数えた。
「おいおい、何でその魔獣を召喚したんだ? どう見ても戦い向きじゃないと思うぞ。ましてやこんなデカぶつに相手にならないだろう」
「確かにね。でも、戦い方で役に立ってくれるのよ。見てなさい。ドゥーブ、ジュモグリエの左の後ろ足の前辺りに穴を掘ってちょうだい。大きく、より深くね」
十匹のドゥーブは、ジュモグリエに恐々としながらも、言われた通りに穴を掘り始めた。そのスピードは異常に早く、あっと言う間にジュモグリエの足がすっぽりと入る程の穴が出来上がった。
ジュモグリエの左の後ろ足が上がったのをみたドゥーブ達は、慌ててフラムの方に退散し、一匹を残して次々と召喚陣の光の中に消えて行った。
フラムが印を解くと共に、召喚陣が消える中、ジュモグリエはドゥーブが掘った穴で足を踏み外し、バランスを崩して四つ足の膝を折って地に伏してしまった。
「どう、これで少しは時間が稼げるわよ」
「へえ~、やるもんだな」
「だから言ったでしょう。ドゥーブは色々と役に立ってくれるんだから。さあ、今度は私達の番ね」
「どうするんだ?」
「とりあえず私は上を攻めてみるから、あんたは下の方を攻めて弱点を探してみて。どうせ高い所はダメでしょから」
「何か一言多いんだよな」
「それじゃあ上に行ってみる?」
フリードは慌てて首を横に振る。
「分かった、分かった。俺が悪うございました。でも、お前はどうするんだ? 上ってこの高さだぞ。さっき村長を乗せてった魔獣も居ないし、また召喚するのか?」
「何度も召喚術を使うのは結構疲れるのよ。だから、ドゥーブを一匹だけ残したってわけ。じゃあ、下は頼んだわよ」
ドゥーブに向かって飛び上がったフラムは、ドゥーブの体の上に勢い良く降り立った。すると、ドゥーブの体がゴムのように縮み、直ぐに伸び上がると共にフラムの体が勢い良く飛び上がった。
フラムは物凄いスピードで上昇し、山のように大きな体のジュモグリエの背中に一気に降り立った。
「すげぇ~、お前は本当に役に立つな」
フリードがゴムまりのようなドゥーブの体を弾ませると、ドゥーブも嬉しそうに鳴き声を上げる。
「さてと、上には来たものの、どうしたものかな。ま、とりあえず斬ってみますか」
ジュモグリエの背中に乗ったフラムは、剣を抜き放つなり、ジュモグリエの体に振り下ろした。しかし、幾ら斬れども突けども甲高い金属音を打ち鳴らすばかりで、ジェモグリエの体には傷一つ付かない。
「やっぱりダメか。鱗が硬すぎるわ。そもそも竜魔獣を斬ろうって言うなら。竜殺しの剣でもなきゃあ無理に決まってるじゃないのよ」
フラムが愚痴を溢していると、ジュモグリエが突然奇声を上げ、体を揺すり出した。
「何! 何! 何! 何で急に苦しみ出したの!?」
何とか振り落とされないようにバランスを取ったフラムは、下の方を覗き込んだ。すると、フリードが振るった剣が、ジュモグリエの皮膚を浅くだが斬り裂いていた。
「あいつ一体何なのよ? 持ってる剣はとてもドラゴン・スレイヤーには見えないけど……」
「フラム、何してるでヤンス! 後ろでヤンスよ!」
パルが叫ぶ声に反応し、後ろを振り返ったフラムの目に、ジェモグリエの右の頭が背の方に向きを変え、大きく口を開けている姿が飛び込んで来た。
「しまった!」
最早動く事も叶わず、思わず目を瞑ってしまったフラムに、ジュモグリエの右の頭が炎を吐いた。
ジュモグリエが炎を吐き終え、フラムが立っていたその場所には、塵一つ残ってはいなかった。