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炎の魔獣召喚士  作者: 平岡春太
 第一章 悪魔の科学者
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 第十七話 復讐と言う名の暴走

 まるで反り立つ壁のような物がフラム達の目の前を上に伸び上がって行く。ゆっくりと姿を現して行くそれは、体長が五〇メートルはあろうかと言う双頭で四つ足の竜魔獣であった。


「こいつも魔獣なのか?」


 フリードもようやく立ち上がり、上を見上げるが、それは魔獣と言うよりも正に山だ。


「私もパル以外の竜魔獣を実際に見た事がないから何とも言えないけど、大国立魔導図書館にあった竜魔獣の図鑑に載っていたのを覚えているわ。名前は確か……そう、ジェモグリエ。本物の竜魔獣よ」

「ちょ、ちょっと待つでヤンス。オイラも本物の竜魔獣でヤンスよ!」


 そんなパルの怒鳴り声も一瞬にして掻き消してしまう程の二つの頭が一斉に上げた咆哮が大地をも揺るがし、フラム達は慌てて耳を塞ぐ。

 ただ一人、違う場所で印を組んだままのアルドだけは、歓喜に打ち震えていた。


「おお、さすがは竜魔獣よ。遂にこの私が竜魔獣を召喚したのだ。いや、喜ぶのはまだ早いな」


 アルドが組んでいる印が更に形を変える。


「現れ出でし魔獣よ。今より我が下僕(しもべ)となりて、全ての命に従う事を我が最初の命とする……操縛(オルチェイン)!!」


 ジェモグリエの足元に輝く召喚陣から無数の稲妻のような物が飛び出し、ジェモグリエに激しい電撃を与え始めた。

 ジェモグリエの左の頭が冷気を吹き出し、右の頭が炎を吐くと共に、天を割るが如く奇声を上げ、暴れて地響きを起こす。


「おい、今度は何の騒ぎだ?」


 フリードが後退りしながら言う。


「あの変態オヤジが何処かで操縛の印を掛けているのよ。ただ、実力に見あった魔獣なら直ぐに従えて収まるはずなんだけど、魔獣の方が力があるもんだから拒否反応を起こしているのよ」

「このままだとどうなるんだ?」

「魔獣は操縛の印を解く為に印を掛けている魔獣召喚士を探すのよ。はら、見つけたみたいね」


 苦しみつつも、ジュモグリエがアルドの方にゆっくりと向きを変える。


「やっぱり駄目か。操縛の印をどうにかする研究だけはどうにも出来なかったからな」


 言葉とは裏腹に、落胆するどころかアルドの顔から笑みが絶える事がなかった。


「後は頼んだぞ。必ずや恨みを晴らしてくれ。この身が死しても私は痛くも痒くもないからな。私の意思はまだこの世界に存在するであろうからな」


 ジュモグリエの右の頭がアルドに炎を吐き、アルドは高笑いを残して一瞬にして灰となって消えてしまった。それと共に召喚陣から出ていた電撃が消え、召喚陣そのものも消え去った。


「あれ、魔獣召喚陣が消えたぞ?」

「言ったでしょう。今の炎で変態オヤジが殺されたのよ。竜魔獣を召喚する事が出来ても、操縛の印を掛ける所までは研究出来ていなかったようね。ただ、よりによって竜魔獣なんか召喚しちゃった上に野放しにして、どうしろって言うのよ。このまま大人しくしてくれればいいんだけど」


 その願いも虚しく、ジェモグリエは動き出して向きを変えた。


「どうして向きを?」

「ちょっと待ってるでヤンス」


 フラムの肩から飛び立ったパルが、一気に上昇して行く。そして、


「サウロンがジェモグリエを威嚇(いかく)して、誘導しているでヤンスよ!」


 上空から報告する。


「どうやらあの変態オヤジ、先にサウロンに命令していたようね。方向からしても、狙いはバルバゴへの復讐だわ」

「ちょっと待って下さい! あんな大きな魔獣が村を襲ったら、一溜まりもありませんよ! どうにかして下さい!」


 縋がるような村長の目が、フラムに刺さる。


「どうにかって言われてもね。じゃあ、とりあえず村長さんはフィールで村まで行って、村の人達を避難させて下さい。後はどうにか考えてみますから」

「本当ですか? 頼みます。どうか村を助けて下さい」


 村長は傍で待機していたフィールの背中に乗る。


「フィール、その人をこの先の村まで送ってあげて。お願いね」


 フィールは応えるように一鳴きし、村長を乗せたまま飛び立って行った。


「それで、何かいい案でもあるのか?」

「ある訳ないでしょう」

「おいおい、さっき村長にそれらしい事を言ってたじゃないか」

「ああでも言わなきゃ、村長さんも納得しないでしょう」

「フラム、サウロンがやられるでヤンス!」


 氷魔獣は基本的に冷気には耐性があり、簡単に凍り付いたりしないのだが、ジュモグリエの左の頭が吐いた冷気を浴びてサウロンは完全に凍り付いて動きを止めてしまった。

 そのまま下に落ちて行きそうになった所に、今度はジュモグリエの右の頭が吐いた炎がサウロンを跡形もなく燃やし尽くしてしまった。


「これで止まってくれれば……」


 誘導役を失い、止まってくれればと言う願いも虚しく、ジェモグリエの視界にバルバゴが留まり、そちらに向けて進撃が始まった。

 その直後、村の方からけたたましい鐘の音が聞こえて来た。

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