第十六話 最凶の召喚
「ええい、本当に邪魔な小竜だ。これならどうだ!」
アルドの指輪から触手が一本飛び出し、パルを襲う。
パルは炎を吐いて焼き払ったが、直後にサウロンが吐いた冷気をまともに受けてしまい、一瞬にして凍り付き、落ちて行ってしまった。
「ざまあみろ!」
アルドが下を見下げたその時、上から黒い影が降って来た。気付かれないように、静かに舞い上がっていたフィールから飛び降りて来たフラムであった。
「貴様、いつの間に!?」
フラムが振るって来た剣をアルドは何とか剣で受け止めるも、バランスを崩してサウロンから落ちてしまった。
気付いたサウロンが激しく暴れ、落とさないように粘るフラムを何とか再び振り落とし、アルドの後を追う。
フラムは直ぐに飛んで来たフィールが受け止め、落ちて行くアルドを目で追う。
眼下に広がる迷いの森にアルドの姿が消え、直後にサウロンも突っ込んで行った。
直ぐに森の中からサウロンが飛び上がって来たが、その背にアルドの姿は無かった。
「どうなったの? 落ちた? いえ、音はしなかったわ」
間一髪の所で急降下して来たサウロンの背中に救われたアルドは、そのままサウロンの背から転がるように直ぐ下まで来ていた地面に落ち、サウロンにはそのまま飛び上がるように指示していた。
「危ない、危ない。バルバゴに復讐するまでは死ねるものか」
立ち上がったアルドは胸元を探り、嵌めている指輪とは形が違う五つの指輪を取り出し、左右の空いている指に適当に嵌めて行く。
「殺される前に溜めていた魔力がここで役に立つとはな。ここまで来れば、誘導する事も出来るはずだ」
アルドはしゃがんで左手を地に下ろす。
「アルシオンボルトーア!」
フィールの背から見下ろすフラムの目に、迷いの森いっぱいに輝く魔獣召喚陣が飛び込んで来る。
「やっぱり生きていたのね。それにしても何よ、このバカでかい召喚陣は。あの変態オヤジ、まさか! この森の中じゃ探す事も出来ないし。全く、あの変態オヤジ!」
フラムはフィールを急降下させる。
地上では、凍り付いたパルを見つけたフリードが、近くに落ちていた木の枝でつついていた。傍には村長が呆れ顔で立っている。
「ちょっと、何してんのよ」
「いや、放っておいても溶けんのかなって」
「いいから、そこを退いて。フィール、お願い」
フィールが吐いた炎が、一瞬にしてパルの氷を溶かす。しかし、
「あち~でヤンス!!」
飛び上がったパルのお尻辺りに小さな火が灯っている。
「とりあえず、そっちはオッケーね。村長さん、早くフィールの背に乗って」
「何でそんなに焦ってるんだ?」
呑気なフリードに、フラムは少し苛立ちを見せる。
「あの変態オヤジが竜魔獣を召喚しようとしてるみたいだから、早く召喚陣から出ないとまずいのよ」
「ちょっと待てよ。まずいって、じゃあ俺は?」
「あんた高所恐怖症なんでしょう。足も早いんだから、頑張って走りなさい」
フラムと村長を乗せたフィールはあっと言う間に飛び去って行った。
「待ってでヤンス!」
ようやく火が消えたものの、お尻から白煙を上げているパルも慌てて後を追う。
「走れったってな。ま、仕方ないか」
フリードもフィールが飛び去った方向に向かって走り出した。
その頃、アルドは魔獣召喚陣の外まで駆け抜けていた。さすがに息を弾ませていたが、休む事なく召喚陣を前にして印を組む。
「魔界に住まいし魔獣を君臨する最強の魔獣の種族たる竜魔獣よ。今こそその雄偉たる姿をここに現したまえ」
手の印が形を変える。
「出でよ、竜魔獣ジュモグリエ!」
巨大な魔獣召喚陣の輝きが増すと共に、他の魔獣を召喚する時とは違い、大地が激しく揺れ始めた。
丁度その頃、召喚陣の外に出たフラムと村長がフィールの背から降りた所だった。フラムの肩にはパルの姿もある。
「じ、地震?」
「いえ、あの変態オヤジが最悪の召喚をしたのよ」
森の木々を薙ぎ倒しながら、地面から巨大な影がせり上がって来た。
「待ってくれ!!」
倒れて行く木々の間から、フラム達の元にフリードが飛び出して来て、そのまま大の字に倒れてしまった。
「間に合った……」
「あんた、本当に足が速いのね」
「そりゃあどうも…………おいおい、何だよ、こりゃあ!?」