第十五話 空中戦《ドッグ・ファイト》
「これは……!」
驚きの声を上げた村長だけではなく、フラムとフリードも思わず足を止めて驚いた。
アルドを追って通路のような場所を少し走った先に、少し開けた部屋のような場所があったのだが、そこには数々の宝飾品や魔導具らしき物が貯め込まれて置いてあった。
「こんな所に隠してあったんだ」
「フラムさん、フリードさん、早く!」
村長は驚きもそこそこに、二人を急かす。アルドを止めないと村が襲われる━━そんな思いが気持ちを急き立てる。
再び通路らしき道を急ぐと、その先が徐々に明るさを帯び始め、通路いっぱいに光に満ちた中に全員が飛び込んだ。
ようやく出る事が出来た外は、もう夜が明けていた。
少し開けたその場所に、アルドの姿があった。召喚したのか、青白い毛に覆われた大きな鳥のような氷魔獣の背に乗ろうとしている所だ。
「お前達、どうやってここに!? 新たに魔獣を召喚する暇もなかったはずだ」
「召喚するも何も、もうフラントが居たじゃないのよ」
「何を言っている。あの鉄の柵はフラントごときの衝撃や炎の熱でどうこうなる物ではないぞ」
「私のフラントを、そこら辺のフラントと一緒にしないで欲しいわね」
「ほう、益々お前の体が欲しくなったぞ。ただ、それは村に復讐してからだ。サウロン、飛べ!」
アルドを背に乗せた魔獣サウロンが、勢い良く飛び上がった。
「待ってくれ!!」
村長が呼び止めるも、止まるはずもない。
「慌てなくても大丈夫よ。パル、足止めをお願い」
「任せるでヤンス」
パルも飛び立って後を追う。
フラムは素早くしゃがみ、地に右手を下ろす。
「アルシオンボルトーア!」
魔獣召喚陣が現れ、光り輝く。
「フラントは戻りなさい」
立ち上がったフラムが退いたところで、フラントは召喚陣の光の中に消えて行った。
フラムは召喚陣を前にして印を組む。
「魔界に住みし炎の魔獣よ。開かれし門を潜り出でて我が命に従え」
フラムの手の印が形を変える。
「出でよ、炎魔獣フィール!」
召喚陣の光が増し、その中から真紅の毛に覆われたサウロンに似た魔獣が飛び出した。
「もう一人は乗れるんだけど、どうする?」
フラムがフリードを誘うが、フリードは慌てて手と首を振る。
「俺は高い所はちょっと……」
「あれ~、もしかして高所恐怖症? 全く、肝心な時に役に立たないんだから」
茶化すのもそこそこに、フラムはフィールの背に乗った。
「フィール、あのサウロンを追って!」
フィールは翼を広げ、勢い良く飛び上がった。
「退け、邪魔な小竜め!」
サウロンに乗っているアルドが、周りを飛び廻るパルに向かって剣を振るうが、パルは動き廻って上手くかわす。全く反撃こそ出来ていないが、足止めには十分だった。
「くそ、もう上がって来たか」
上昇して来るフィールの背でフラムは剣を抜き、サウロンと擦れ違いざまにアルドに剣を振るった。それにアルドが剣を合わせて弾き、甲高い金属音を打ち鳴らす。
今度は旋廻して降下して来たフィールが口から炎を吐き、それをサウロンが口から冷気を吐いて迎え撃つ。
フラムはフィールがサウロンに近付いた機を見てサウロンに飛び移った。透かさずアルドに斬り掛かるが、アルドも剣を合わせて受け止める。
「舐めるなよ、小娘。このアルド、召喚する力には恵まれなかったが、剣の腕はそこらの剣士にも負けぬ」
「あら、奇遇ね。剣の腕なら私も自信があるんだけど」
二人が激しく剣を打ち鳴らす中、サウロンが体を跳ね上げ、上手くフラムだけを振り落とす。
投げ出されて落ちて行くフラムを、フィールがその背で受け止める。
「ありがとう、フィール」
応えるようにフィールも声を上げる。
「でも、言うだけあって剣の腕はなかなかね。こんな時にあいつが乗ってれば……ダメダメ、ここは私が何とかしないと」
一度下に向けた視線を、上に向ける。
上空では、フラムに代わってパルがサウロンに乗るアルドに応戦してくれている。
「見てなさい!」