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炎の魔獣召喚士  作者: 平岡春太
 第七章 剣聖

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 第十七話 息子

 巨大なアックスを担いで笑みを見せるその人物は、シュタイルが追っているヴェルクだった。

 その場に居る全員に緊張が走り、その表情は険しく変わる。


「何でお前がここに?」


 フラムが露骨に敵意剥き出しで言う。


「それはこっちも同じなんだがな。まあ、ここに来るのはどうせ目的は同じだろう」


 ヴェルクがゆっくりと歩むその先には、地面に刺さるゼクスがある。


「ちょっと━━」


 フラムが止めようとするのをフリードが制す。

 シュタイルも静観している。

 ヴェルクはゼクスの柄を掴み、引き抜こうとするが、まるで動かない。


「何だこいつ、びくともしねえぞ」


 何度抜こうとしても、結果は同じだ。


「やっぱりあいつも抜けないか」

「なるほどね」

「人の物を盗む奴をゼクスは絶対に所有者として選ばない。ツェントを置いて失せろ」

「おうおう、言ってくれるね。こいつを返して欲しけりゃあ、力尽くで奪ったらどうだ?」

「俺の姿を見て逃げた奴がよく言う」

「あれは、まさかルジェロンの息子がわざわざこいつを取り戻すのに俺を追っているとは思わなくて驚いただけだ」

「ルジェロンの息子!?」


 フラムとフリード、そしてパルの驚いた顔が揃ってシュタイルに向けられる。


「何だ、知らなかったのか。そいつは十傑を作った名工ルジェロンの息子だ」

「でも、名前は確かルジェロンじゃなかったと思うけど」

「ルジェロンの名は武具職人として名工と認められた者が代々継いで行く名前だ。父親も第五代目のルジェロンだからな」

「なるほど、じゃあ本当にルジェロンの。それで十傑に詳しい訳だ……」

「それで、何でこいつは抜けねえんだ?」

「ゼクスがお前を所有者と認めていないだけだ」


 それを聞いたヴェルクの嘲笑が響き渡る。


「武具が人を選ぶだと? 笑わせるな。無機質な武具に意思があるものか。力尽くで抜けねえって言うなら、こうすればいいだけの事だ!」


 ヴェルクはツェントを力一杯地面に叩き付けた。すると、そこを中心に周りの地面に幾筋もの亀裂が走る。

 激しい揺れがアングリフ山全体を襲う。


「何だ?」


 亀裂は山全体に広がり、轟音を上げて山が崩れて行く。


「おいおい、無茶しやがるぜ」

「崩れるでヤンス」

「あんたは肩に乗ってるだけでしょう」


 山肌を登っていたゼクスを求める人間は、不意の出来事に崩れた山の瓦礫の中に飲まれて行く。

 岩陰に潜んでいる翼のない魔獣達の殆ども同じ運命を辿る。

 フラムにフリード、そしてシュタイルにヴェルクは、足場がいい瓦礫に飛び移りながら瓦礫に飲まれるのを回避して行く。

 ようやく倒壊が治まり、それほど高くなかったアングリフ山が、更に低い瓦礫の山と化してしまった。


「これで高さに悩まされずに済む。ある意味助かったな」

「敵を褒めてどうすんのよ」

「でヤンス」

「それもそうか」


 フラム達が他愛のない会話をしている間に、ヴェルクは周りが崩れて瓦礫に埋もれているゼクスの柄に手を掛けていた。しかし、どんなに力を入れてもゼクスは抜ける様子はない。


「どうなってやがるんだ。こいつには根っこでもついてやがるのか?」


 顔を顰めるヴェルクに、物凄い勢いで駆け寄って来たシュタイルが斬り掛かる。

 ヴェルクもツェントの刃を盾のようにして受け止める。


「だからゼクスはお前を認めない。そう言っているだろう」

「馬鹿馬鹿しいんだよ!」


 二人の激しい戦いが始まった。


「ほら、今の内よ」

「この内に? いいのかよ」

「あっちが勝手に遣り合ってるんだから、取ったもん勝ちでしょう」

「フラムらしいでヤンス」

「何よ、文句あんの?」

「文句はないでヤンスけど……」


 フリードは納得したのか、ゼクスに歩み寄り、その柄に手を掛ける。しかし、結果はヴェルクと同じだった。


「俺が抜けないのに、そんな軟な腕で抜ける訳がねえだろうが」


 ヴェルクがシュタイルの相手をしながらも、フリードの様子を見て笑い飛ばす。


「俺も教えたはずだ。ゼクスに認められない限り、そこからは抜けないと」


 二人に否定され、苛立ちを見せるのはフリードではなくフラムだった。


「何言わしちゃってんのよ。力任せに抜けない事ぐらいわかるでしょう」

「お前は分かるのか?」

「そう言う事は自分で考えないと意味がないでしょう」

「分からないだけでヤンス」

「何よ」

「何だ、あいつも分からないのか。でも、力任せは駄目なのは確かだよな。ただ、先生が取って来いって言った以上、俺にも抜ける確証が先生にはあったはずだ。考えろ……考えろ…………」


 フリードは必死になって考えるが、それを妨げる様にあちらこちらで悲鳴が上がり始めた。

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