第十六話 ムカつく奴
「何を遊んでんのよ。剣は手に入れたの?」
「遊んでる訳じゃないって。あいつが邪魔をしてだな」
「あいつ?」
フラムとパルの目がシュタイルに向く。
「あれ、あいつは……」
「確か、この間、荒野で会った奴でヤンスよ」
「ええ、確かシュタイルだったわね」
シュタイルは思い出したように鼻で笑う。
「なるほど、あいつに手古摺っていた連中か。それではゼクスを抜く事は叶わぬはずだ」
「ゼクスを知ってる? まあ、ある程度の腕があるなら知っていて当然か。それより、大きな口を叩いているようだけど、見たところあんたも目的は達していないようだけど。確か、あいつの武器が俺のだって言ってなかったっけ?」
「あれは、あいつの逃げ足が速かっただけだ」
シュタイルの慌てる姿に、フラムはしてやったりと笑みを見せる。
「それで、代わりにゼクスを取りに来たってわけ?」
「いや、ゼクスは俺を選ばない。俺の武具はツェントだけだ。ここにはたまたま近くに来たから、ゼクスに選ばれた人間が居るかどうか確認しに来たまで」
「ちょっと、さっきから選ばれるとか選ばれないだとか、何の話をしてるのよ」
シュタイルの視線が、フラムの剣に向けられる。
「さっきから気になってはいたが、お前の持っている剣はヴァイトだな。そんな事も知らずに十傑を所持しているのか。どうやらお前も、ヴァイトに選ばれた訳でもなさそうだな」
「あんた、さっきから私にケンカ売ってんの?」
フラムは露骨に苛立ちを見せる。
「そう言うつもりはないのだがな。ただ単に、無知な奴だと言っているだけだ」
「ライオと遣り合っていた理由が分かるような気がするわ。口の悪さは似た者同士のようだものね」
「ライオ? ああ、あの時の奴か。確かに口は悪かったが、一緒にして貰いたくないな」
「オイラにすれば、フラムもいい勝負でヤンス」
「あんたもケンカ売ってんの?」
フラムの拳が肩に乗るパルの顎をぐりぐりする。
その姿に、シュタイルは呆れたように首を振る。
「用がないならさっさとここから去れ。どう見てもゼクスに選ばれるようには見えなぞ」
「そのものの言い方が人を小バカにしてるって言ってんの。大体、さっきから選ばれるって何の事を言ってるのよ」
シュタイルが軽く溜息を吐く姿も、フラムは気に食わない。
「だったら分かるように言ってやる。全てとは言わないが、腕の立つものなら優れた武具を求めたがるものだ。それはまた逆も然り。武具もまたそれを扱うものを選び、認められない者が扱えばその武具は並の━━いや、並以下の武具に成り下がると言う事だ。況してやここから引き抜けないようではそれ以前の話だろう」
苛立つフラムの目は、シュタイルからフリードに移る。
「ちょっと、あんたもバカにされてんのよ。さっきから黙ってないで、何か言い返しなさいよ」
「いや、剣が抜けないのは確かだからな」
「何納得してんのよ。仮にも剣聖の弟子でしょう」
「仮って、お前も酷いな」
「そうか、お前達はウォルンタースの弟子か。お前達を弟子にするようでは、あの老いぼれも随分焼きが廻ったようだな」
シュタイルのその言葉に、今まで笑みを見せていたフリードの顔が険しく変わる。
「俺の事をどう言おうと構わないが、先生を悪く言うと許さないぞ」
「ほう、怒ったか?」
「先生の弟子に、そんな軟な奴は……軟な奴は……」
言い返そうとしたフリードの脳裏に、エドアールの顔が過る。
それを払拭するように激しく首を振る。
「このまま引き下がったら先生の名前に傷がつきそうだ。だったら絶対にお前に勝たなきゃいけないな」
「その意気よ」
「融通が利かない連中だな」
フリードとシュタイルの双方が剣を構え、対峙したその時、間を割るように地面に大きな地割れが走り、そこから黒い影が飛び出した。
「おお、本当にこんな所にルディアの剣がありやがるぜ。って、何であの時居た連中がこんな所に揃ってやがるんだ?」
「お前は!?」




