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炎の魔獣召喚士  作者: 平岡春太
 第一章 悪魔の科学者
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 第十四話 変態オヤジ

「ほう、私が誰なのか分かるのか。この世界最高の科学者たるアルドが」

「何が世界最高の科学者よ。無粋な研究をして来たあんたは、単なる変態オヤジでしょう」

「へ、変態オヤジだと? クソ生意気な小娘が」

「あんたに言われたくないわよ。この変態オヤジ」


 ギュスト━━いや、アルドの顔が怒りに歪む。


「おい、あいつ随分と怒ってるぞ。でも、どうなってんだよ? アルドって、お前が言ってたマッド・サイエンティストだろう。そのアルドは暗殺されたって聞いたばかりだし、そもそも、あれってさっきの魔獣召喚士だろう」

「私にも分からないわよ。何がどうなっているのか」


 アルドは鼻で笑う。


「凡人には理解が出来ないだろうな。お前達にも分かるように教えてやろう。何から話して良いか。そう、まず、私は少なからず他の者に恨まれていたのは分かっていたのでな」

「少なからずね」


 フラムは苦笑いする。


「それに、私の魔導具を狙う者も多い。そこで、命を狙われた時の事を考えて、私は魔導具にある仕掛けを施しておいたのだ。魔導具が魔力を蓄えた時、身に付けた者の体を魔導具に仕込んだ私の思念が、その人間の体を奪えるようにな。その一つがこの指輪だ」

「人の体に自分の思念って、正に変態オヤジだわ」

「変態オヤジでヤンス」

「かもな」


 アルドの歯軋りする音が聞こえて来る。


「貴様ら天才の私に何と━━ん? 待て待て。今その魔獣、喋ったな。これは珍妙な。それにそこに居るのはフラントではないか。小娘にしてはなかなかの魔力があると見える」

「あんたに褒められても嬉しかないわよ」

「いやいや、そうではなく、私の魔導具を欲する者はどうしても魔力をそう持たぬ者ばかりになってしまう。そこで提案だ。お前のような者であれば、より強力な魔獣を召喚する事が出来るであろう。この指輪を嵌めて自分でも召喚する事が出来ない魔獣を呼んでみないか? 魔獣召喚士であるなら、興味があるだろう」

「冗談はよしてよ。あんたみたいな変態オヤジに体を乗っ取られるなんて、考えるだけでおぞましい」

 

 フラムは震え出した自分の体を抱き締める。


「先程から何度も何度も人を変態オヤジ呼ばわりしおって。生意気な小娘が」

「生意気って言うのは当たってるかもな」

「でヤンスね」

「あんた達ね!」


 フリードの鳩尾(みぞおち)にフラムの肘鉄が、パルにはフラムの拳骨がお見舞いされる。その素早さは、フリードをもってしてもかわせない程だ。


「そうやってじゃれていられるのも今の内だ。私の提案を断った以上、このまま生きて帰れるとは思うなよ」

「何言ってんのよ。こっちはフラントを召喚済みなのよ。あんたには召喚する間も与えずに、もう一度死んで貰うわよ」

「召喚? そんな必要はない」


 アルドは近くにある壁に手を触れた。すると、触れている一部分の壁が少し奥に押し込まれた刹那、天井に開いている無数の穴から鉄の棒が降りて来て、アルドとフラム達との間を遮った。


「ここは私の研究室なんだぞ。ちゃんと防御策がしてあっても当然だろう」

「防御策ですって? それじゃあ、あんたの方が閉じ込められたって感じだけど」


 研究室は突き当たりで、鉄の柵の向こう側に居るアルドは、檻の中に閉じ込められてしまったとしか見えない。しかし、余裕の笑みを見せるアルドが、更に横の壁を少し押し込むと、ドアのように人一人が通れる程の壁が開いた。


「だから言っているだろう。ここは私の研究室だと━━ん? そこのお前」


 アルドの目が、村長に移る。


「先程から何処かで見たと思っていたが、そうか、今は老けているからなかなか思い出せなかったが、バルバゴにいたあの威勢のいい若造か。そうそう、あの町にもちゃんと仕返しをしてやらないとな」


 村長は慌てて駆け出し、鉄の柵を掴む。


「待ってくれ。村には手を出すな」

「村? そうか、人口が減って村となったか」

「全てはお前のせいではないか。仕返しとは筋違いだろう」

「私のせいだと? おいおい、私の実験台となったのだ。光栄と思って欲しいがな。安心しろ。直ぐにあの世で会わせてやる。先に行って待っているがいい」


 三度目にアルドが壁を押し込むと、入り口の方から轟音が聞こえて来ると共に振動が伝わって来て、それが徐々に近づいて来る。


「何あれ?」

「入り口の方からこの研究所が崩れて行っているのだ。もうお前達は袋のネズミと言い訳だ。生き埋めとなるがいい。生きて帰れると思うなと、そう言ったではないか」


 アルドは高笑いを残して、開かれたドアの中へと消えて行った。


「子憎たらしい変態オヤジよね」

「でも、どうするんだよ。このままだと、あいつの言う通り生き埋めになっちまうぞ」

「まだフラントが居るわよ。村長さん、こっちに戻って」


 村長は急ぎフラム達の元に戻る。


「フラント、あの鉄の柵をお願い」


 フラントは咆哮を上げると、勢い良く駆け出し、鉄の柵に激突した。当たった辺りの鉄の柵は大きく歪んだが、人が通れる程のスペースも開いていない。


「びくともしてないぞ」

「黙って見てなさい。少し熱くなるわよ」


 フラントの体を包んでいる炎が大きく揺らめき、その熱さがフラム達にも伝わって来て束の間、フラントが触れている鉄の柵が真っ赤になり、ドロドロと溶け出した。

 鉄の柵に大きな穴が開いた所で、フラントの炎も静まった。


「へ~、やるもんだな」

「当然」

「やったのはフラントでヤンスけどね」

「うるさいわね。それぐらい分かってるわよ。こうしてる場合じゃないのよ。さあ、早く行きましょう」


 研究所が崩壊して行く音がかなり近付き、フラム達はフラントが開けた鉄の柵の穴から先に進み、アルドの後を追った。

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