第十二話 対価
手にしている松明で辺りが照らされる中、洞窟の奥へと急ぐギュストと盗賊団の周りには、人骨と思われる物が散乱してしる。
「何なんだ。このおびただしい数の人骨は?」
怯える手下だけではなく、ラドローもその数の多さには面喰らう。
「魔導具欲しさに来た連中が、ランボルトにやられたんだろうさ」
ギュストの言葉もさすがに気休めにもならない。
「さあ、あいつらがランボルトに食われる前に、手に入れるものを手に入れないと、こっちが骨にされてしまうぞ」
そう言われては、さすがに足早にならずにおれず、少しして突き当たりらしき部屋の入り口に辿り着いた。
少し前を歩いていた盗賊数人を押し退けるようにしてギュストが前に出て、真っ先に部屋に入った。
さほど広くもない部屋の中には、古びたテーブルが置かれており、傍に置かれた椅子には白骨化した死体がテーブルに凭れ掛かるようにして座っており、着ている服の背中には、鋭利なもので突かれた跡があった。
ギュストは目を輝かせ、死体に駆け寄ると、死体の右の人差し指に嵌められている指輪を抜き取った。
「これだ。これがアルドの指輪だ……」
「おい、ギュストの旦那、お宝は何処だ?」
部屋の中には壁一面に棚があり、研究で使っていたであろう道具が色々と並べられてあったが、盗賊が欲しがるような物は全く見当たらなかった。
「それどころかその指輪以外に魔導具らしきもんもねえじゃねえか。一体どうなってやがる?」
「決まっているだろう。あの村長は魔導具が人の手に渡る事を危惧していたんだ。だとしたら、何処かに隠したか処分したんだろうな。この指輪だけは身に付けていたから、気持ち悪くて外せなかったか、魔導具と気付かなかったか。まあ、ランボルトが居れば、元々ここに来る事も難しいだろうがな。それに金品は、とっくに村の為に使ったとしても不思議じゃないと思うが」
「ちょっと待て。その口振りだと、あんた初めから分かってたんじゃねえか?」
「だったらどうなんだ?」
「こっちは人数を半分に減らしてまでここまで付いて来たんだぜ。だったらせめてその指輪だけでも貰うぞ」
「おっと、これはお前達が持つような代物ではないぞ」
ギュストは指輪を自分の指に嵌めた。
「御託はいい。無理にでも貰うぞ」
ラドローが剣を抜くのを合図にして他の盗賊達も次々と剣を抜く。
「無駄な事を。ベルビス!」
ギュストが嵌めた指輪から、ロープ状の無数の触手が勢い良く飛び出し、盗賊達の体に巻き付いて行く。
「な、何だこいつは!?」
「お前達は元々こいつの為の餌なのさ」
体から白煙を上げているフリードは、ランボルトの目の前でうつ伏せになって倒れた。
「パル、ランボルトを引き付けといて」
「分かったでヤンス。ただ、そうは持たないでヤンスよ」
「分かってるわよ」
パルが肩から飛び立つと同時に、フラムは素早くしゃがみ、地面に右手を下ろす。
「アルシオンボルトーア!」
召喚陣が現れ、輝きを放つ。それにランボルトが反応し、フラムの方に体を向けようとしたが、パルが炎を吐いて気を逸らす。
「こっちでヤンスよ!」
フラムは立ち上がり、召喚陣を出てそれを前に印を組む。
「魔界に住みし炎の魔獣よ。開かれし門を潜り出でて我が命に従え」
両手の印が形を変える。
「出でよ、炎魔獣フラント!」
召喚陣が輝きを増し、光の中からフラントが飛び出して、その身を炎で包む。
ランボルトの体が激しくスパークし、その数本が飛んでいるパルを直撃し、パルは地面に落ちて目を廻す。
「ビリビリでヤンス……」
「だらしのない。それでも竜魔獣なの。まあ、相手が相手だし、仕方ないか。さあフラント、あいつを倒しちゃって!」
フラントが咆哮を上げると、それに合わせてランボルトも咆哮を上げる。向かい合い、睨み合って後ろ足を蹴って間もなく、一斉に駆け出した。
二匹が低くした頭同士で激突する。力はほぼ互角、フラントの炎が揺らめき、ランボルトの体が激しくスパークする。
「ドゥーブ、戻りなさい!」
ずっと木の陰で震えていたドゥーブが慌ててフラムの前にある召喚陣の光の中に消えてから、フラムは印を解いて召喚陣を消した。
フラントとランボルトが激しい戦いを繰り広げる中、倒れている村長に駆け寄り、剣を抜いて村長を縛っているロープを寸断した。
「大丈夫ですか?」
「助かりました」
「今のは効いた……」
隣に倒れているフリードも、ゆっくりと体を起こす。
「そっちも生きて━━」
ふっとフリードに目を向けたフラムは、ランボルトのスパークを受けて髪が逆立ってしまったフリードの姿に、思わず吹き出しそうになるが、その一瞬の間目を離した村長の姿がないのに気付き、辺りを見廻す。
村長は、洞窟の入り口に駆け込む所だった。
「ちょっと、ちょっと、こっちがまだ片付いてないって言うのに、何勝手な━━」
フラムの苛立ちも、二匹の魔獣の頭同士の激突による二度目の轟音が掻き消した。しかしその直後、ランボルトの体が真っ二つになって崩れ落ちた。
いつ立ち上がっていたのか、真っ二つになったランボルトの前に、フリードが剣を構えて立っていた。
「動きが止まってしまえば、簡単に斬れるな」
「いやいや、動きが止まっているからって、ランボルトは簡単に一刀両断出来る魔獣じゃないのよ。あんた一体━━」
感嘆する中、フラムの目にまたフリードの逆立った髪型が入り、今度は堪らずに吹き出す。
「笑ってる場合じゃないわ。パル、行くわよ」
「まだ目が廻ってるでヤンスよ」
パルはフラフラになりながらも飛び上がり、何とかフラムの肩にとまる。フラムは剣を鞘に納め、フラントを連れて洞窟の中へと駆け込んで行った。
「おい、置いてくなよ!」
髪が逆立ったままのフリードも、後に続いた。