第八話 なぜ?
「どうしてあんたが?」
アローラが苦い顔を見せるその相手はライオだった。
ライオはアローラの剣を振り払い、少し後ろに飛び退らせる。
「私に剣を向けるなんて、どう言うつもりなのかしら? もしかしてその子、恋人?」
「勘違いするな。ちょっとした知り合いだ」
フラムは少し首を傾げる。
「ちょっとした知り合いね。それにしてもこの二人、どうやら顔見知りみたいだけど。だとしたら、あのアローラって女もケイハルトの……」
そこに、レガラントを追って行った五人が戻って来た。
「あなた達、レガラントはどうしたの?」
「それが……」
一様にばつが悪そうな顔をする五人の視線は、ライオに向けられる。
「レガラントなら俺が斬った」
「斬った!? あの貴重なレガラントを?」
「ここにはレガラントを捕獲に来ると言ってあったはずなのに、あなたって人は……」
フラムとアローラは同時に溜息を吐く。
「仕方ないだろう。向こうが向かって来たんだ。体が反応しただけだ」
「体が勝手にって……」
「誠に変な言い訳ですね。それで、そちらは目的を抜けてこちらに来た理由は?」
「いや、目的は終えた。だから、それを伝えに来た」
「終えた? 早くとも一日がかりだと思っていましたが、さすがはあの方のお子だという事ですかね」
何の事だかわからず眉をひそめるフラムに、アローラは鋭い目を向ける。
「せめてそちらの首は取っておきたい所ですが」
変えた目線の先には、伸びていたパルが飛んで来てフラムの肩にとまり、アローラにガンを飛ばす。
更に、凍っていたフラントが自らの炎で氷を溶かして身動きが取れるようになり、フラムの元に戻って来てアローラ達を威嚇する。
「これ以上の面倒もなんですし、その首は暫し預けておきましょうか」
アローラは剣を鞘に戻す。
「一つだけ忠告しておきます。そのフラムと言う子、今の内に殺しておかないと、後々面倒なことになりますよ。私にとっても、恐らくあなたにもね」
フッと目を向けた先で、フラムによって気を失っていたサウロンが体を起こしていた。
「サウロン、行ける?」
一鳴きして応えたサウロンの背に飛び乗ったアローラは、そのまま飛び去って行った。
アローラの部下らしき五人も、身軽な動きで山肌に駆け上がり、その姿を消して行った。
「嫌な女だったでヤンス」
「本当に」
ライオも剣を鞘に納め、歩き始める。
「どうして私を助けたの?」
「気にするな。単なる気まぐれだ」
「単なる気まぐれね」
フラムは苦笑いする。
「それで、父親の元に戻る気?」
ライオの歩みが止まった。ただ、振り返る事はない。
「俺の素性を知っているのか?」
「まあ、あるお方からいろいろ聞いてね」
「あるお方? 五賢人の誰かか。要らぬ事を」
「幾ら父親とは言え、母親が亡くなる切っ掛けになった人でしょう。どうしてそんな人間の言う事を聞くの?」
「そこまで知っているのか」
急に振り向いたライオの顔は、怒っている様にも見えた。
「お前には関係のない話だ。何をしようと俺の勝手だろう」
「まあ、それはそうなんだけど。関係ないかと言われると、そうとも言えない気もするけど……」
「何の話だ? いや、どうでもいい。知っているならこれ以上は関わるな。命に係わるぞ。今のようにな」
「そうはいかないのよ。あんたの父親のせいで、沢山の大切なものを私も失って来たから」
フラムはギュッと拳を握り締める。
「そうか。あの男ならやりかねないだろうな。そう言う事なら俺に止める権限はない。ただ、今度会う時はお前に剣を向ける事になるかもしれないぞ。覚悟しておく事だな」
「覚悟の上よ」
それ以上は何も言わずに再び歩み出したライオは、止まる事はなかった。
「相変わらず、あの男もキザでヤンスね」
「ええ。でも、強いのも確かよ。それも相当ね」
「でヤンスね」