第六話 乱入者
レガラントが吐いた冷気を、フラムとエレーナは慌てて躱す。
「危なっ! とにかく、これは試合じゃないんだから、あんたが凍らされるか依頼を済ませるまでこっちは待っている筋合いはないわね」
「確かにそれも一理あるわね。だったら、こっちが邪魔をしても文句を言われる筋合いもない訳ね」
「減らず口はいい勝負でヤンス」
「面白がってんじゃないわよ。あっ!」
言い争っている間に、レガラントは峠の奥へと駆け去って行く。
フラムとエレーナも直ぐに後を追うが、エレーナが先を行く。
「足はあっちが早いでヤンスね」
「あんたが重いのよ。いい加減に飛びなさいよ」
パルは振り落とされるようにフラムの肩から飛び立った。
「フラント!」
駆け出したフラントは、フラムとエレーナを一瞬にして抜き去り、レガラントに向かって炎を噴き出す。
炎はあっさりと躱されてしまったが、レガラントの足止めには成功する。が、先を行くエレーナがレガラントに斬り掛かる。
「ちょっと! ちょっと!」
遅れてフラムも斬り掛かる。
二人掛かりでも、レガラントは巧みに剣が当たる箇所だけに氷を張って二人の剣を防いでいる。
「操縛の印が掛けられるまで、何とか体力を削らないと」
「その前に私が討伐しちゃうわよ」
「そんな事はさせないわよ。フラント!」
フラントがエレーナとレガラントの間に割って入る。
「何のつもりかしら? 邪魔するならこのフラントも斬っちゃうわよ」
「私のフラントを甘く見ないでよね。パル、さっさとこっちも終わらせるわよ」
「フラム、上から何か来るでヤンスよ」
「上?」
フラムが上を見上げると、山の陰からサウロンが姿を現した。更にその背中から何かが飛び降り、フラムに向かって来た。
慌てて飛び退ると、フラムが立っていた場所に一人の女が剣を構えて立っている。
「そのレガラントは私が貰う」
「ちょっと、いきなり現れて何を勝手なこと言ってんのよ」
「野生の魔獣をどうこうしようと勝手だろう」
「確かに、でヤンスね」
「誰の味方してんのよ」
二人の遣り取りに、現れた女は眉を顰める。
「喋る魔獣? まさか。そう、あんたがフラムね」
「あら、私ってそんなに有名?」
「そんなはずないでヤンス」
「だって向こうは知ってるじゃないのよ」
「たまたまでヤンスよ」
周りそっちのけでフラムとパルは睨み合う。
「聞いていた通りにぎやかな人間ね」
「聞いていた? 誰に?」
「さて、誰でしょうね。でも、あなたがフラムなら、もう一つ仕事が増えたわね。あなたを殺すという仕事が」
急に女の目が鋭く、殺気を孕んだものに変わる。
「フラム、何かしたでヤンスか?」
「いやいや、初めて会った相手だし━━おっと!?」
一瞬にして迫って来た女が振るって来た剣を、フラムは慌てて弾く。
「ちょっと、いきなり何なのよ。名前ぐらい名乗りなさいよ」
「ここで死ぬ相手に名乗ってもと思うが。まあいい。私の名はアローラだ」
「アローラ? やっぱり知らな━━うわっ!?」
フラムとアローラの間に、エレーナがフラントと縺れながら飛び込んで来る。
「あっちもこっちも大変ね」
「それもそうね。だったら一度に死んで貰おうかしらね」
アローラが徐に手を上げた。
「フラム、上でヤンス!」
「また上?」
山の上方のあちらこちらから無数の矢が次々と飛んで来て、フラムとエレーナに襲い掛かる。
フラムには透かさずフラントが前に割って入って盾となり、その体を包む炎が飛んで来た矢を焼き尽くす。
エレーナは素早い剣技で飛んで来た全ての矢を弾き飛ばし、または斬り落とした。
弾かれた一本の矢がパルに飛んで来て、浅いながらもお尻に刺さる。
「痛いでヤンス!!」
パルの絶叫が響き渡る中、山肌から五つの人影が姿を見せた。
現れた五人は真っ白な服装に包まれ、フードを被っている。そしてその手には、矢を番えた弓を持っていた。