第四話 また厄介な
「フリードに付きまとっていた女剣士でヤンスよ!」
依頼書に手を伸ばしたのは、女剣士のエレーナだった。
エレーナは露骨に嫌な顔をしながら依頼書に手を伸ばすが、フラムが慌てて邪魔をする。
「何するのよ」
「あんたこそ何なのよ。それは私が先に見つけた仕事よ」
「私の方が先でしょう!」
「何言ってんの。私が先よ!」
お互いにヒートアップし始め、静かだった店内が俄かに騒がしくなる。
「何ならここで勝負しましょうか? どの道、あんたとはフリードの事で決着を付けなきゃいけないんだから」
「あれはあいつが勝手に━━」
「言い訳無用!抜きなさい!」
少し距離を取ったエレーナが、剣の柄の手を置いたその時、カウンターの奥に居る二人の店員の一人がすっ飛んで来た。
「ちょっと! ちょっと! お客さん、困りますよ。こんな所で揉め事を起こされたら」
間に入ってもエレーナがフラムに鋭い眼光を向ける中、店員は二人が見ていた依頼書に目を向け、溜息を吐く。
「なるほど、この依頼書か。そんなに揉めなくても、この依頼は内容が内容なもんで、何人が申し込んでもいいと言われているんですよ。ここで暴れるのだけは勘弁して下さい」
「そういう事なら仕方ないわね」
ようやくエレーナの手が剣の柄から離れる。しかし、
「それなら、この依頼書で勝負しましょう。どちらが先にこの依頼を済ませるかで勝負よ」
「ちょっと、どうしてそうなるのよ。勝手に━━」
エレーナはフラムの話を聞き終える事なく、依頼書を掲示板から取ってカウンターに向かった。受領印を押して貰い、挑戦的な目でフラムを一瞥してから、先に出て行ってしまった。
フラムの口から深い溜息が洩れる。
「面倒な事になっちゃったわね。全部あいつのせいだわ。今度会ったらどうしてやろうかしら」
「フリードも災難でヤンスね」
「何か言った?」
「何でもないでヤンスよ。それよりどうするでヤンス。辞めるでヤンスか?」
「辞める? とんでもない。上手く操縛の印が掛けられればレガラントが召喚魔獣になるのよ。氷の国で手に入れたヴァルボラガとは双璧をなす魔獣だから、かなりの戦力になるし、その上で法外な報酬が貰えるって話を自分から諦めるなんて、考えられないわよ」
その数分後…………。
「それで、何で食事をしてるでヤンス?」
フラムはシェイブを出た後、近くにある比較的に空いている食事処に入り、席についてテーブルの上のパルと共に食事を取っていた。
「腹が減ってはって言うでしょう」
食事をしつつフラムが言う。
「さっきは一仕事終えた後の食事は格別だって言っていたでヤンスよ」
と言いつつも、パルも食事の手を止めない。
「状況が変わったのよ。向こうは腹が減ってからって言い訳がきくような相手じゃないでしょう」
「分かるような気がするでヤンス」
「だったらちゃんと食事してからって事よ」
「でも、その間に向こうが仕事を終わらせたらどうするでヤンス?」
「レガラント相手にそれはないと思うけど、もしもがあるかもしれないから急いでんのよ。私が食事を終えたら、あんたが食事中でも引っ張って行くわよ」
「それは困るでヤンス!」
さっさと腹ごしらえを終わらせたフラムは、シェイブに戻り、依頼書に受領印を貰うと、エレーナを追ってシュレッケ峠へと向かった。