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炎の魔獣召喚士  作者: 平岡春太
 第六章 邂逅(かいこう)
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 第三話 港町ケンシルト

 フィールの背に乗るフラムは海上を飛んでいた。

その先に港町らしき大きな町が見えて来る。

 港の開けた一角にフィールを降ろし、パルを肩に乗せたまま飛び降りる。

 突然飛来したフィールに、近くに居た人々の視線が集まったが、その殆んどが漁師で、作業中だった事に加えてフラムの姿に危険性も感じず、気にした様子はなかった。

 フラムも気にする事なくその場にしゃがみ、召喚陣を作ってフィールをその中に戻してから消した。


「全くもう、そんな距離でもないのに、目を瞑ってりゃあいいじゃないのよ。だらしのない」

「空を飛ぶ魔獣からすれば、考えられないでヤンス」

「まあ、それならそれで、ゆっくり町見物でもさせて貰おうかしらね」

「いいでヤンスね。そろそろお腹も減ったでヤンス」

「何言ってんの。お昼にはまだ早いわよ。まあ、小腹を満たすぐらいなら問題ないけど」

「そう来なくちゃでヤンス」


 港町らしく、港には忙しく働く大勢の人の姿があり、活気に満ちた声で賑わっている。


「港と言えば魚でヤンスね」

「確かにね。でも、ここは山も近いから、山の幸もいいかも……」


 町中に足を踏み入れると、港に負けず劣らず人通りの多さと活気に満ち溢れている。

 それと共にあちらこちらからいい香りが漂って来て、フラムとパルの腹を刺激する。


「これだけ食べ物の店があると迷うわね………」

「何処でもいいから早く入るでヤンスよ」

「分かってるって。並ぶのも嫌だし、空いている店はっと……ん?」


 歩みを進めながら店選びをしていると、前方から何やら騒がしい声が聞こえてきた。

 そちらの方に歩みを進めると、人だかりが出来ている。


「ちょっとゴメンなさい」


 人垣を掻き分けて前に出ると、そこには炎魔獣のティエンボとその主と思われる魔獣召喚士が完全に凍らせられた大きな氷の塊が乗せられた荷車があった。

 その前と後ろにはそれを運んでいたと思われる三人の村人がへたり込んでいた。


「やっぱり駄目だったか」

「何があったんですか?」


 肩を落とし、溜息を吐く町人にフラムが訊く。


「あんた旅の人かい? なら知らないか。いやさ、この先にあるシュレッケと呼ばれる峠があるんだが、そこが通れないと何処に行くにもかなりの遠回りになっちまうんだが……」

「通れないんですか?」

「ああ、誰が召喚したかは知らんが、一カ月程前から野生化した氷魔獣のレガラントが居ついちまって、そこを通る人々を襲うようになっちまってな」

「レガラントって、氷魔獣でも上位魔獣の?」

「そう、それだけに並みの剣士や魔獣召喚士では歯が立たん。遠回りだとせっかく捕った魚が傷んじまうって漁師が困っておってな。国の精鋭も出張って来おったんだが、全く歯が立たず、仕事の請負所にSランクの賞金を出して討伐を出す事となったんだが」

「Sランク!?」

「ただ、何人もの腕利きが挑んだが、ほれ、あの通りだ」


 氷漬けの魔獣召喚士とティエンボは、誰かが呼んで来た魔獣召喚士が召喚した炎魔獣のフラボの炎で氷を溶かして貰っている最中だ。


「賞金ってどれくらいですかね?」

「さあ、相当な額だとは聞いたが、誰かが失敗する度に増えているって話だからな。今は相当な額になっていると思うがな」

「それで、仕事の請負所の場所は?」

「この道の突き当りを右に行けば分かると思うが、まさかあんた請け負う気じゃあ━━あれ?」


 町人が横を向くと、フラムの姿は消えていた。



 フラムは既に歩き出していた。

 目的地はもちろん仕事の請負所だ。


「フラム、待つでヤンスよ。食事はどうするでヤンスか?」

「後よ、後。一仕事した後の食事は格別でしょう」

「腹が減ってたら動けないでヤンスよ」

「あんたはいつだって動かないでしょう」

「フラムは食べ物よりお金でヤンスか。昨日あれだけ落ち込んでいた人間とは思えないでヤンスよ」

「何か言った?」

「何でもないでヤンス」


 いつものように何を言っても無駄かと、パルは口を尖らせる。

 町人が言っていた通りに進むと、仕事の請負所シェイブと書かれた建物を見つけ中に入った。

 そこそこの人が仕事を求めてやって来ていたが、依頼書が貼られている一角に数人が集まっている場所があった。

 その依頼書を見ている人々は一様に難しい顔をしていて、依頼書に手を伸ばす事なく一人、また一人とその場から離れて行く。


「どうやらあれのようね」


 嬉々としてその依頼書に歩み寄り、内容を確認する。

 そこには町人から聞いた内容とほぼ変わらぬ依頼が書かれており、その依頼金額を見て表情が更に綻ぶ。


「これはこれは、今までの依頼の中で最高額だわ」


 そのまま依頼書に手を伸ばすが、同時に隣から手が依頼書に伸びて来た。

 思わずもう一つの手の主と顔を見合わせて、驚きの声が揃った。


「あんたは!」

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