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炎の魔獣召喚士  作者: 平岡春太
 第五章 交差する過去
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 最終話 救いの手

 危険が去ったと言う事で、避難をしていた人々は再びルティアン議会場に集められた。

 ケイハルトの危険性においては、実際に感じる事態となり、これで口で伝える必要性がなくなったと言えよう。

 これ以上の議題はなく、議会は閉幕を迎えたのだが、今後のケイハルトの対処については、現れるのも神出鬼没という事もあり各々が練るとし、話し合いの場としては一ヵ所に集まると今回のような危険性を生むとして、伝達方法は伝書魔獣か少数の話し合いを設けると言う判断となった。

 その後ビエントは、イグニアの死を伝える為、親元の方へと向かって行った。

 フラム、パル、フリード、アインベルク、そしてシャルロアは、ルティアン議会場の近くにあるアインベルクの別荘へと行く事になった。

 アルファンド城の近くにもまるで城と見紛う様な別荘があったが、そこにあった別荘もそれと同等なものであった。

 それぞれが一室ずつ部屋を与えられたが、皆フラムの部屋に集まっていた。

 目の前でイグニアの壮絶な死を目の当たりにして悲痛な叫びを上げてから、表情から生気は失せ、抜け殻の様に動かなくなったフラムは、フリードが何とかルティアン議会場と、そしてアインベルクの別荘へと連れて来た。

 与えられた部屋に入ってようやく動き出したと思ったら、部屋の片隅に行き、床に座って立てた膝を抱えたまま塞ぎ込んでしまった。


「同じでヤンス」


 パルはあの現場からずっとシャルロアの肩にとまっている。


「ご主人が亡くなった時も、クリスタが亡くなった時も、食事以外の時はずっとああやって塞ぎ込んでたでヤンスよ」

「私からすれば、仲がよさそうには見えませんでしたが」

「ケンカするほど何とかって奴でヤンスよ。ご主人の時はアインベルク様が、クリスタの時はご主人とビエント様が気に掛けて会いに来てくれたでヤンス。けど、立ち直るには結構かかったでヤンスよ。今回はどうなるでヤンスか……」

「お母様?」


 アインベルクがスッと前に出て、フラムの前で歩みを止める。


「これで分かったでしょう。怒りと恨みがどのような結果を呼ぶか。ケイハルト相対するつもりなら、心構えを━━」

「お母様!」


 珍しく声を荒げたシャルロアに、肩に乗るパルは耳を押さえて驚く。


「フラムさんは今、大事な人を目の前で失ったばかりなんですよ!」

「そんな事は私でも十分分かっていますよ。ヴァルカンを失った時は、まだフラムも経験が浅く、ケイハルトも腕を失ったばかりで時間もありました。だから、立ち直るのをゆっくりと待ちました。でも、今はケイハルトが表立って動き出し、いつ直接戦いになるか分かりません。向こうの戦力もかなりと見る今、フラムの力も必要となるでしょう。だから、少し強引でも早く立ち直って貰わねばなりません」

「それは分かります。でも、お母様の今のやり方で立ち直るとはとても思えません」

「では、貴女なら立ち直らせる事が出来ますか?」

「それは……」


 塞ぎ込むフラムの姿を見て、シャルロアは黙り込む。


「フリードはどうでヤンス?」


 行き詰る二人に、パルがフリードにパスを出す。


「俺か? 俺はどちらかと言うと嫌われている方だと思うしな……あ、そうだ! あいつなら。ちょっと待っててくれ」


 突然フリードはその場から駆け去って行った。

 何も出来ず、時間だけが過ぎていく中、フリードがある人物を連れて帰って来た。


「遅くなって申し訳ない。さあ、頼むぞ」


 部屋に入り、目の前で立ち止まった人物に、今まで全く反応を見せなかったフラムが、ハッとして身を起こし、膝を床につけ付けたままの状態で目の前の人物に抱き付いた。


「ウィル……」

「今日泊まるって言ってた宿を聞いていて良かったぜ」

「あの子は?」


 アインベルクが訊く。


「俺が初めてフラムにあった時、仕事を依頼して来た子で、結構仲良くしてたんですよ。丁度世界会議に来てたもんで、大人が説得するより子供の方が気を許しやすいと思って」

「いい判断です」


 フラムはウィルを強く抱き締める。


「お姉ちゃん、痛いよ」

「ゴメンなさい。でも、今は少しの間、こうさせておいて」

「分かった。ああ、そうそう。お姉ちゃんに貰ったドゥーブ、元気にしてるよ」

「そう」

「でね、一匹だと寂しいだろうからってお父さんがもう一匹ドゥーブを連れて来てさ」

「そう」

「そしたら連れて来たドゥーブが子供を産んでさ。それも五匹も」

「そう、それは凄いわね」


 ウィルには見えないが、相槌を打つフラムの目からは涙が溢れていた。

 その姿に、一人、また一人と部屋から出て行く。

 出て行く者の目には、光るものがあった。

 勿論、人には見せなかったが、アインベルクの目にも……。


         《第六章へ続く》


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