「呪いの眼~Curse Eye」
MASR。それは、人類を魔物から護るため、政府によって設立された組織。存在しないはずの“13個目の省庁”。
警察などの公務員でもその存在を知っている者は極々上位のランクにいる者のみ。政府関係者ですら、その存在を知る者はごく一部に限られている。
そして今、この宙に浮いているスクリーンに映っている5人が、そのMARSの牛耳る、“最高幹部”と呼ばれる存在だ。
それぞれが、過去の大戦で指揮をとった者、勝ち星を挙げた者や、ウン百億円MARSに投資した者など、MARSに大きく貢献した人間たちらしい。
そんなMASR最高幹部は僕のことが大っ嫌いらしい。理由を翠綺さんに聞いても確信めいた回答は返ってこない。
んで、僕がMARSにとってある程度使える戦力であることを証明するために、今からこの目の前の少年と闘わなきゃいけないらしい。それを翠綺さんが提案したらしい。
彼の名前は鷹宮 慧。通称:〈委員長〉と呼ばれていて、外見は金髪のオールバックで、クールなイケメンって感じの少年。
それ以外の特徴は、左目だけ黒いサングラスをしているぐらい。
そして僕より背が低い。
「さて、君が死刑囚予備軍…玲渡 廻君…だっけ?名前」
「まぁそうだけど。そういうあんたが…鷹宮 慧か」
「呼び捨てとタメ口かよ…まぁいいけど。生意気は叩いて治しましょ」
慧はそう言いながら、軽く跳ねたりしながらウォーミングアップを始める。
その表情は、獲物を見据えた獣のようで、どこか恐ろしい微笑みを浮かべていた。
「そういえば…廻君、キミ、移動の車の中でオレの“能力”聞いたよね?」
「ん?あぁ…〈何秒か見つめたら死ぬ〉みたいなヤツだよね?」
僕もあとを追うように軽く筋を伸ばしたりする。だんだんと戦いが近づいているのを感じる。
「そうそう。詳しくはもっと難しい条件があるんだけどさ、超大雑把にはそんな感じ。…でさ、不公平じゃないかい?僕はキミの能力知らないんだよ」
「はい?」
「イヤ、だから、『オレの能力はキミに知られているのに、オレはキミの能力知らない』ってのは不公平じゃない?って聞いてるだよ」
「はぁ…まぁ、そう言われてみれば…確かに」
「そうだろ?だから教えてよ」
「ふぅーん、まぁそういうことなら。僕の能力は『烏を操る能力』だよ。ほとんどの人に言っても、『知らない』としか返ってこないけど」
「うーむ………、確かオレも聞いたことも見たこともない能力だな。珍しいチカラ持ってんね」
慧はパキパキと指を鳴らした。ウォーミングアップも終わりなようだ。
「まぁでもキミはその“烏”、使っていいよ。オレはこの眼、使わないけど」
左だけのサングラスの奥にはギラギラと目を光らしているのだろう。今までのラフな会話からは想像できないほどの殺意を感じる。
「えっ……、それじゃ不公平じゃない?キミが能力使わないのは、まぁ僕も死にたくないからありがたいけど、それに対して僕が能力使ったら流石に…」
「“一方的な展開になる”って、言いたいわけ?」
相手を殺す眼を持っているだけあって、表情は笑ってても目が笑ってない。
ヤバいねコレは、地雷踏んだかな?
「イヤァ…そんなこ、と、は…」
「あるんだな」
チッ、めんどいなぁ。コイツ。
「フッ。フハハ、フッハハハァ!やっぱオマエ、タメ口といい…さっきの発言といい…、舐めてるだろ…オレのこと」
言葉が締めくくられると同時に、この場の空気が一瞬で変わる。
魔力が弾ける感覚。魔力による身体の強化。
“来るッ!”
そう直感で察知し、両手でガードしようとした。
しかし、それよりも速く、ヤツとの距離が一瞬で縮まり、それと同時に、腹部に、この世のものとは思えない痛みが駆け巡った。
2、3m吹っ飛ばされ、腹を抱えてうずくまる僕を、「ほら、言った通り」と言わんばかりの視線を、片方だけのサングラス越しに向ける。
(翠綺さんは…)
壁に寄りかかって、腕組み。どうやらマジで助けてくれないらしい。
宙のスクリーンからは、老いぼれた歓喜の声が聞こえる。
「さっき言った通り、この眼の能力を使うには、複雑な条件が必要。
その中の一つに、この能力を使ってナニかを殺した時、”使用者の寿命が5年縮む”てのがあるんだ、残りの寿命が1時間の者を殺しても、1000年の者を殺しても、かっきり5年だ」
そう言いながら慧は指を5本立てながら説明を始める。
「…で」
ここで負けを認めるわけにはいかない。
だから少し挑発めいた返しをする。しかしこれ以上言葉を発する余裕はない。
「代償が大きすぎるでしょ。さすがに。だからサブ効果がついてるんだ。オレは、”眼”こそ一番多くの情報を集められる五感だと思っている。その眼が普通じゃないんだ、動体視力、視力、情報収集、一般人の何倍もある。動体視力が高ければ運動能力も向上する」
さっきの異常な速さはそれか。
やっと呼吸が落ち着いてくる。
「たとえば、今君の呼吸がやっと落ち着いてきたのも手に取るように分かるし、もっとよく見れば君自身も知らない古傷も分かる」
「フーン、じゃ美人なおネイサンのお風呂場とかも覗けたりしちゃうわけ?」
「……その話題の振り方、もうちょっと会話を長引かせて、回復させたいみたいだね」
(あきれた感じで言ってくるのはマジでむかつくが図星だ)
「はぁ、しょうがないなー、じゃあ最後に、これだけ言っておく、オレは、どんな奴でも、絶対に、5手で終わらせる。立て」
「立て」 その一言は、ナイフよりも鋭い殺気を僕に突きつけてきた。これは命令であって脅しだ、さっきの後にはきっと、『立たないのならば殺す』と続いていたのは明らかだ。
僕は両手に力を込め、地面を叩いて起き上がった。全身で殺気を受け、鳥肌が立っている。
(立たなければ…殺されていた…)
この場の空気は、より一層強い緊張で満たされた。




