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Episode 5 守るべきもの

「だって、校則が守られなくなったら、秩序が乱れるよ!」

「それはわかるけど、一年生たちには適応期間を与えてもいいんじゃないか」


 さゆりは、生徒会長が叫ぶ様子と、幼馴染の生徒会書記である真央が対照的に静かな声でそれに応じているのを、清掃当番をせっせとこなしながらやりすごした。


「その適応期間が長引くと、他の校則も守られなくなる可能性がある」

「一度にすべてを変える必要はどこにある? まだ、学校の環境に慣れるのも必死な時期だ。がんじがらめにして、学校そのものが嫌いになってしまったらどうするんだ」


 せっせせっせと一箇所にワタ埃を集めて行く。どうしてわたしがお当番のときに、理科準備室でお話しするのーと、さゆりは心で叫んだ。生徒会室行きなよ、二人とも。

 真央が突きつけた言葉に、生徒会長は黙り込んだ。ちょっとよけてくれないかな。あの足元、まだ掃いていないんだ。そう思いながらさゆりが聞いていないフリをしていると、生徒会長が「蒼井さん!」と突如さゆりの名字を呼んだ。


「――ひゃい⁉」

「あなたは、どう思う? 校則を緩める必要、あると思う?」

「そんなことは言っていない、言葉を曲げるな」

「同じことでしょ!」


 巻き込まないでー! おろおろオドオドしながら、さゆりは箒の長い柄をぎゅっと握りしめた。返答を待っている様子の生徒会長へ、しどろもどろで自分の考えを述べる。


「……あのー。まだ、一学期だし。一年生なら、しかたがないかな、って……」


 言った! わたしは言ったよ! 真央が、さゆりへと目線で謝意を伝えてきた。それを感じ取ったのか、生徒会長は口をつぐんで下を向く。あー、あー、なにそれ。なにそれ。なんかわたしたちがいじめたみたいじゃん……。

 なにか声をかけようか、とさゆりがまごついていると、生徒会長は部屋を出ていった。えー。なにそれー。結論出さないのー。まあいいけどー。


「……すまん。さゆり」

「いーよ、いーよ。真央もたいへんだねえ」


 お詫びに、と言ってそのまま真央が掃除を手伝ってくれたので、五分とかからずに終えられた。ゴミを集積所へと持って行き、おしまい。二人で手を洗って、帰路に着く。


「じゃ、あとで」

「うん、あとでねー」


 真央の家の前で別れた。さゆりはその二軒隣のアパートに住んでいる。弟が、バッグを玄関先に放り投げて遊びに行ってしまった痕跡があった。もうー、ちゃんと定位置に置きなよねー、とつぶやいて、さゆりはそれを移動する。

 制服から部屋着に着替えて、無洗米を炊飯器にセットして、お味噌汁を作る。両親が教師なので帰りが遅く、いつの間にか身に着いた習慣だった。やると約束したわけではないけれど、そんな気持ちで守っている日課。そしてそれが終わったら、さゆり自身の時間。

 七畳の部屋を弟と分けて半分に仕切った自分のスペースへこもる。ヘッドセットを着用し、ノートPCを立ち上げ、ゲームの世界へと飛び込む。さゆりが大好きな瞬間だ。

 もう、真央はログオンしていた。他の友人たちはまだのようだ。めずらしい場所にいるな、と思いながら、さゆりは真央の元へと向かった。


「やっほー、さっきぶりー」

「ああ、さっきは助かったよ。感謝」

「いえいえー」


 真央は素材採集をしていた。なんで今さら。とりあえずさゆりも並んで、極彩色のきのこを摘んでいく。


「レオー、いろいろ愚痴りたいんでしょー。いいよ言ってー。今だれもいないしさー」


 さゆりが水を向けると、真央は青髪のイケメンアバターで笑いながら、「俺は愚痴が言いたいんじゃないんだよ」と言った。


「そう? じゃ、なんでこんな辺境で、ひとりできのこ採ってるの?」

「――ときどきさ」


 ちょっと考え込むように言葉を区切って、真央はきれいな笑顔のまま、さゆりへ言った。


「……自分の正気度を確認しないと精神がもたないんだよ」


 さゆりは手を止めた。そして自分が今摘んだものと、真央のアバターを見比べる。

 そのきのこは幻覚作用を回復する薬を生成するものだ。

 ――ああ、そうか。そうやって、真央は心を守って来たのか。

 さゆりは少しだけ悲しくなって、思ったことを口にすべきか、迷った。


(――ねえ、真央。ここは、仮想世界(バーチャル)だよ)


 ――言えなかった。悲しいことが多すぎる彼には。

 ダイレクトメッセージ受信音が鳴った。さっと確認した真央は、「レイナが、探してるみたいだ」と腰を上げた。


「面倒見いいね、最近」

「……あっただろ。俺たちにもあんな時代」

「ぶっぶー。『レオ』は自分のこと、『俺』なんて言いませんー」

「……そうでした。失礼」


 すっと、真央が『レオ』になる瞬間を、『さゆり』は見た。


「では……私はレイナのレベリングへ向かいます。さゆりはどうしますか」

「んー。ナッジイベ前だから、わたしもそれ、付き合おうかなあ」

「そうですね。あなたの戦闘スタイルは、きっと彼女のいいお手本になると思います。助かりますよ」

「いえいえーどんとこーい」


 二人でレイナがいるという場所へ向かう。移動中、ソアラが「ちょっとーなに二人でいちゃついてたのー」と合流してきた。

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