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Episode 2 仮想現実

 夜闇に包まれた部屋で、真央はVRヘッドセットをゆっくりと外す。PC画面が唯一の光源で、それを見つめながら彼は口ごもるように呟いた。


「――泣いていたよな、レイナ」


 最近ゲーム内で知り合った仲間、女性騎士アバターの『レイナ』のことを考える。『彼女』はプレイ開始からまだ一カ月に満たない新米プレイヤーで、真央はそのとても繊細な気質に気づいていた。

 きっと今日、『彼女』は戦闘に参加できなかったことを気に病んで、そのままログオフしたのだろう。ダイレクトメッセージを送りたいと思ったが、閉じられていることに気づいた。


(――しかたがないだろうに。真面目だな)


『レイナ』は実戦経験が浅く、戦闘職としても向いていないことは明らかだった。しかし、それが『彼女』が選んだ(ジョブ)。なにか理由があるはずで、それに従っていくつもりだった。なりたい自分になれるのが仮想現実の世界なのだから、彼はむやみに転職を勧めないことを決めていた。

 元はと言えば真央も、そうした気持ちからこのゲームを始めたのだ。他のだれかになりたい。仮想現実の中で、『自分』になれると信じて。

『DOUBLE CHAIN (ダブル・チェイン)』という名前のフルダイブ型・仮想現実()()模多人数()時参加型オンラ()インゲーム()。多くの者が、たくさんの期待を込めて集う場所。

 そのタイトルに違わず、真央は現実と仮想の二重生活者(ダブル)だった。おかしくもあり、悲しい現実であるようにも思える。

 真央は、強くなりたかった。現実では得られぬその実感がほしかった。そして、安心して眠りたかった。だれからも脅かされず、なににも怯えずにすむ、自分になりたい。そう思って手を伸ばした先の仮想でそれを成し得てから、真央にとって仮想こそが現実(リアル)だった。


「――他は、どうでもいい」


 その世界での真央は、男性剣士の『レオ』として生きていた。他にも同名プレイヤーが多くいて、埋もれるだろうと見越してのこと。それに、現実での自分の名前は中性的で、女性に間違われることもよくある。それは嫌だった。プレイヤーキャラクターであるアバターを青髪に設定したのも、その理由からだ。

 そう考えたところで、どうしたって排除できないのが現実だ。スマートホンを手に取り、スワイプする。『ダブル・チェイン』のアプリアイコンをタップして、ステータスを確認した。同期されているフレンドの名前を見る。


『さゆり』

『レッドアイ』

『ソアラ』


 これらの名前は、彼のリアルな友人たちだ。さゆり、雄二、空。真央を、人間らしくリアルへとつなぎとめてくれている錨のような存在。彼らがいなければ、きっと自分は今ごろ正気を手放していただろう、と思う。

『レイナ』は、唯一ゲーム内で知り合ったプレイヤーだ。その場合、通常ならばフレンドにはならない主義だった。けれど、どこか見ていられなくて。仮想世界に飛び込んだばかりのころの、手負いのままの自分を思い出して。


(――現実同期機能(リアル・シンクロ)が、本当に、機能すればいいのに)

 

 彼はしばらくの間、スマートホンの画面を見つめ、同期されるのを待った。『レイナ』の名前は現れない。フレンドが同期(シンクロ)したときの通知をオンにし、真央はベッドの上へとスマートホンを投げ捨てた。

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