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京警高校

山登りをすること一時間、やっと学校に着いた。


体力には自信がある方だが、ほんの少し息が切れて汗ばんだ。


大きいカバンを抱えて来てたらかなり大変だったであろう。荷物が少なくてよかったと思った。


僕は学校を見上げた。


「木造ですか。」


二階建てで、いかにも昔ながらの旧校舎のようだった。


「第二次世界大戦終戦後間も無く建てられた校舎だからな。」


「耐震性とか大丈夫なんですか?」


「……。」


「無視しないでください。」


「寮に行くぞ。」


「はい。」



大明寺(だいみょうじ)寮』と呼ばれたそれは、瓦屋根の和風な建築でその名の通り、寺のようだった。


玄関に入ってすぐ左に受付があり、廊下は長くて、端から端までが遠い。


壁は所々ひびが入って今にも真っ二つになりそうだし、歩くたびに床が軋んだ。


「廊下は走るな。床が抜けて足が挟まるぞ。」


高木さんの言う通り、僕はそーっと慎重に廊下を歩いた。


「寮長、新入生を連れてきました。」

高木さんが受付に向かってそう言うと、寮長が窓口から顔を出した。


たぶん40代後半から50代前半くらいだろうか。


僕は小さくお辞儀をした。


「初めまして。新入生の西浦夏月です。」


「入試番号は?」

寮長は僕に尋ねた。


「1067です。」


「1067…西浦夏月…本日入寮完了。」


寮長は書類に赤ペンで印を付けた。


あぁそうだ。


春川道人(はるかわみちひと)という新入生がいると思うのですが、入寮はもう済んでいますか?」


寮長は書類をめくった


「春川?春川の入寮明日の朝方だな。」


そう答えると、ダンボール箱から教科書の束を取り出して、僕に差し出した。


「高木、制服は倉庫に置いてあるから、閉められる前に取りに行け。」


「わかりました。」


高木さんは足早に倉庫に向かった。


教科書の隣に寮長が鍵を置いた。


「この廊下をまっすぐ行って、右に曲がったところにある階段を登りな。自分の部屋番号が取り付けてある扉を頑張って探せ。間違えるなよ。」


僕は部屋の鍵と教科書を受け取った。


鍵に札が付いていてこう書かれていた。


『二十五 紫』




「君が新入り?」


目の前の人物が僕の肩を掴んで満面の笑みを浮かべている。


部屋には二人の先輩がいた。


眼鏡をかけた背の高い先輩と、端正な顔立ちの先輩。


僕はそのイケメン先輩に捕まった。


眼鏡をかけた先輩も興味津々に僕を見つめている。


僕は戸惑って何も言えずに固まっていると、


「先輩、近いですよ。」


いつの間にか戻ってきた高木さんは先輩を僕から引き離した。


「こいつが今日から同室の西浦夏月です。先輩方も自己紹介してやってください。」


「これから、よろしくお願いします。」


僕は深々頭を下げた。


「僕は三年の赤松 琳(あかまつりん)です。どうぞ、よろしく。」


まず、僕の肩を掴んださっきの先輩が言った。


手を差し出してきたので、僕はその手を握り返した。


その瞬間、赤松先輩の瞳が鋭くなったような気がした。


圧というかなんというか…


怖い


単純にそう思った。


けど、明るい笑顔にすぐ変わったので、その何かはすっと消えて無くなった。


さっきのは気のせいだと思うことにしよう。


神宮寺 快斗(じんぐうじ かいと)。赤松とは同じクラス。」


赤松先輩の隣にいた先輩が言った。


眼鏡をかけてて、前髪が長いせいもあってか、表情がよく分からなかった。多くを語らなそうで、なんともいえない独特の雰囲気がある。


「おつかれ。駅から学校まで来るの大変だったでしょ?」


赤松先輩が言った。


僕は頷くと、


「けど、予想より早く寮に着きましたよ。」


と、高木さんが答えた。


山登りのおかげで、普段使わない筋肉を使ったからかなり疲れた。


自己紹介を済ませたところで、急に力が抜けた。


「赤松、そろそろ風呂の掃除に行くぞ。」


神宮寺先輩と赤松先輩は大浴場に行った。



部屋には僕と高木さんの二人だけになった。


「うまくやっていけそうか?」


高木さんは僕に聞いた。


「たぶん大丈夫…です。はい。」 


と答えると高木先輩は少し笑った。


「ここは、色々な人が集まってるからな。まぁ仲良くなれよ。」


「頑張ります。」


そういえば、と高木さんは紙袋を僕に渡した。


紙袋の中身は制服だった。


学ランでも、ブレザーでもない。


平安時代の庶民が着ていた"水干”という衣服がもとになっているらしく、色は紺色。


高木さんや赤松先輩、神宮寺先輩が着ていた物と同じ。


僕は目を輝かせた。


やっとこの学校の生徒になれたんだと実感した。


「ようこそ。京警高校へ。」


高木先輩は言った。




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