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奈落峠駅着

電車が停まった反動のおかげで目が覚めた。


奈落峠(ならくとうげ)駅に到着しました。お忘れ物が無いようご注意ください。ご乗車ありがとうございました。」


車掌が抑揚のない無機質な声でアナウンスした。


寝ぼけた目を擦り、辺りを見渡すと、車内にいるのは僕だけのようだった。ポケットに入れていた切符を車掌に渡し、電車から降りた。ドアが閉まると、電車は森の中に入って見えなくなった。


現在午後4時28分。

寂れた無人駅の駅舎のベンチに一人、青年が座っていた。


茜色の夕日が差し込んで、彼を照らしている。

彼は気難しい顔をして、足を組んで本を読んでいた。その表情は僕よりもだいぶ大人びて見えた。


すると本を閉じ、僕の方を向いて立ち上がった。


「お前、西浦夏月(にしうらなつき)か?」


「は、はい!」


僕は慌てて返事をした。


「俺は、2年の高木遊馬(たかぎあすま)だ。先生から、案内役を頼まれている。」


2年生…話し方も仕草も落ち着いているから、てっきり、3年生の先輩かと思っていた。


「よろしくお願いします。」


僕は頭を下げた。


「早速学校に向かうから、ついて来い。」

と言うと高木さんは狭い駅舎を出た。僕も後に続いた。




正式名称『京都府立警(きょうとふりつけい)察高等学校(さつこうとうがっこう)』。


通称『京警高校(きょうけいこうこう)』はこれから僕が通う学校だ。


通常警察学校とは、警察職員を目指す、高校を卒業した18歳以上の者が通い、教育と訓練を行う機関である。


しかし、警察高校の入学資格は中学を卒業した15歳以上の者に与えられ、唯一京都府にのみ、設置されている。


他にも警察学校と京警高校には大きな違いがある。



時を遡ること60年前、約75年周期で地球に接近するハレー彗星の一部がアメリカ・カルフォルニア州に落ちてきたのが事の発端である。


幸いなことに比較的破片の大きさが小さく、人気のない山林に落下したため、怪我人等出ずに被害も少なかったという。


学者たちは落下したハレー彗星の破片を研究所に運び、成分分析を開始した。


すると、凍てついた岩石の中に『タキオン』と呼ばれる物質が検出された。


『タキオン』とは質量が虚数で、超高速で移動する物質のことである。


何より最大の特徴は、空間と時間に歪みを発生させることだった。


それはどういうことか。


時間は常に同じ方向に流れる。それを曲げたり、強めたり、弱めたりすることは当然ながらできない。


しかし、タキオンの周辺の空間と時間は歪な形で存在する。


縮んだり、広がったり、または進んだり、戻ったり、不規則な形で。


学者たちは考えた。

タキオンを利用すれば、時間の移動が可能になるのではないかと。


各国政府はタイムマシンの開発に尽力し、タイムトラベルの実現を目指した。


ハレー彗星が落下し、タキオンが発見された12年後、タイムマシンは完成した。


しかし、完成したはいいものの現時点でのタイムマシンにはいくつかの欠陥がある。


一つ目は、現在より先の時間つまり、未来にはいけないこと。

過去の時間のみ移動することができる。


二つ目は西暦600年以前の過去の世界には行けないこと。


それ以外にも何か欠点があるらしいが、特に公表はされていない。


現在、タイムマシンは遺跡や歴史の調査の手段として利用されており、過去を変えることは法律で禁止されている。


タイムマシンを利用できるのは学者と時空警察と呼ばれる組織の人間だけである。時空警察とは考古学・歴史学者の調査に同行し、警護と監視を行う組織である。


その「時空警察」を育成するのが京警高校である。


活動場所が過去か現在か。


通常の警察学校と京警高校の最も大きな違いだ。






「うちの高校は、この山を登った先にある。土地勘のない奴は絶対に迷うから毎年、上級生が新入生を迎えに行くんだ。」


360度木々に囲まれ、山道は多少舗装してあるだけで、立て札も看板も無いから、確かに迷ってしまうかもしれない。


「ところでお前、荷物はそれだけか?」


高木さんは僕の肩掛けカバンに目をやった。


「それに何で学ラン着てるんだよ?私服でいいって言われてただろ?」


高木さんが疑問に思うのはもっともだ。


これから学生寮で三年間暮らす人間の荷物が小さな肩掛けカバン一つで済むはずがない。中学を卒業した僕が中学の制服を着ているのもおかしい。


僕は苦笑いして説明した。


「中学の制服と学校のジャージ以外の服を持ってないんですよ。普段着として着られるものがなくて…」


高木さんは、しばらく黙って「そうか。」と呟いた。


それ以上僕に何も聞いてこなかった。



何ともいえない空気になったので、話題を変えた。


「学校の近くに神社があるんですね。」


僕は木と木の間から見えた南にある漆塗りの鳥居を指差した。


僕らがいる場所からそこそこ離れたところにあるのにその鳥居はかなり大きく見えた。僕が今まで見たことのある鳥居の中でたぶん一番大きいのではないだろうか。


「あぁ、あそこか。」

と高木さんは僕が指差した方を向いた。


「あそこに神社はねぇよ。うちの高校が建てられるずっと前から鳥居だけがあるらしいぞ。なぜだか知らんけどな。」

と高木さんは言った。


もう一度僕はその鳥居を見つめた。


それと同時に(からす)が不気味な声で鳴いた。



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