S.N.S.
息抜きに書きました。
「──そんなわけで、俺は加奈と付き合うことになったんだ」
共通のゲームを基にネット上で集まった者が現実世界でテーブルを囲む。所謂オフ会というそのイベント中、目の前にいる男は店の中でそう締めくくった。
「おめでとやで」
「おめでとさん。まぁ、二人仲良さそうだったもんね」
「おめでとっす」
青山、山崎、羽柴がそれぞれ祝いの言葉を述べる。ネットの集まりのサーバーを運営する木下は彼らの事は知っているが、目の前で加奈の隣に座る男の名前を知らない。サーバーで何度か話したことはあるが、積極的に関わろうとはしていなかった。おめでとう、と話す自分の声が何処かぎこちない。
男の隣にいる女性、碓氷加菜は俯いたままだ。サーバーではチャットでしか離さない彼女は、他人と話すことが苦手なのか、何度か声を出そうとするも言葉が出てこない様子だ。
「まぁ、俺も碓氷とお前のことは知ってたし?全然今知ったとかじゃないし?そもそも──」
羽柴がおどけた様子で話し始める。木下はそれを聞きながら、トイレに行くことを皆に伝え、席を立った。皆が見えなくなるまでトイレの方向に歩き、そのまま店の外に出る。
木下茂は、碓氷加奈の事が好きであった。
ずっと昔、まだ木下がサーバーの運営者になる前に、サーバーに入ったばかりの木下は好きなゲームの話題も出せず、メンバーに馴染めずにいた。そんな木下に言葉をかけたのが碓氷だった。ほとんど喋らずにいた木下に対し、サーバーのルールを説明するのではなくただ話題を振ってくれた碓氷に木下は感謝していた。まだ木下達がお互いの本名を知らなかった頃の話だ。
メンバーと遊び、話し、木下がサーバーの運営者になってからしばらく経った頃、碓氷がサーバーを脱退した。木下はその時初めて自分が碓氷に想いを寄せていることに気づいた。チャット専の碓氷の素性や性別を当時の木下は気づかなかったが、そんなことはどうでも良かった。時が経つにつれ想いが募るというわけでもなく、ただ伝えられなかったなとぼんやりと木下は思った。
それまでの木下にとっての恋愛の対象は、木下にとって一緒に居ないと苦しくなるものだった。一瞬たりともそばに居ないと自分が落ち着かなくなる。恋愛とはそういうものだと思って居た。しかし碓氷の脱退は、彼に未練以上の感情を抱かせなかった。未練がないと言えば、それは嘘だ。しかし彼女を追おうとはしないし、後から気づいた想いを伝えられなかったことをそれほど後悔していない。
そして今に至る。碓氷が幸せで良かったと木下は思う。彼女の動向を思いのほか気にしていた自分に驚きつつ、碓氷がサーバーを離れる少し前に言った言葉を思い出していた。
好きな人とか居ないんです?
居るけど進展していません。そう心の中で答えつつ、木下は駅へ歩いて行った。
人の気持ちって書こうとするとくどくなりますね。