Case2R 嫌がらせなら、これくらいしませんと
ルンタタ男爵家あてに、卒業パーティー用のドレスが届いたとの報告が入りました。
婚約者である私には、届く気配もありません。というより、発送されたのが一組なのですから、私のところに届くことはないでしょう。
所詮は政略ですし、私もタリン様にさして興味もありませんが、逆に政略だからこそ気を遣うべき部分も多いはずです。
王子として生まれた以上、好むと好まざるとに関わらず求められる態度というものがあるのですが、おわかりいただけないようです。
我が家としても、今更ほかの王子が王位を継いでもうまみがないので、できれば順当にいってほしいところだったのですが。
「お父様、ヨージーが作っていた資料ですが、これは我が家に対する裏切りですわね」
ヨージー付きの侍女が入手した資料は、私がルンタタ男爵令嬢に対して嫌がらせをしていたというねつ造された証拠でした。
こんな穴だらけのもので私を陥れようとは、呆れてものが言えません。
おそらく、一部は本当に被害に遭っていて、それを私のせいにしているのでしょう。
こんな手ぬるいまね、私がするはずないのがわからないのでしょうか。
そもそも、公爵家の力を使えば、庶子の小娘1人くらい抹殺することさえたやすいですのに。
そうですね、せっかくですから、高位貴族のやりようというものを見せて差し上げましょうか。
「お父様、殿下の背任は明らかです。
おそらくドレスは私用ということで注文されていることでしょう。
そんなものを着てパーティーに出られては、いい笑いものです。
パーティーには、2人揃って欠席していただきましょう。
できれば、庶子の方には表舞台からも退場していただきたいところですが、よい嫁ぎ先はございませんか?」
「たしかウナニラ子爵が後添いを探していたな。世話してやるとしよう」
「それはよろしいですね。
あとは、殿下とヨージーですが」
「身の程知らずはたたき出せばよいとして、殿下か。
特段、王太子の後ろ盾になりたかったわけでもない。頼まれて断らなかっただけのこと。
この程度の理屈もわからぬ暗愚に国の舵取りを任せるなど、背筋が凍る。
早々に引導を渡してやるとしよう」
予算の横領と不貞行為によるタリン様有責での婚約解消は、お父様にお任せしましょう。
私は、ヨージーに代わる後継者候補──私が公爵家を継ぐに当たり片腕となる予定のデイリーにエスコートさせてパーティーに出ましょうか。
タリン様は、庶子を待つのにお忙しいでしょうし。
ヨージーは後で呼び戻すことにして、私はさっさと会場に入りました。
バカな子。
私を貶めようなどと考えなければ、養子のままでいられましたのに。