Case11 一番偉いと勘違いしていませんか?
「アクレー! お前はこのタラッタに嫌がらせをしてきたな!
お前のような陰険な女は王太子妃に相応しくない! お前との婚約は破棄する!」
カラッパ王国の第1王子:タリン・ノー・カラッパは、卒業パーティーの会場で高らかに宣言した。
まくしたてるタリンに対し、婚約者であるアクレー・コーシャック公爵令嬢は、鬱陶しそうに言い放った。
「お黙りなさい」
「なっ!? 貴様、誰に向かってそんな口をきいている!」
「王子たるタリン・ノー・カラッパに対してです。
これを見なさい」
アクレーは、脇に控えていたゴーエイが恭しく捧げ持つ箱から1枚の紙を取り出し、タリンに見せた。
「私は陛下より、王子タリンに対する処遇の全権を委ねられています。
今この場において、私は陛下の名代。
私への無礼は陛下への叛逆と見做します。
タリン、頭が高い。ひれ伏しなさい」
突然ひれ伏せなどと言われ納得できないタリンは、アクレーを怒鳴りつけた。
「ふざけるな! お前にひれ伏せだと!」
アクレーは顔色ひとつ変えず、警備の兵に命じた。
「陛下に対する不敬である。そこな無礼者を跪かせなさい。
抵抗するようなら、打擲なさい」
タリンの生殺与奪の権限を与える書状をもつアクレーの命令に、兵はタリンを押さえつけ、力尽くで床に押しつけた。
「タリン・ノー・カラッパの王族としての全ての権限を凍結します。
貴族牢に入れなさい」
「貴様ら、俺にこのような…」
兵に両脇を抱えられ、引きずり出されながら喚くタリンを見て、アクレーは
「お待ちなさい。
立場というものを身体に教えてやりなさい。
そのうるさい口を開けなくなるまで剣の鞘をもって打ち据えるのです」
「なにを!?」
バキッ!
アクレーの命令により、兵達はタリンが一言発するたびに顔を、腹を、背を、鞘で殴りつけた。
やがて
「も、もうやめ…」
ゴキッ
顎を殴られて動かなくなったタリンは、両手首を捕まれてズルズルと引きずられていった。
タラッタは、怯えた表情で、後ずさり、いつの間にかいなくなっていた。
多くの貴族の前で王命に逆らったタリンを庇う者はなく、数日後、タリンは叛逆罪で公開処刑された。
これら一連のことは、事前にタリンの企みを察知したコーシャック公爵家から王への進言によって決まった。
王命による婚約を軽視するタリンを罰しなければ他の貴族の反感を招くことを憂慮した王は、タリンの行動如何によって処遇を決めるべく、アクレーに全権を委ねたのだった。
タリンの企みを止めることのできなかった側近達や、元凶であるタラッタは、いずれもタリンの連座として、貴族籍を抜かれ、強制労働などの刑に処された。
アクレーは、婿を取って公爵家を継いだのだった。




