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Case10 証人ならこちらにもおりますが

 「アクレー! お前はこのタラッタに嫌がらせをしてきたな!

  お前のような陰険な女は王太子妃に相応しくない! お前との婚約は破棄する!」


 カラッパ王国の第1王子:タリン・ノー・カラッパは、卒業パーティーの会場で高らかに宣言した。

 婚約者であるアクレー・コーシャック公爵令嬢は、この人はどうしようもない馬鹿だと呆れを隠しもせず


 「公爵家令嬢たる私にあらぬ疑いを掛けたとなりますと、後で謝罪も簡単には参りませんのに、こんなところでいきなりとは…」


と言い返した。

 ご丁寧に、センスで口元を隠してだ。いかにも嘲笑していますと言わんばかりの態度だ。

 さすがにタリンにもそれは伝わったらしく、顔を真っ赤にして怒りだした。


 「俺が嘘を吐いているとでも言うつもりか!?」


 「私は、あらぬ疑いと申しております。

  では、殿下は私が嘘を吐いていると仰せになっていることになりますが」


 「だから、俺が嘘を吐いていると言うのかと言っている!」


 「ですが私は嘘など申しておりません。

  殿下も嘘は吐いていない、と。

  であれば、嘘を吐いているのはどなたなのでしょうね?」


 「言っていろ! すぐにぐうの音も出なくしてやる。

  ヨージー、こいつの罪状を教えてやれ!」


 ヨージーが滔滔とアクレーがタラッタにしてきたということを述べていく。

 曰く、足を掛けて転ばせた、曰く、教科書を破り捨てた、曰く…

 タリンは、アクレーを冷ややかに見ながら

 「どうだ、何か言うことはあるか」

と言い放つ。

 対するアクレーは平然と


 「言いがかりもいいところです。

  確たる証拠があるとでも?」


と、これまた冷たく答えた。


 「もちろんあるに決まってるだろう!

  澄ました顔をしていられるのもここまでだ!

  ワンリ!」


 タリンの命を受けてワンリが4人の学生を連れてきた。


 「お前達の見たことをありのまま言ってやれ!」


 4人の証人達は、アクレーの罪状を語った。

 曰く、アクレーが廊下でタラッタに足を掛けて転ばせた、アクレーがタラッタの教科書を取り上げて破り捨てた、アクレーがタラッタの制服に紅茶を掛けた、など。


 「どうだ! 申し開きできまい!」


 勝ち誇るタリンに対し、アクレーは小首をかしげると、周囲を見渡して


 「今のお話、私の無実をご存じの方がいらしたら、お申し出ください」


と言った。

 数人がおずおずと出てきて


 「あの、男爵令嬢が廊下を走ってきて公爵令嬢にぶつかって転ぶのを見ました。

  わざとぶつかっていったようでした」


 「男爵令嬢が公爵令嬢の前で何かわめき散らした後、突然泣きながら走り去っていくのを見ました。

  公爵令嬢は一言も発しませんでした」


などとタリン側の証人の証言と逆の証言をした。

 唖然とするタリンに、アクレーはにこやかに言い放った。


 「さて、このように相反する証言が得られました。

  いずれかが虚偽ということになりますわね。

  この上は、陛下のご裁量を仰ぐ必要があると存じますが」


 「お前は、彼らが嘘を吐いていると言うのか!?」


 「では、彼らが嘘を吐いていると?

  何を証拠にそのように言い切れるのですか?

  殿下が全てを目撃されたとでも?」


 「俺を疑うのか!?」


 「殿下は私をお疑いなのでしょう?

  ですから、今申し出ていただいた証人の方々については、殿下から保護する必要がございます」


 「お前にそんな権限など!」


 「殿下にも、貴族を裁く権限はございません。

  殿下を謀るにせよ、私を陥れるにせよ、重罪です。

  私達にそれを詮議する権限はございません。

  警備の方々、双方の証人の方々を丁重に保護してください。

  くれぐれも、どなたにも接触させないよう。

  何かあれば、不正に荷担したとして、あなた方が罪に問われてしまいます」


 アクレーは、兵に釘を刺して証人を連れ出させた。

 慌てたのはタリンだった。

 用意した証人達にはよく言い含めてあったが、不正な証言をした者は重罪に問われると言われたのでは、裏切られるおそれがある。

 かといって、ここで騒ぎ立てれば、自分の用意した証人はアテにならないと明言するようなものだ。

 不本意ながら、黙って見送るしかなかった。




 翌日から、証人からの聞き取り調査が行われた。

 タリンもアクレーも、関係者は全て除外した上での聞き取りであり、その内容も知らされることはなかった。

 そして、4日後。

 タリンとアクレーは、王の前に呼び出された。


 「双方の証人に聞き取り調査を行ったが、いずれも主張を譲らず真偽は判然とせぬ。

  よって、いずれに対しても特段の措置はとらぬこととした」


 タリンはホッとした。どうやら誰も裏切らなかったらしい。

 こちらの主張は通らなかったものの、仕切り直す手はあるだろう。

 だが、次の王の言葉に耳を疑った。


 「よって、この場は、タリンの王位継承権を剥奪するに留める」


 「なっ!? どういうことです、父上!」


 声を荒らげるタリンに、王は冷たく告げた。


 「お前は、いつから高位貴族を裁ける立場になった?

  こたびの件、明らかに越権行為だ。

  しかも、余の用意した婚約を勝手に破棄しようとしたな。

  つまり、余の命に従えぬということであろう。

  よって、お前に王位は継がせぬこととした」


 「そんな!?」


 「願いどおり、コーシャック公爵令嬢との婚約は解消しよう。

  賠償はお前の資産をもって行う。

  許可あるまで自室で謹慎を命ずる。

  一歩たりとも部屋を出てはならん。

  連れていけ」





 こうして、タリンは立場を失った。

 その他の者については、特段の沙汰はなかったものの、タリンの側近達は主の失脚により立場を失った。

 また、タリンの側で証人となった者達は、コーシャック公爵家に敵対したものと見做されたため、家から切り捨てられることになった。

 ある者は家から放逐され、ある者は修道院に送られ、ある者は病と称して処分された。

 タラッタもまた、数日後に病死(・・)した。

 そして、ヨージーは公爵家の子飼いの家で下働きとして働くことになり、地獄を見ることになる。

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― 新着の感想 ―
[良い点] うーーーーむ。 証拠不十分だからお咎めなし…と思いきや。 疑いじゃなくて、事実でのみ裁かれたか。 推定無罪とは言いながら、その後の経緯を見ればタリン側の敗北だ。偽証はバレてたってことだ…
[一言] 面白かったです! 前の方も全部読み直した!
[良い点] 更新ありがとうございます(人´∀`*) 今回も容赦ない!ヽ(=´▽`=)ノ
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