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いきなり同棲生活

 ◇◆◇


「そうして、悲痛な叫びが木霊する中、美しきダークエルフは命を落としたのであった……って、なるかと思ったんだろぉ? あーはっはッ!」

「……酷いです、リターシャさん」


 全てが片付いた後、彼女は膝を叩きながら僕のことを下品に笑った。くそ、こんなことになるなら助けなきゃよかった。


「傷を負っていたのは本当なんだ。嘘を吐いたわけじゃねぇよ」

「だからって、死んだふりなんて……それに、傷も直ぐ治っちゃったし」


 そう、あの後僕らの戦いは「なかったこと」になった。ナンパ三人衆も、何事もなかったように復活し、そして誰一人として「学校がダンジョン」に変化した事を覚えてはいない。直ぐに、日常へと戻った。僕ら以外は。


「お前が魔物を退治してくれたお陰で、世界結合コネクトされなくて済んだんだ。つまり、事象は確定しなかったってこと。おっと、記憶がないお前にはちゃーんと時間を掛けて説明しないとなぁ」

「だからって、なんで僕の家に……」

「仕方ねーだろ、こっちに来たばっかりで宿がないんだから」

「宿無し……制服とか、そもそもどうやって入学したのさ」

「服装、容姿は転生の後、この世界基準に変化した。お前がほうきを剣に変えたみたいにな。んで、魔力の気配を辿ってきたってわけ」

「入学……」

「エルフの魅力なめんな。人間のおっさんを手のひらで転がすくらい、お茶の子さいさいよ」


 我が物ヅラで胡座を掻きながら、自慢げに語るリターシャさん。何もかもが規格外で、到底理解できそうになかった。


「全く、本当……一体全体どうなっちゃってんの」

「だから、ちゃんと説明してやるから座れって」

「ここは僕の家なんだから、座るよ」

「じゃあ早速、何から聞きたい?」

「全部。勇者とか、化け物とか……その、結婚、とか」

「分かった分かった、リターシャ先生に任せなさぁい」


 彼女は大きな胸を前に張り、机の上で指をなぞらせた。すると、光の線が絵を描き始める。これも魔法か。


「まず、大前提として私と『お前』は、この世界(ヴァイス)の生まれじゃない、異世界シュバルツの生まれだ」

「突っ込んでたらキリが無さそうだから、黙ってるよ」

「ようは、お互いに空想上の世界なんだよ。私の世界ではこの世界が、この世界では私の世界が創作物がある。だが、実際に存在するんだ、異世界は」


 だから僕たちの世界の言葉も、常識も理解してるって言いたいのだろうか。そんなの、信じられるわけ……いや、実際に目にしてしまったもんな。

 リザードマン、魔物、化け物、魔法、特殊な剣、全部僕の世界では空想上の物だ。


「んで、シュバルツで私たちは魔王を倒す勇者パーティだったんだけど、お前は大勢の女の子に囲まれていながら誰一人として妻を選ぶことはなかったのさ」

「僕を勇者みたいに呼ぶのは辞めてくれる? 人違いだって言ってるでしょ……」

「馬鹿を言え、その魔力の多さは間違いなく勇者だろ。記憶が戻れば分かることだ」

「容姿で判断はできないの?」

「できない。ダークエルフの私が、ヴァイスに来たら……えっと、『黒ギャル』? になるように、世界の基準に合わせられちまうからな」


 ダークエルフ。エルフの希少種とか、はぐれ物として描かれることが多い種族だ。


「それで……前に言ってたけど、勇者の遺言でリターシャさんはわざわざヴァイスに来たんだね」

「お前は魔王に挑む前、単身で突撃したんだ。魔王は死に、世界は平和に、たが勇者も同時にいなくなった。魔力を追ってみると、どうやら別世界に転生したらしい──ならば!」

「……アホ過ぎる……」

「なにぃ!?」


 だから、姿を変えてまでこっちの世界に来たって? 異世界人は何を考えてるかさっぱりだ。


「男なんて腐るほどいるでしょ、そっちにも」

「あぁ」

「リターシャさんは美人なんだから、貰い手には困らなかったでしょうに」

「──ッ……本当か?」

「え……?」

「本当に、私を美人だと思ってくれているのか?」

「そりゃ……まぁ」


 なんだよ、さっきまでオラオラ系だったくせに、急にしおらしくなって。こっちまで恥ずかしくなるじゃないか。


「……やはり、嬉しいものだ。褒めてもらえるのは」

「自分で『エルフの魅力をなめるな』って言ってたじゃん」

「好きな者から言われるのは格別なんだよ。腐るほど男がいても、愛したのは勇者一人だけなのさ」

「むむ……別人だって言ってるのに……それで、あの化け物、魔物までこっちの世界に来てるの?」

「可能性は色々考えられるな。私達異界の住人が接した結果か、はたまた追い詰められた魔物がヴァイスに逃げてきたか……世界の境界線に歪みが生じている事は間違いなさそうだ」

「歪みって、あの中途半端な状態のこと?」

「そうだ、世界結合前の状態だな。ちょっと難しい話になるが──」


 そう言ってリターシャさんは詳しく説明を始めた。

 まず、彼女の容姿が変わったようにヴァイスとシュバルツ、二つの世界を行ききする場合、境界を越えなければならないらしい。

 境界は人間時間の約8時間で結合され、確立事象……つまり、現実になるらしい。

 だから今日、「死」という事象が確立する前に歪みの発生源を追い返したからナンパ三人衆は蘇り、生徒達の記憶は消えたのだとか。


「あのままリザードマンを倒せなければ、私だって傷を負ったままだった。割と危なかったんだよ」

「……なら、どうして僕らの記憶は残ってるんだろう?」

「元がシュバルツの住人だからさ、魔力を持っているが故に記憶を保護できる」

「でも僕は……」


 シュバルツの頃の記憶がない。もっと言えば、ヴァイスでの記憶も──


「まっ! 難しい話はここまでだ、頭使う事は苦手なんだよ……どーせアイツも来るだろうから、そん時に調べるとしよう」

「アイツ? もしかして、他のパーティーも……って、わぁ!? なんで脱ぐのさ!」


 唐突に立ち上がり、唐突に服を脱ぐリターシャさん。


「疲れた、風呂ぐらいあんだろ?」

「だったらあっちで脱いでよ! あっち、あっち!」

「ん、りょーかい。おっふろ、おっふろ」


 僕が指を挿した方へスキップしながら向かう。

 今日はリターシャさんに振り回されっぱなしだ。

 ……でも、うん。

 あの褐色肌に、規格外の胸……男児としては福眼以外の何物でもないよなぁ。

 と、頭の中で彼女の裸体を思い出していた──その時だった。


「ぁ、きぃやぁぁぁ!!!!!」


 浴場から絶叫が聞こえたのは。

 

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