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いきなり魔族襲来


 ◇◆◇


 放課後、熱い視線を背中に受け続けた僕は終礼の鐘と共に堪らず教室を飛び出した。

 刹那、群がるクラスメイトを弾き飛ばし、奴が襲い掛かってくる。


「なんで、ついてくるんですかぁ!?」

「黙れ、約束しただろ! 忘れたとは言わせんぞ」

「身に覚えがございませんのでぇ」

「なにぃー!?」


 廊下を駆ていると、生徒達の視線が刺さる。

 そりゃそうだ。陰キャが必死になって金髪ギャルから逃げているんだから。

 てか、勇者ってなんだ、結婚って、もっとなんだ!?


「ちッ! ダークエルフから逃れられると思うなよ」

「だから、エルフってなに!?」

「捕らえ──な、にぃ!?」


 腕が襟を掴もうとした時、リターシャさんの周りを三人の男が囲んだ。


「ねぇ、君転校生だよね? 何組? カラオケ行かない?」

「美しい乙女だ……よければこの後、僕とお茶でも」

「ねぇねぇ、僕とお話ししよー」


 チャラ男、イケメン、ショタの三人集。

 学校内じゃ有名なナンパ師達だ。

 彼女の美しさに吸い寄せられやってきたのだろう。

 いつもなら鬱陶しく煩い奴らなんだけど、助かった。


「なんだお前たちはぁ!? 邪魔だ、どけっ!」

「そんな事言わず、ちょっとだけ付き合ってよぉ。奢るからさ」

「私は今、それどころじゃ……ぁ、勇者てめぇ、逃げるなぁ!」


 取り巻きが足止めをしている間、人混みに紛れ彼女の前から姿を消す。

 そして、適当な教室の中へと入り机の影に身を隠した。

 彼女は転校生、学校の構造は詳しくないだろう。

 とりあえず、日が暮れるまでここにいて、絶対に諦めたくらいに帰ろう。


「明日からは……はぁ、不登校になっちゃうよ」


 よく考えれば同じクラスなのだから、毎日会うのは当然だ。

 その度に、今日みたいに逃げなければならない。

 幸か不幸か、両親はいない為、不登校になったところで誰かに責められることはないけど。


「もう、いいか。学校なんて」


 別に、勉強が好きで通っているわけじゃない。

 友達だっていないし、人としても義務として、なんとなく通っているだけだった。

 人に嫌われるのは我慢できる。

 けれど、好意を向けられるのはむず痒くてしかたない。

 まして「結婚」だなんて、リターシャさんは何を考えているんだよ。


「見つけた、勇者さん」

「──ッ、ひっ!?」


 体育座りで顔を埋め、身を小さくしていると声が聞こえた。

 驚き顔を上げると、目の前で腕組をし、ギラリと眼を輝かせる彼女の姿があったのだ。

 早い、流石に早すぎる。

 

「ど、どうしてここが……」

「もう魔力は捉えたから、残留魔力を追いかけただけさ」

「魔力って……意味がわからないよ!」

「あぁ? 魔力は魔力だろ。魔法を使う為のエネルギー、生命の原子」

「魔法!? リターシャさん、漫画やアニメの見過ぎだって」

「漫画? アニメ? なんだそりゃ」

「と、とにかく、僕に構わないで! 君の言う『勇者』なんて人間じゃないんだから」

「そうかそうか、あくまでしらばっくれる気なんだな」

「へ……ちょ、リターシャさん!?」


 彼女は舌舐めずりをすると、制服のボタンを上から一つ、二つと外していった。

 もとよりパンパンに張っていた胸が弾けるように開放されていく。

 夕日が挿し込む教室が、一気に官能的雰囲気へと変貌する。

 慌てて両手で眼を隠し、なるべく彼女の肌を見ないようにして叫んだ。


「ななな、なんで脱ぐの!?」

「だってお前、こーいうの好きだったじゃん」

「男なら誰だって……って、違うよ!」

「違わないだろ。結婚するんだ、今更恥じることはないさ」

「だから、結婚なんてしないって! 僕は初対面じゃないか」

「この世界では、な」

「……は?」

「お前、あっちで言ったじゃないか。『俺、この戦いが終わったら……お前達の中から一人と結婚するだ』って」


 あからさまな死亡フラグ発言じゃん。

 いや、その前に「あっちの世界」ってなんだ。


「意味分かんないよ、リターシャさん!」

「ん、転生の際に記憶が消滅しているのか?」

「転生!?」

「まぁいいさ、身体を重ねればその内思い出すだろう。既成事実を作ればこっちのもんさ」

「ま、待って、ま──」


 指の隙間から艶めかしい果実が見える。

 伸びてくる手は、僕の第一ボタンを外した。

 ──その時だ。


「きゃぁぁぁ!!」

「お前、女の子みたいな声出すな」

「ちが、僕じゃない! 外からだ」


 女性の悲鳴が耳を刺す。

 声色は危機感を感じるものであった。

 そう、まるで断末魔のような。


「ちっ、しゃーない。行くぞ、勇者」

「行く? 何処へ?」

「決まってるだろ。悲鳴が聞こえたんだ」

「……え?」


 見上げた彼女の表情は、さっきまでとは比べ物にならないほど凛としていた。

 目付きが変わり、緊張感が僕にまで伝わってくる。


「魔力を感じる。もしかして、私と勇者が干渉したから?」

「リターシャさん、今の声ただごとじゃないよ。隠れてようよ……」

「なるほど、本当に記憶がないみたいだな。なら、アイツがいれば治癒魔法で戻るかもしれないが、今は……粗治療しかあるまいに!」

「わ、わわわ!」


 淫行を促そうとしていた手に胸倉を掴まれ、無理矢理廊下の外へと引き摺り出される。

 トラブルには関わりたくないのに、リターシャさんと出会ってから日常は崩れていく。

 ……だが、今までの出来事は些細な事と言わざるおえないくらい、普通の学校の普通の廊下だったそこで見たものは、普通じゃない光景だった。


「な……なんだ……ここ」

「やはり、か。干渉による空間転移、つまるところ」

「これ……ダンジョンみたいじゃないか」


 窓はなく、細かな岩で囲まれ、謎の光源で照らされる道。ゲームや漫画、ファンタジー系創作物でよくあるダンジョンが目の前に、現実に広がっていたのだ。

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