いきなり勇者宣言
俺の名前は三森 真和。
極普通の高校一年生、だった筈なのに。
あまり人との交友が好きではなく、進級した後も窓際の席でぼーっと外を眺める毎日。
成績は中の中、運動神経はバツ、当然コミニュケーション能力は下の下。
世間的に見れば、陰キャと呼ばれるタイプの人種であることを自覚していた。
だから、下らない話題でバカ笑いする必要もないし、耳を裂くような姦しい声に囲まれることもない。人間は嫌いだ。
「なぁ、また真和のやつ一人で飯食ってるぞ?」
「誰か誘ってやれよ、入学してからずっとボッチじゃわんか」
「えーやだよ、なんか暗いしキモいじゃん」
「それに、中学時代めちゃくちゃイジメられてたらしいよ?」
「だろーな、いじめられっ子っぽいもん」
わざわざ聞こえるように陰口を叩く奴らも、もう飽きてきた。
大人になれば、皆が俺の存在を忘れ、それぞれの道を進んでいく。
耐えればいいだけ。たった三年、静かな湖のように心を殺し続ければいい。
そう思って半年が過ぎた頃──
「はーい、皆席について。今日は転校生を紹介するぞ」
「おぉ!」
朝のHR、クラス教員がそう告げると教室は一気に沸き立つ。
「ねぇ、どんな子かな?」
「先生、男の子ですか、女の子ですか?」
「可愛いのかな、かっこいいのかな?」
俺はこの時期に転校生が来ることに違和感を感じいたが、誰もそんなこと気にしていないようだった。
新しいクラスメイトの姿に妄想を膨らませ、盛り上がっている。
まぁ、俺には関係のないことだ。男だろうが、女だろうが、結局のところどこかのグループに取り込まれ、友人を作り、話す機会のない人間となるだろう。陰口を叩き「お友達」と一緒に、俺を笑うんだろう。
「落ち着け、転校生が入って来にくいだろう、全く……ほら、入ってこい」
「たく、やっとかよ。待たせすぎだってーの、おっさん」
「お、おっさん!?」
扉の外から酷く気品のない言葉遣いが聞こえ、思わず視線が誘導される。
ガンっと勢いよく扉を開き、ズカズカと足音を鳴らしながら入ってきたのは……ギャルだった。
「うーす、皆の衆、よろしくぅ!」
新しい環境だというのに、堂々とした態度。
褐色の肌に、風に靡く長い金髪は太陽のように煌めいていた。
「すごい綺麗……外人さんかなぁ」
隣の女子が呟く。
高い鼻に深い堀、整った顔はまるで絵画から現実に飛び出してきたみたいだ。
しかし、それ以上に男なら誰しも視線を釘付けにされる場所があった。
「で、でけぇ……」
前の男子が呟く。
着崩し開けた胸元から溢れる天然の果実。
スイカよりも瑞々しく、メロンよりも大きい二つの球体。
彼女は劣情を擽る悪魔の実を胸に二つ備え付けていたのだ。
さっきまでざわついていた教室が、一瞬で静寂に包まれる。
人間、想像を絶する美しさを目の当たりにした時、言葉を失うのだと学んだ。
当然俺も、そのうちの一人。
「さて、どこにいっかな?」
「こ、こら! 勝手に席に向かうんじゃない、まずは自己紹介を──」
「ち、めんどくせーな、この世界わ。ま、郷に入っては郷に従え、か」
ため息を吐き、教壇の上に立つと彼女は名乗る。
「私の名前はリターシャ・クルスフェル。以後、よろしく頼むよ、下等住民」
「やっぱり外人さんだ」
「でも、それにしては日本語ペラペラじゃないか?」
「……下等住民って、Sっ気たっぷりだな」
リターシャ? 一体どこの国の名前だ?
アニメや漫画の名前みたいだな。
「さぁ、名乗った。いい加減、座ってもいいか」
「……あぁ、君の席は窓ぎ際の一番奥だ」
「はいよ」
窓際の一番奥、それは俺の後ろの席。
偶然にもリターシャさんと目があってしまう。
すると、顎に手を当て彼女は首を傾げ呟いた。
「アイツは……もしかして」
「──っ」
ズカ、ずかずかずか。
歩幅を大きくし、真っ直ぐ俺の方に向かってくる。
何、何か気に食わないことした!?
か、顔? いや、めっちゃ怒ってるじゃんか!?
「アンタ!!」
「ひ、ひぃ!?」
バァン! と机を叩かれ、前のめりになりながらガンを飛ばしてくる。
そして、上から下まで舐めるような目付きで見た後に、リターシャさんはこう言ったのだ。
「久しぶりね、勇者。約束覚えてるでしょ?」
「久しぶり……? 勇者……? 約束……?」
「惚けんな!」
「ひッ!? ひ、人違いじゃないです、か?」
「異界にこんな膨大な魔力を持って来ておいて、人違いなんて言葉で逃げ切れると思うな!」
「へぐッ!?」
胸倉を掴まれ引き寄せられる。
静まる教室。注目する視線。
艶やかな唇からは、思いもよらぬ言葉が告げられた。
「約束通り、私と結婚しろ! 勇者、クロス・ネイチャー!!」
「……ぇ?」
「「えっーー!!!」」
この日、俺はクラス……いや、学校中から注目を浴びることになってしまった。
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久しぶりになろうにて新作を投稿させていただきました。
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