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救いの手

 耳のすぐそばで荒く呼吸する音が聞こえる。


 見上げると、つややかな黒髪の間から金色の燃えるような瞳と目が合った。


 レオン。レオン・ウィンチェスター。私たちローズベリー家とあまり仲が良くないウィンチェスター家の次男で、私より学問に優れている、羨ましい男。

 

 涼しい目つきの、独特な空気感のある男で、恐ろしいほど整っている端正な顔に、長く力強い美しい四肢の持ち主で、立っているだけで圧倒される。その魅力で数多の美少女と浮名を流している。


「な、なに」

 私や二人の驚きをよそに、洗練された動きで後ろから腕を回し、頬をつかんでくる。

 金色の目を合わせたまま、のぞき込むように顔を近づける。レオンの息が、肌にかかる。

「息、吐け」

「な」

「いいから」

 私の頬を持つ手を強める。言う通りに息を吐くと、自分が浅くしか息をしていなかったことに気づく。意識して呼吸すると、頭に酸素が回ってきた。


「ん」

 満足そうな笑みをたたえ、美しく光る目を細める。私に触れる長く端正な指が優しく、やわらかくなる。


 そこで視線を奥に向けたレオンは、雰囲気を変えた。

「お前ら、何」

 全身から圧力を発しているような迫力で、視線を向けられていない私でさえ鳥肌がたった。資料庫は、先ほどの空気とはまた異なる、今にもチリチリと電気が走りそうな、濃く、詰まった空気になった。


 隙間の無いくらい密着していた二人だったが、オリヴァーがぱっと体を引き離す。


 それをつまらなそうに見やると、私が貧血になっていることを見抜き立ち去ろうとした。


「待って」

 初めてオリヴァーが言葉を発したが、それに応えられるほどの余裕はない。

「レナ」

 今まで愛称で呼んでくれたことなんてなかったのに。

 抱えた私の肩が固くなったのを感じたのだろうか。レオンが振り返りつぶやいた。


「勝手に潰れたやつが言うことなんねえだろ」



***



 翌朝、エレナは包み込んでくれるベッドの中で悩んでいた。


 オリヴァー皇太子と婚約破棄すると、王宮図書館や研究所に自由に入りが出来なくなる。これは困る。

 これまでは皇太子の婚約者ということで自由に出入りが許されていたし、もちろん結婚してからもそうである予定だったのだが、私はもう彼と結婚したくない。そうなると王立施設が自由に利用できなくなる。でもそれと秤にかけても出来れば、婚約を破棄したい。もうあの唇に触れることを想像しただけで、鳥肌が立つ。私は長女と言っても1年差だからあまり歳の差はないし、ミリーと皇太子が婚約するなら家の繋がりも変わらないんだから破棄できると思うんだよなあ、などとぼんやり考えている。でも図書館行けないのは痛いなあ。寝返りを打った。



 昨日はレオンに抱かれるように資料庫から立ち去った後、彼の進むままに中庭の大きな木陰で休んだ。ただ無言でそばにいてくれたレオンからは、普段の迫力や鋭い眼光は消え失せていて、

 私とあらゆるところが違う体のそばで息遣いを聞きながらまどろむのは意外と心地が良かった。

 

 こうなってみて気が付いてしまった。

 私が彼のために傷つく心を持ち合わせていないことを。


 2人に裏切られたという気持ちばっかりで、失恋の痛みは無い。


 なんて自分は、薄情な人間なのだろう。


 まあ、まずは図書館利用法を考えましょう。


読んでいただきありがとうございます。本当に嬉しいです。

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