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第二話 この世界は

「セバス」


「お嬢様、おはようございます。朝食の準備は出来ております」


部屋を出て呼びつければ、まるで初めからそこにいたかのように返事が帰ってくる。

長い廊下を歩きながら、斜め後ろに付いてくる執事を眺める。


身の丈180cmはあるだろう巨体に、ピシッとした執事服を着こなし、初老を感じさせぬ柔らかな足取りで付いてくる。

彼は、セバス。私が産まれる前からこの家に仕えている執事である。

黒髪である私にも忠誠を誓っており、私を含めこの屋敷の全てを任されている有能な執事だ。


いつもは凛と構え、隙など見せない彼だが、今日はどこか様子がおかしい。

眉尻を下げ、しきりにこちらの様子を伺っている。心当たりはあるが、それでもここまで気にかけてくれる事が、とても嬉しかった。


「セバス」


「は、お嬢様」


「昨日の事は大丈夫よ。お父様やお母様は来なくても、貴方があんなにも美味しい料理を用意してくれたじゃない。私はお父様とお母様にはあったことが無いから、小さい時から育ててくれた貴方の気持ちが一番嬉しいわ」


「……お嬢様」


セバスは申し訳なさそうに目を伏せる。言い方が不味かったかと後悔したが、あまり続けてさらに悪化させても良くないので話を逸らす。


「所で、朝食の後なのだけれど、我が家には書庫はあったかしら」


「はい。御父上の学生時代のコレクションが地下に有りますが、どうなさいますか」


「私、将来の為に知識を付けることにしたわ。食事の後適当に本を持ち出すから。後お父様に家庭教師雇用の依頼状を書くわ」


「承知しました、お嬢様」


私は満足気に頷き、食堂へと足を早めた。





※※※※※※



地下の書庫には、膨大とまでは行かずとも、相当数の本が収められていた。長年使われていなかった書庫だが、埃っぽさは無くセバスの管理の良さが伺いしれた。


まず私が見つけなければならないのは、この国の歴史書、魔術書。作法や常識についての本や、伝承、伝統の本もなくてはいけない。


とりあえず自室に聖書があり、前世のおかげで計算等は一通り出来る。それらの本を読み解くのにさほど苦労はしないだろう。


一冊、また一冊と目当ての本を引き抜いていき、次々とセバスに渡していく。

ある程度物色が住み、最後の棚を見て回っていると、一冊妙に小汚い本が目に付いた。

この手入れされた空間に不釣り合いなその本に興味が湧き、その本もセバスに渡す。


セバスに命じて部屋に運ばせた後は、直ぐにお父様への依頼状を書く。

お父様への手紙も慣れたものだが、正式な依頼状は初めてかもしれない。

砕け過ぎないように、しかしよそよそし過ぎないように丁寧に書き終え、セバスに渡した。

一礼して去っていくセバスを見送り、さあと本の山に挑む。


まずは歴史書、複数あった物の中から一番教科書にふさわしい物をセバスに選んでもらった。

タイトルは『聖トルネソル史』。

王国の始まりから三度の大戦、法律が制定された理由や出来事が纏められた本だ。



この国では大陽教のみが信心されているが、それはそもそもこの国が大陽教によって創られたからだ。太陽神の孫にあたる聖ガウェリオが夜を総べる邪龍オスクリタを討伐し、その目玉を空に浮かべて暗い夜に光を灯した。

その後聖ガウェリオは邪龍オスクリタの角から削り出された聖剣ルニアスを振るい、その地に国を築き上げた。

聖ガウェリオはその功績を太陽神に認められ、民を導く王として、十二の戒律を賜った。


一に、太陽と、それに連なる神々のみを称え、新たに神を空想してはならない。

二に、太陽を目に入れてはならない。

三に、炎は神からの賜り物であり、決して吹き消してはならない。

四に、太陽に立てた誓を破ったならば、その目をくり出さなくてはならない。

五に、民は農耕に励まなくてはならない。

六に、水を濁らせてはならない。

七に、民を殺してはならない。

八に、姦淫してはならない。

九に、焼死してはならない。

十に、太陽を避けてはならない。

十一に、太陽を恐れてはならない。

十二に、この戒律に背いてはならない。


この戒律を元に、現代まで法律が形作られたのだ。

聖ガウェリオの血筋は現王家が継いでおり、貴族の殆どもまたその血を継いでいると言われている。

しかし建国から1400年程経った我が国が常に平穏だったかと言われると、勿論そんなことも無い。

周りには月を崇める聖月教、天から遣わされた大天使アマルエルを崇めるアマルエル教、聖ガウェリオ自体を崇めるガウェリスト、聖獣シュルネリアヒトを崇める翼神教など、数えればキリが無い程の宗教があり、対立してきた歴史がある。

太陽暦243年、最初の大戦、聖月教との全面戦争『シエル・ロイ・マキア』

太陽暦946年、最悪の大戦と言われるアマルエル教、翼神教の連合との『ファクティス・カラミティ・マキア』

そして太陽暦1297年、復興した聖月教を国教とするセルマンタン帝国と、その連合との大戦争『デュ・シエル・マキア』

三度の大戦を経験し、その全てで勝利した我が国は建国から一度も王家が絶えておらず、その血統はより神聖視されている。


そうして我が国がある訳だが、私は本を閉じて思う。だから黒髪差別なんて言う凝り固まった害悪な習慣が残るのだ。

一度痛い目を見た方が良いと内心悪態を付きつつも、私は二冊目の魔術書を手に取る。


この魔術書も、セバスに聞いて入門書を選んでもらったのだ。タイトルは『魔術の入門』と、シンプルなものだ。



この世界では、前世での世界と違って魔法という物が存在する。全ての生物が魔力を持ち、大なれ小なれ魔法のようなものを使う。普通の獣程度なら災害の予知、瞬間的かつ微弱な身体強化など、小さな効果しか齎さないが、龍等の妖精種は火焔を操り、大地を割り、空気を凍らせ、傷を瞬時に治し、昼を闇に包んだり、夜を明るくするなど、無限の力を魔術によって行使する。魔法を積極的に使用する妖精種を魔獣と呼称する事もある。


魔力については、生物の血中や大地に満ちる微小な粒子、魔術素子の力によりもたらされる。

魔術素子は集まり結晶化する性質があり、生物の体が形を保ち、血が固まり傷を癒すのはこの作用のためと言われている。


そんな魔法を人間が行使する為に編み出されたのが魔術であり、現代まで人間は魔術によって繁栄してきたと言っても過言ではない。


人の魔力は大きく火、水、氷、地、光、闇の六つの性質に分ける事が出来る。

自らの魔力と相性のいい魔術は効率よく絶大な威力で放つことが出来るし、それぞれぶつけ合う時の相性も変わってくる。


魔力は性質にだけでなく、量も個人差が出てくる。少ないものも居れば、獣並、または妖精種並の魔力を持つものすら稀に産まれる。

この差は先祖に妖精種、神種がある事と考えられていて、それの根拠として王家、貴族階級の人間は総じて高水準の魔力を持つ。


そしてその魔力を効率よく扱うための魔術が、星魔術、石魔術、贄魔術の三種だ。


石魔術とは、魔獣や鉱山から取れる高純度の魔術素子の結晶、魔石を使い行使する魔術である。この魔術は暴走の危険が伴うが、しかし自らの魔力と違う性質の魔力を行使する事が可能で、混合魔術という強力な魔術を行使できる。


星魔術とは、星の図……所謂魔法陣を用いる事で効率を高めたり、安定化させる魔術である。

石魔術と併用して魔道具を作成したり、自らの体に星を刻む者も居るが、簡単に効率よく魔術を行使できる反面、融通が効きにくくなるという欠点もある。


そして贄魔術。血や肉を触媒として行使する魔術である。通常の魔法と違うのは、素子だけを抽出し程よく使うのではなく、無理やり血肉を魔術素子に分解するという物だ。

身に余るほどの魔力を得られ、また同種の魔力は扱いやすいという特性もあり、そのリスクに見合ったリターンはある。

自らの血肉が一番触媒として優秀で、時点で他人の血肉、他の獣の血肉は石魔術に劣る。

勿論使用した血肉は分解され、消え失せるので命の危険がある。

なので、現代の魔術師は頻繁に採血をし、保存しておく事で自らの血肉を失うリスクを回避している。


全ての魔術がそれぞれの特性を持ち、それらの特性を上手く組み合わせた複合魔術がおもに現代魔術で使用される。


……何やら事細かにそれぞれの魔術の使用法、禁則等が書かれている。とても今日一日では理解しきれないので、とりあえず今日はここまでにしておく事にし、私は本を閉じた。


ぐぐっと背伸びをし、窓を見れば、もう既に空は赤く染まり太陽は地平線に消えようとしていた。

大陽教の戒律で太陽を見るのは禁止されているが、こんなにも美しい日没を眺めないなんて人生において多大なる損失だ。


私は日没を見送り、燭台に火を灯し、今日の事を日記に記す。

何となく物書きを覚えた時からやっている事だが、これからこの日記が役に立つ日が来るかもしれない。

今朝の事、考え、そして学んだ事をつらつらと書き連ね、前世のゲームでの私との違いを作れた事に満足し、私は日記を閉じた。






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