第一話 覚醒
本編一話です。
いつもと同じ天蓋。
いつもと同じ光。
いつもと同じように鳥が鳴き、私は抗うように布団に潜る。
そんないつも通りの朝だが、どうしてか新鮮で、初めての事の様に感じた。否、確かにこの私にとっては初めてかもしれないが。
昨日は私の十歳の誕生日だった。それは大層楽しみに準備をし、セバスを急かした。
食卓には豪勢な食事が並び、私の好きなステーキ以外にも、セバスから聞いた母親の好きなトマトサラダと、父親の好きな野鳥の香草焼きを用意した。
一度も顔を見たことが無い両親だが、十歳の誕生日は家族で祝うのが大陽教の決まりなので、私は両親の来訪を疑わなかった。
しかし、両親は来なかった。日付を跨ぎ、用意した料理は冷えきり、冷たくなったステーキと、香草焼きとサラダに両親を想いながら平らげ、強烈な孤独感に苛まれながら布団に潜った。
それが昨日の話だ。本来なら私は今頃悲しみのどん底にあり、身動きも取れぬ様だったろうが、そこで私に奇跡が起きた。
いわゆる前世の記憶という奴だろう。その前世の記憶に当てはめるなら、これは『異世界転生』という奴だ。しかもタチの悪い事に、悪役令嬢物なのだ。
私は眠気を振り払い、ベッドから起き上がる。
乾いた目を擦り、身嗜みを整えながら、私の現状について考える。
今の私は、どちらなのだろう?
確かに今、私は絶望のどん底にあるが、しかし悲しみは急上昇した精神年齢と共に薄れ、まだ見ぬ両親への憧れはほぼ無くなってしまった。
だが、絶望している私は前世の私かと言うと、そういうことでも無い。
前世の記憶と言っても、思い出せる事は断片的で、家族、名前等の重要な記憶が取り戻せない。
なにより確信を持って言えるのが、前世の私はこんなキャラでは無いという事だ。
なんというか、上手く表現することが出来ないが、もう少し親しみ易く、明るい能天気な人間だった筈だ。
そう考えている内に髪も梳き終わり、室内着に着替え終わったので、意味の無い事よりこれからの事について考える事にする。
転生した私、メアリー・ヴィオラクィラは、公爵令嬢である。私の父、クレイモン・ヴィオラクィラはこの国の宰相で、彼と対等に話せるのはファルケスマラクト公爵と王族のみだろう。
そんな恵まれた家庭に産まれた私だが、全てに置いて恵まれた人生を神が許さなかったのか、この国で最も忌み嫌われる黒髪で産まれてきてしまった。
そんな私を辺境の別荘に閉じ込め、両親は王都で華やかに暮らしているらしい。
ここまでが今まで生きてきたメアリーとしての記憶。そしてここからが私の前世の記憶。
このメアリー・ヴィオラクィラ、前世でプレイしていたゲーム『救国の聖女』にて登場する悪役令嬢なのだ。
この悪役令嬢、全十二ルートもあるシナリオで、全てのルートで必ず死亡する。
ある時は断罪されて、ある時は戦争に巻き込まれ、ある時は野獣に襲われ、通り魔に刺され、崖から落ち、ラスボスとしてヒロイン達に討伐されたり、豊富な死に様が用意されている。
と、いかにも詳しそうに語ったが、詳細なストーリーや死ぬ原因は明瞭に思い出すことが出来ていない。むしろ私の人生に関わる所になるほど靄がかかったように曖昧になってしまう。
ただ一つ、明確に分かるのは『ヒロインを虐めたら死ぬ』という事だけだ。
まあ、そんなのは当たり前で、こちらから関わろうとも思わないが、それは未来の話。今から出来る事を考えるべきである。
私が幸せに生きる上で一番の障害になるのはこの黒髪だ。
何故この国において黒髪が忌避されるかは、この国の国教である大陽教に原因がある。
太陽神とそれに連なる神々との約束、予言を記した聖書に、『太陽により創られた楽園の繁栄は、邪なる漆黒により穢される。その黒点は染みのように広がり、やがて楽園に永遠の闇を齎すだろう』と記されており、そして黒髪自体とても希少であるのも災いし、凄まじい黒髪差別、迫害が行われている。
平民ならば奴隷に落とされるし、貴族であっても生半可な階級ならばその地位を失うことすらある。今私がこうして暮らせるのは父親のもつ絶対的な権力のおかげなのだ。
ならば髪を染めれば良いかといえば、そうでも無い。そもそも髪色はこの世界の人々がもつ魔力の現れと言われ、多少の例外あれど基本はその法則に適応すると言われている。
もし髪色を変えている事がバレれば重罪、公爵令嬢ならば見せしめとして処刑されてもおかしくは無い。
ならば、黒髪など気にならないくらいの価値を手に入れるしか無い。強力な魔術が使えれば、多くの専門知識を手に入れれば、決して裏切らない忠誠を証明出来れば或いは黒髪への認識も変えられるかもしれない。
だいたい纏まってきた。今、私に出来る事。
それは、勉強だ。ありとあらゆる知識を身につけ、教養も身につけよう。剣術や武術も出来た方が良いかもしれない。
力に貪欲になれ。世界を、運命を変えるんだ。
このクソッタレな異世界で、最高に幸せになってやる!
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