第十三話 望まぬ地位
一度散った木々が新たな葉を茂らせ、学院は長期休暇を迎えた。多くの生徒は実家へ帰省し、今学院には殆ど人が居なくなっていた。
特に帰省する予定の無かった私は時間を持て余し、ゆったりとした時間を過ごしていたが、そこをアルフレッドに見つかり、あっという間に運動場まで拉致されてしまった。というわけで、只今特別授業を受けている。
大きく息を吸い、心臓から爪先まで意識を巡らせる。
ちらと目をやれば、少し離れてアルフレッドが腕を組んでこちらを見ている。
「集中しろ!意識を乱すな!」
軽く叱咤されて、私は意識を再度集中させる。
血流から溢れた魔力が四肢を伝い、吹き付ける風はその貼られた薄い膜により遮られた。
なんとか上手くいったと大きくため息をつき、私は改めてアルフレッドへ向き直る。
「身体強化、完成しました」
「よし、出来栄えをテストする。まず両足飛びと拍手一回だ。やってみろ」
緊張の一瞬。
背筋を伝い、汗の雫が落ちていく。しかしさあと急かされ、やっと覚悟を決めた。
身体強化。極めて原初に近い魔法を、星魔術の理論によって効率化、使用するに足る魔術へ昇華させた魔術である。しかし、これは身体へ星を刻んだりする訳では無い。
ではどうするのか?答えは簡単、身体を星へ見立てるのだ。
最近のとある研究、というかアルフレッドによる研究によって、魔獣等が使う魔法も三つの魔術に当てはめることが出来るということが分かったのだ。身を削る贄魔術、特別な魔術が体内に持つ魔石による石魔術、そして身体を星とする星魔術。
特に星魔術に関しては歴史的な発見だったと言えるだろう。人間が魔法を使う上で誰もが持つ五本の指、そして手相が非常に重要な役割を担っていると分かったのだ。心臓から血管を伝った魔術素子は指先へと運ばれ、放射状に伸びた指先と皺によって掌に収束、魔術として放たれる。力を入れる時にぐっと拳を握り込むのは、指と手相による身体強化の星を作っていたのだ。他にも無意識の手の動きが星に対応している事が判明している。
アルフレッドによると、きっかけは召喚魔術での一件だと言う。何故全身が爆散し、手だけが綺麗な形で残ったのか。その疑問により人間は普段手から余剰魔力を放出している事が解り、そしてさらに私達が討伐した魔獣を解析して答えを導き出したらしい。流石の天才という訳だ。
アルフレッドの武勇伝は置いておいて、今王国では身体強化が流行りだ。騎士達は勿論、貴族の令嬢にも流行りだした。筋肉を付けずに出来る護身だとか。私は流行に鈍感で置いてかれ気味だったが、私の師匠であるアルフレッドがそんな状態を許すはずも無く。
「ふむ、左右の強化バランスは良好。後は速さのみだが……まあ良いだろう。後は自分で効率化するように」
なんとか免許皆伝を貰え、ほっとため息を付く。疲れに身を任せベンチに腰掛けると、アルフレッドが気を利かせてベーコンのサンドイッチを手渡してくれた。有難く頂戴し、ゆっくりと頬張り噛み締める。それを見届けてから、アルフレッドは一人で呟きはじめる。
「いや、しかしなぁ。貴様が王妃候補になるとはな」
「…………」
「しかも勲章付きときた。聞いた時は驚いたぞ?」
苦い顔をしながらサンドイッチを噛み潰し、ゆっくりと飲み込む。
「……随分と前の話を掘り返しますね」
「貴様が話に来ないからな」
「……」
「私が研究で忙しかったのもあるが、師としては弟子の口から聞きたかったぞ」
「……あまり気持ちのいい話では無いので」
不満そうにサンドイッチを頬張る私に不思議そうな顔をしながら、アルフレッドは腕を組む。
「ふぅむ、私には順風満帆に見えるがな」
「私にとっては天歩艱難です」
「齢十三にして烈日双蕾章を受け、次期王と婚約し、現国王の覚えもめでたく赤色円章、三剣騎士章と続けて受勲。ヴィオラクィラ公爵家の人間でありながら勲章だけで伯爵位相当の地位を築いた。学業成績も当然優秀で、どうしてそんなに王子を嫌う?彼を受け入れるだけで貴様のどんな野望も叶うようになるだろう」
「別に私はもう避けていません。向こうが寄ってこなくなっただけですし」
「?そうなのか。なにか嫌われるようなことでもしたんじゃないのか?」
「してません。授業も終わったようだし、私はこれで失礼します」
「あっ、おい!」
静止の声を無視し、運動場を後にする。
オーリオン王子。私の婚約者となった男。
あの忌まわしき受勲式にて知ったのは、私との婚約で彼は母親を人質に取られたと言う事。
それからだ。彼は打って変わって私を避けるようになった。最初こそ気にもならなかったが、班決めの時等、あからさまに私と班になるのを嫌がるのだ。流石に我慢がならなくなった私はある日、放課後に王子を捕まえ、私も人質を取られている事、婚約を望んでいない事、そして婚約を解消する提案をした。
すると、
「成程。君は婚約を解消、つまり僕の母様とリュシーはどうなっても良いと言うのか」
と、言い放った。
一気に頭に血が登った私は王子の横っ面を殴り、それから一度も口を聞いていない。
王子との関係が最悪になっても相変わらず王には贔屓を受け、私は魔獣討伐による追加授与で
三剣騎士章を、王に魔術論文の提出を命令され、提出後直ぐに赤色円章を。
望まぬ権力を握らされる私とは対照的に、王子は授業をサボりがちになり、いつも私と成績を競っていたのが三十位を行ったり来たりする様になり、最近はAクラスで下位争いをするところまで落ちぶれた。一体授業を休んで何をしているのか。後暗い噂は耐えない。
そんな状態を受け、私が王子を堕落させたと噂されるようになった。一層陰口を叩かれるようになり辟易していた所の休みであり、心穏やかな時間であったのに、先生の口からあの話を聞くことになるなんて。
自室に入り、汚い上着を脱ぎ捨てベッドにダイブする。
幸運にも今日は休み。建物に殆ど人が居ないのをいい事に、思いっ切り叫び散らして、そのまま布団に意識を沈めた。
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