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第九話 調査隊

「……なるほど。そういう訳だったのか」


「全く……私はこれ以上目立ちたくなかったのに」


「ふん、自分は悪くないとでも言いたげだな」


アルフレッドはやや説教ムーヴで詰め寄ってくる。自分の落ち度は自覚しているので、これ以上詰問されないように話を逸らす。


「過ぎた事は良いのです!それよりも来週の校外学習の調査班の事ですけど!何で自由班なんですか!?非効率的ですし、能力に偏りが出ます!」


「はぁ、過ぎた事と言うがな、実際貴様が誰とも班を組めないのは決闘事件があったからではないか。自由班も貴様らの戦術的思考を育てる為のものでもあるんだ。文句言わず適当な班に入れ。聞いたぞ?王子の誘いを断り続けているらしいじゃないか」


「殿下とだけは嫌です。それにここで殿下と組んだらこれからずっと殿下としか組めなくなります」


「何故そんなに王子を毛嫌いしているんだ……」



あの忌々しい決闘事件から数ヶ月、魔術と武術の合同授業で未開拓地の調査をする事になった。一昨日から班決めがあり、私は片っ端から声をかけまくったが、しかし全員が口を揃えてノーを突きつけてくる。


『私では足手まといにしかなりませんわ』


『君の攻撃に巻き込まれては敵わないからね』


『俺はオーリオン殿下には及ばないから』


思い出すだけでもイライラする。何故私がこんな事をしなくてはならないんだ。その原因である自由班制度は、必ず廃止させなくてはならない。


「危険を伴う校外学習で生徒の能力に偏りを作るのは危険が伴います!女子班なんて作られたらどうするんですか!戦闘訓練なんてせずに散歩してる連中ですよ!」


「ああ、分かった分かった!そんなに嫌ならくじ引きだ。それで満足だろう!そこの紙で適当に作っておいてくれ。そうしたら次の授業で配ってやるから」


「本当ですね!?約束ですよ!」


「ああ。その代わりもう文句は言うなよ」


「勿論ですとも!」


こうしてくじ引きを勝ち取った私は、楽しい校外学習を思い浮かべながらいそいそとクジ作りに励んだ。



だが。こんな結果は望んじゃいなかった。


「メアリー!同じ班だね!きっと運命だよ。君は嫌がるかもしれないけれど、僕と君の力があれば百人力。どんな困難も乗り越えられるよ!きっと君は僕を誤解してるから、この班行動を通して互いに理解を深めていこう!」


最悪だ。こいつと同じ班になるのが嫌でクジ引きを望んだのに、これじゃあ文句を封じ込められただけだ。

心無しか他の二人もげんなりとしている。その原因は私かこいつか、はたまたどちらもか。


クジを握りしめて呆然と立ち尽くす私の後ろで、いつの間にか回り込んでいたアルフレッドがボソリと耳打ちする。


「もう文句は無しだぞ」


その言葉に、私は膝から崩れ落ちた。




※※※※※※


で、あれよあれよと一週間が経ち調査当日を迎えた私達は、王都から馬車で二十分の未開拓地であるユラノニュス大森林に来ていた。

話してばかりで仕事をこなさない王子と、やる気を完全に無くした班員二人の代わりに私が用意した荷物をそれぞれが持ち、私が用意した馬車から降りる。そして私の用意したマップを広げ、我が物顔で王子が仕切り始めた。


「という事で、これから我が班はユラノニュス大森林の調査を始める!比較的危険は少ないと言われている未開拓地ではあるが、それでも獣が出るのは事実。皆、気を抜かずに頑張ろう!まずは今いるポイントから南西に三キロ進んだ先のヴェルマの泉を目指そう。そこを拠点として探索を進めていこうと思う。皆はそれで良い?」


「えっと……メアリー様は、どう思いますか?」


一人だけテンション高めな王子と対照的に一層不機嫌な私に、私を除いて唯一の女子であるリュシーが恐る恐る私に伺ってくる。彼女は私に殆ど準備をやらせてしまった事に気付いて食糧の仕入れを少し手伝ってくれた。今回の班行動の希望である。

私は彼女を怯えさせないように優しく微笑む。


「大丈夫よ。私なら皆に合わせるわ。その計画に問題は無さそうだし、折角彼が唯一考えてくれた計画だもの」


私はわざと唯一の部分を強めに発音したが、王子は持ち前の強靭なメンタルで気にも留めない。


「よし、全員意見は無いようだから決定だ!ゆっくり慎重に進むよ。ダニスは獣避けの鈴を怠らないように」


命じられたダニスは面倒くさそうに鈴を取り出す。私はこの進行に一抹の不安を覚えたが、それを振り払うように先を往く班員達に続いた。



それからの旅は難航を極めた。はなから戦闘能力の無いリュシーを護りながら、やる気の無いダニスを抜いた二人で道を切り開き、そして王子が商人から買ったと自慢していたファイアボールの魔道具を無駄打ちし、山火事が起こりかけて全員で土をかけて消化。そして騒ぎを聞きつけた野生動物が集まってきて、そこからはひたすらに剣を振り続けた。

やっとの思いでヴェルマの泉に辿り着いた時には、皆疲れで満身創痍で私が野営の準備をする事になった。

私だって体力が無尽蔵な訳では無いが、リュシーは力も技術も無いし、ダニスはそもそもやる気が無い。王子は魔道具を使い過ぎて魔力枯渇を起こし、身動きが取れない。結果私しかやる人が居ないのだ。


私が重い体に鞭打ってテントを貼り獣避けの結界を張っていると、疲れから回復したリュシーが声を掛けてきた。


「あの、メアリー様。もし私に出来る事があればお手伝いします」


最初は私に怯え、授業外では私の前に姿を現さなかったリュシーが、この班行動の中で多少私に心を開いてくれて、世間話程度なら出来るようになった。


「ありがとう。じゃあリュシーには料理を任せられるかしら。そこに血抜きした錆雉が吊るしてあるから、それを使って頂戴」


「はい!あの、私戦いには参加出来なかったけど、道すがら木の実や香草を取っていたんです。とても良いキッコの実が取れたので、きっと美味しいアメルフザンが作れますよ!」


「お手柄じゃない!じゃあ蒸し焼きにする為の鍋が必要ね……確か殿下の魔道具に丁度調理器具一式があった筈だから、貸してもらいましょう」


「フフ、殿下ったら張り切りすぎですよね。きっと高級な魔道具を幾つも持ってきてしまって、余っ程メアリー様と同じ班が嬉しかったんだと思います」


「勘弁して欲しいわ……調理器具だけならまだしも、夜間照明に洗濯用魔道具、マッサージに空調魔道具って、なくても良いものばかり持ってくるなんてどうかしてるわ。貴方の自慢会場じゃないっての」


「でも、きっと殿下は喜んで欲しかったんだと思いますよ。メアリー様が殿下の用品リストを叱った時、少し可哀想になっちゃいました」


「あれぐらいガツンと言ってやった方が良いのよ。何時までも子供じゃないんだから」


今まで誰とも話さなかった反動か、ついつい会話が進んでいく。

気付けば結界を張り終え、今度は私が手持ち無沙汰になってしまった。


「リュシー、私も手が空いたから手伝うわ」


「いいえ、ずっと働いてくれてたんですからメアリー様は休んでください。もうすぐ出来上がりますし、ほら、殿下達なんてもう寝ちゃってますよ?」


「全く……!引っぱたいてやろうかしら」


「駄目です。あれでも殿下なんですから、あんまり酷い態度取ったら駄目ですよ?」


「解ってる。冗談よ……それにしても、手際良いのね」


「はい。お母様が『将来旦那様が出来た時に、手料理が作れないなんて嫁失格よ!』って。平民でも無いのに言い張るんです。それで小さい時から料理手伝いをする事が多かったんですよ」


「へぇ……」


倒木に腰掛けながら、火加減を調節する後ろ姿を眺める。確かに嫁が料理をするなんて平民的だけど、その料理をする後ろ姿を見ていたら、そういうのも素敵だなと思えた。


「これで火を止めて……出来ました!メアリー様、お夕飯完成です」


「分かったわ」


私は私が張ってあげたテントの中で鼾をかいている男二人を起こす。そして疲れを愚痴る男共にリュシーと目を見合わせて肩を竦めた。


夕飯も食べ終わり、隣で寝息を立てるリュシーを眺めながら今日を振り返る。改めて振り返ってみると、確かにとても大変で辛い一日ではあったが楽しい事も多かった様に感じる。

それもこれも全てはこの娘のお陰である事を深く認識する。ああ、私は一匹狼を気取りながらも、友人が欲しかったんだな、と。

そして改めてこの娘との関係を、大事にしようと誓った。

リュシーのその柔らかな長髪に指を通すと、彼女は擽ったそうに顔を歪める。その様子に可笑しさと共に愛おしさが込み上げて来て、抱き締めたい衝動に駆られるが何とか我慢し、気を落ち着けようと外に出た。


「やあ、まだ起きてたのかい?」


「……殿下、明日も出発は早いですよ。殿下こそお身体を休めて下さい」


「はは、そこを付かれると痛いね……」


男子のテントの隣の木の上にオーリオンが腰掛けて、私に声を掛けてきた。

私の嫌味が珍しく通じた王子は気まずそうに頬を掻きながら小さく笑う。


「……大変申し訳無いと思ってるよ。情けないと失望されてもしょうがない。だけど、僕なりに汚名を返上しようと思ってね。こうして見張りをしていたのさ」


「私の張った結界に何か心配事でも?」


「違うよ!そんなつもりじゃない。でもこうでもしないと自分が情けなくて……ほら、安全地帯だけど魔獣が出るかもしれないしね」


どうやら随分と堪えてるようだ。少し子気味がいいと心の中で笑いながら、私は結界の端まで進み、その透明な壁に指を走らせてみる。


「残念ながら、これはアルフレッド先生特製の結界魔法陣に、贄魔術を組み込んだ特別製です。低級の魔獣程度では、傷一つ付けられませんよ」


「そうか……」


「だから、今日は大人しく寝て、明日は貯めた体力を無駄使いせずに頑張って下さい。殿下は天才だと自称する程なのですから、落ち着いて頑張ればすぐにでも挽回出来ますよ」


どうしてだろう。今日の私はどこか変だ。

王子と話しているのに、とても気分が良い。それどころか心穏やかに助言なんてしている。

ふと、王子を見上げてみれば、彼も驚きに目を丸くしていた。


「驚いたな……君から助言を貰えるなんて」


「ええ、私も驚いています」


「いや、ありがとう。素直に受け取る事にするよ。明日の調査では、期待してくれていい」


「期待していますよ。明日は楽させて下さいね」


「ああ!きっとそうするよ!」


「ちょっと、夜中ですよ。リュシーが起きたらどうするんですか」


「っと、すまない。配慮が足りてなかったね…………と、少し尋ねたいんだけど、君の結界は魔獣程度には破れないって事で合ってるよね?」


「は?」


「いや、突然ごめん。ちょっと見て欲しいんだけど、そこからこっちを見てるのって、魔獣、それも竜種だと思うんだけど」


「何言ってるんですか。竜種なんてこんな所にいる訳……」


結界に振り返ると、五十メートル程先に、巨大な蛇目と目が合った。その主は大きく鎌首を持ち上げ、月明かりに照らされて全貌が明らかになる。

体長は六メートル程になろうか。長大な首の先に剣のように鋭い角を二对、シュッとした口には恐らく毒牙と思われる鋭い牙が生えている。

そして踏み締める脚には抱える程の巨大な爪。


「そうだよね。ならあれは蜥蜴だ。メアリー、あの蜥蜴位なら結界で防げるよね?」


「殿下、リュシーとダニスを起こしてきて下さい。そして直ちに緊急事態の発煙筒を」


「え?」


「早く!結界は数分も持ちません!あれは正真正銘の竜種、ランクCのエペ・ヴィペルです!」


私が叫んだ瞬間、咆哮が響いた。

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