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第八話 決闘

私の足音と、私を遠巻きに見る生徒のひそひそ声のみが静かな廊下に響く。


耳をすませば、やれ悪魔の娘だ、国家の敵だと散々な言われ様だ。まぁ王子を敵視しているので国家の敵もあながち間違いでは無いかもしれないが。


まあうるさいだけの羽虫に構う暇は私には無い。精々自慢のひそひそ声を五月蝿く鳴らしていればいい。

私はつまらない人間達の横を通り過ぎ、図書室へ続く道へと歩みを進める。すると、どこからか此方へ走る忌々しい音が聞こえてきた。


「やぁっと、見つけたぞ!今度こそは逃がさん!メアリー・ヴィオラクィラ!」


「はぁ、また貴方ですか。マルス・ロイ・ジェイスティード。何度も私は忙しいからとお断り申し上げているはずですが」


「貴様が認めん事を認めん!私が貴様に決闘を申し込んでいるのだ!受けろ!」


頭が痛くなってくる。二週間程前からずっとこの調子、何を言っても決闘を受けろの一点張りだ。そろそろ対応するのも疲れてきたのだが。


この男、マルス・ロイ・ジェイスティードは、代々聖騎士団の部隊長を輩出している伯爵家の長男であり、技術は二の次、他の何より筋肉自慢の馬鹿だ。

まぁ、先日の授業でぶちのめしたのだが。



授業初日。午後の武術の授業にて、男子は剣術、女子は選択で散歩と剣術を選ばされた。そして殆どの女子が散歩を選び庭園に行った中、私は男子に混ざり剣を握っていた。

ジエーゴ師は特に何も言わずに一人の弟子として丁寧に接してくれたが、周りはそうもいかず。

元々セバスに鍛えられていた私がジエーゴ師に褒められるのが面白くなかったマルスらは、私に決闘を申し込んだのだった。


ジエーゴ師は特別に木剣での試合を許可し、その試合の観戦を授業に組み込んだ。

私に大恥をかかせて、力の差を解らせてやろうと息巻くマルスにげんなりしながら、ジエーゴ師の合図を待つ。


初め。その瞬間上段から遠慮の無い全力の振りが襲いかかってくる。私が女だと思って力で圧倒するつもりなのだろう。私が難なく軌道を逸らすと、今度は横に薙ぎ払ってくる。そこに技は無く、ひたすらに力任せでの攻撃だ。


拍子抜けだ。まるでなっていない。これなら手を抜いたセバスの方が何倍も練習になる。

早くも時間の無駄を確信した私は半歩下がり躱し、バランスを崩して隙だらけの横っ腹に木剣を叩き込んだ。

クラスメイトが見守る中、自分から女に挑んでおいて敗れ、転がされたマルスの名誉は地に落ちた。初めは聖騎士の家系だなんだと持て囃されていたが、あの日からは彼の周りには嘲笑が残ったのみだった。

それからだ。毎日毎日私を探しては決闘を申し込んでくる。かつてのオーリオンを想起させるしつこさでまとわりついてくる物だから、私の我慢も限界を迎えようとしていた。


「どうも頭から抜け落ちているようですからお教え致しますが、私は女子です。そう男子が女子に向かって決闘を強いるのは如何なものでしょうか。少なくとも、聖騎士様の振る舞いでは無いでしょう」


「貴様が女子だ?ふん、笑わせるな。そんなに女子として認めて欲しければまた俺と立ち合えば良いのだ。二度もまぐれは起きんからな」


何がまぐれだ。自分で言っていて情けなくならないのだろうか。

しかしそろそろ本気で邪魔になってきた。無闇に力を晒しても良くないと思い断り続けたがここまでされるなら受けた方が良いかもしれない。


「……分かりました。最後に一度だけ戦ってあげます。その代わり、条件として私が勝ったら二度と私に付きまとわないことを約束して貰います。宜しいですね」


「ふん、言われるまでも無いわ!貴様の忌々しい頭など見たくも無い!そして俺が勝ったらだ。貴様にはこの学園を出ていってもらう!貴様から賭けを挑んだのだ。断らせはせんぞ?」


……なんという馬鹿なのだ。全く釣り合ってないし、生徒のみでそんな賭けが成立するはずもなかろうに。


「まぁ、いいですよ。どうせ負けませんし」


「チッ、だが貴様は今受けたからな?明日の昼、第一闘技場で待つ。来なければ貴様の負けだ。分かったな!」


づかづかと歩き去っていく後ろ姿を横目に、私は図書室の扉に手を掛けた。






「逃げずに顔を出した事には褒めてやろう」


「……何ですか?これは聞いていませんが」


唖然とする私に、マルスが得意げに鼻を鳴らす。


「ふん、我が汚名を払拭する為、観戦者を集めるのは当たり前だ。貴様の退学を確実な物にする為の証人にもなるのだからな」


学院で最も収容人数の多い第一闘技場に、埋め尽くさんばかりに観戦者が集まっていた。


「グハハ!今日の為に学院中に呼びかけておいたのだ!もう逃れる事は出来んぞ?」


……余りの事に絶句する。

なんて事だ。適当にあしらって終わりにするつもりだったのに、こんな形で目立つのは非常に不本意だ。というか人を集めて女子を痛ぶろうとするのは恥の上塗りをするのみでは無いのか?

驚きと呆れのあまり言葉を発さない私の姿にニヤニヤと下品な笑みを浮かべるマルスを、本気で殴り殺してやりたくなる。


私が湧き上がる衝動を抑えていると、観戦席から見覚えのある王子が飛び出してくる。ああ、こいつも来ていたのか。

オーリオンはマルスの元まで走っていくと、息も絶え絶えに叫ぶ。


「恥を知れッ!貴様、聖騎士の血を引きながら女の子に二度も剣を握らせて!挙句に負けた方が退学だと!?こんな決闘は認められん!今すぐ辞めろ!」


王子が怒りで燃え立つ所を初めて目撃し、私だけでなく闘技場中に動揺が走る。

しかし、等のマルスは飄々と言い訳してみせる。


「おや殿下。この者が剣術を修めているのは貴方様も知っている筈。それを女として扱うのは騎士道に反すると思うのですが。それに退学の条件もこの者が既に受けた条件。その覚悟を踏みにじるおつもりで?」


めちゃくちゃな言い分だ。しかし私の覚悟を引き合いに出され、王子は言葉を紡げなくなる。

今度はこちらに向き直り、私を説得しようと試みる。


「メアリー、こんな決闘受ける必要無い。無視していいんだ。この男が何を言おうと君は女性なんだから、こんな男と戦うことなんて無い。少しも恥ずかしい事じゃない。集まった人達には僕から説明しておくから」


しかし、それは逆効果だ。私は一瞬で頭に血が登り、つい言い返してしまった。


「お言葉ですが。……私は貴方に心配される程落ちぶれてはいません。そこの男如き剣を使うまでもありません」


言ってからハッとし、折角のチャンスを不意にしてしまった事に気付く。しかも、自分で状況を更に悪くしてしまった。


「ほぉ!この俺を素手で倒すと!これは勇ましい!」


耳ざとく聞いていたマルスが観戦席に語りかける。


「諸君!このレディは事もあろうか拳のみで私を倒すと宣った!素晴らしく勇ましい、そして愚かしい宣言だと思わんか?しかし、私はその挑戦を受けたいと思う!その身を持って、この身の程知らずに男女の差を叩き込んで差し上げよう!」


歓声が上がる。轟々とマルスを讃える声、そして黒髪で女である私に対する侮辱や非難が飛んでくる。更には王子に対する非難まで。

王子が闘技場の隅に避難したのを見届けてから、私達は互いに向き合う。拳を構える私に対してマルスは木剣を握っているが、しかしマルスを非難する声は上がらなかった。

黒髪差別ここに極まれりだな。なんて考えながら、私は指で挑発してみせる。瞬間、マルスが私の指目掛けて打ち込んでくる。

私は手刀を剣に見立てて何時ものように受け流してみる。が、腕に鈍い痛みを感じ、見ると皮が擦りむけ血が滲んでいる。


馬鹿だ。少々頭に血が登りすぎていたかもしれない。本気で打ち込まれた木剣を素手で捌くなんて、達人か、力を過信した大馬鹿者のやる事だ。


右腕は痺れて暫く使えない。容赦ない二度目の袈裟切りを半歩下がる事で躱し、腹を蹴り飛ばす。

マルスは少し唸ると、激昂して私の顔に向かって突きを放ってくる。下手すれば命に関わるそれを首を捻って躱す。直後、死角から飛んでくる左足を躱しきれず、衝撃を体を捻って散らした。

恐らくわざと右腕を狙ったその攻撃は、確かに私にダメージを蓄積した。患部を抑えながら睨みつける私を、マルスはヘラヘラと挑発してくる。


「おや、おやおや?拳で叩きのめされると聞いてヒヤヒヤしていたが、その右腕はどうしたのだ?私如きに負けるはずは無いと、いつか聞いた気がするが、あれは嘘だったのかね?いや、実力を見誤ったレディに嘘と追及するのは酷だったかな?」


「ご冗談を。この程度手傷とも思いません。寧ろ良いハンディキャップです。それにしてもやけに饒舌になりましたね。この隙に攻撃すれば勝ち目の少しも見れたかもしれないのに。まさか手傷を負った女に対して怖気づいているのですか?」


「減らず口を……!なら望み通り終わらせてやる!」


やはり冷静さを欠くと振りが単調になる。こちらもあまり余裕が無くなってきたが、この程度なら捌ききれるだろう。

私は攻撃を捨て、躱す事に集中する。奴の大振りの攻撃を、最低限の動きで躱していく。

繰り返していくうちに、みるみると体力を消耗し弱ったマルスと、ある程度余力を残した私。

いつの間にか立場が逆転していた。

真っ赤に染まった額から汗を滝のように流すマルスは完全に冷静さを失い、限界を超えて木剣を打ち込んでくる。しかしそんな隙だらけの剣が私に当たるはずも無く、最後に一発、全力の蹴りを顎目掛けて叩き込んだ。

マルスは完全にダウンし、もう起き上がる事は無かった。気付けば初めは騒がしかった闘技場も、今はただ沈黙が支配していた。

私はもう用はないと闘技場を後にする。出口の辺りで数人の男子生徒が突っかかってきたが、リーダー格の顔面を打ち抜いたら散らすように逃げていった。


こうして今日、学園中に恐れられる悪役令嬢が誕生した。自らの失策を悔いても時が戻る事は無く、ただゲームでの自分より状況が悪くなった事だけが実感できた。



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