ある令嬢の末路
読むの辛かったら読み飛ばしても大丈夫です。
まだ本編じゃないので。
その日、王都は湧いていた。
新たな君主とその妃の誕生に、街の民は杯を交わし、また広場では子供達が踊り、そして街の外れの貧民街では、恩赦により釈放された夫と再開した女の嗚咽が静かに響いていた。
誰もが絶頂の最中にあり、至る所で響く国を称える歌は、野を超え山を超え、空高く、そして地下深くまで届いたという。
聖トルネソル王国の首都、王都エグザでは、新しく即位した王によりいくつもの令が敷かれた。
国庫に死蔵されていた財宝を売った金を民にばら撒き、奴隷制度を廃止。そして彼等にも市民権と暮らすに困らない金品が送られた。
さらに今まで弾圧していた大陽教以外の宗教を認め、大陽教教会の内政干渉を断ち、汚職により腐った貴族を一掃し王の友人達による新政府が設立された。
そして歴史的に例を見ない大恩赦。捨て置けぬ大犯罪人を除いた全ての犯罪者が恩赦を受け、他の民と同じように金品を受け取った。
そして地上に人が溢れ、賑やかになると同時に、地下深く、大監獄グラムには微かな地上の喧騒が響くのみで、めっきり静かになっていた。
大監獄グラム。全4層から成る王国一の監獄である。下に行くほど罪が重く、最下層には大量殺人、国家反逆、王室侮辱に異教布教等、国家を揺るがす大犯罪人達が閉じ込められていた。
しかしそれも過去の話。現在この監獄は、たった一人の為にあると言っても過言ではない。
その悪党の中の悪党、世紀の大犯罪人である彼女の名は、メアリー。メアリー・ヴィオラクィラ。
ヴィオラクィラ公爵家の一人娘であり、殺人、窃盗、国家反逆に侮辱と、数えればきりがないほどの罪状を抱え、死刑執行の日を待っている、おぞましき漆黒の髪と紫紺の瞳を持つ現国王の元婚約者。
初めの頃は騒ぎ立て、脱獄を企てたりもしたが、今はもう貴族だった頃の美しさは見る影も無くなり、頬は痩け、唇は割れ、爪は剥がれて肉が見えている。焦点が定まらぬようにぼうっと宙を眺め、既に蛆が沸いたパンには目もくれず、糞尿を垂れ流す廃人になってしまっていた。
監獄に入れられたその日、彼女は看守達による洗礼という名目の暴行を受け、性的に消費されたが、彼女の意思は折れなかった。
しかしその次の日、またその次の日と、看守達が飽きれば他の犯罪者達が彼女を貪った。
ある看守が面白半分で彼女の食事に毒を仕込み、嘔吐痙攣を繰り返す騒動の後、彼女に薬を投薬する遊びが流行った。
神経毒、興奮剤、媚薬、麻薬、様々な薬を飲まされた。
幾日か経ち、狂って言葉を失った令嬢に看守達は興味を無くし、監獄全体でのリンチは終わった。
その後は死刑執行まで死なぬように最低限の延命だけ施され、偶にくる物好きに貪られを繰り返した。
執行当日、半ば引き摺られるようにして処刑台に立たされた彼女は、目の前で何かを喋っている着飾った男を見つける。もう殆ど壊れかけた意思で、何故そうしたかも自分では分からないが、彼女はひたすらに彼の名を叫んだ。
何故彼の名を知っている?
何故こうも心が苦しいのだ。
後ろから殴りつけられ、斬頭台に付けられる。
それでも彼女は一心不乱に叫んだ。
彼の顔が憎悪に歪む。
民衆が激昂して石を投げてくる。
本来なら罪状を読み上げてから斧を降ろすのを、執行人の独断で即座に執行された。
売国の悪魔、メアリー・ヴィオラクィラ。
その死体は集合墓地に葬られ、家財も燃やされた故に伝承からしかその実像を読み解く事が叶わない謎に満ちた令嬢。
未来の学者達はこの謎に立ち向かい頭を悩ますも、しかし遂に名誉の回復が成されることは無かった。
不定期更新ですがよろしくおねがいします。