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いつか異世界に行くよりも、貴女の冒険を教えてほしい  作者: きし
第四章 優和は彼女に教えたい
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第18話 異世界に行く者達の戦い

 志保の放った風の大玉の一つが優和へ向かって落下すると爆発音に続き視界を埋め尽くす程の土煙を起こした。

 戦いを知らない志保ではない。

 どういう理屈か長髪になった優和は数日前までとは別人になっている。たった一発の風の塊で優和を制することはできないことは直感で理解していた。油断はできないからこその四発だ。

 間髪入れずに土煙吹きすさぶ中に風の大玉を同時に二つ落とす。爆発が連鎖するように天高く土砂が周囲に降り注いだ。

 風を操る能力に長けた志保は風の流れから伝達して、攻撃した先に手応えがないことに気付いた。


 「随分とすばしっこくなったようね! のろまだった貴女とは思えないわ!」


 僅かな風の乱れか優和の動きを志保は感じ取る。

 真っすぐにこちらへ突っ込んできている。身体能力が向上していても優和は戦闘の素人だということが発覚し志保はほくそ笑む。

 愚直な人間にはほんの少しのトラップを用意するだけで大惨事に変わる。なんせ素直な人間ほど躓けば盛大に転ぶのだから。


 「――そこだ!」


 意表をついて攻撃をしてくると考えていた志保は優和の接近するタイミングを見計らって自分の前方に風の大玉を落とした。

 風の大玉の勢いに巻き込まれて土煙の視界が少しばかりクリアになれば優和の動揺した表情が風の大玉の切れ目から伺えた。


 「タイミングはピッタリ! 終わりだ、超風の大玉ぁ――!」


 風の大玉と激突する優和に志保は勝利を確信した。

 しかし――風の大玉は地面にぶつかることなく宙で動きを止め、そして、その下にはなおも前進を止めない優和の姿があった。

 大玉なんて言っているが風が渦巻きミキサー状になった空間だ。本来なら少しでも触れれば髪は引きちぎれ、肉体は細切れにされる。にも関わらず、優和の足は前へと進んでいた。


 「私は馬鹿だから! だから……ただ前に突き進むことしかできない! 作戦なんて無いし、無謀かもしんない! でもね、そんな馬鹿な私だからこそ、ただ突き進むだけの力が与えられたんだって思うんだ!」


 嵐の中で風と衝突し合う優和の声が何故かはっきりと志保の耳に届いた。


 「強くなったのは、声の大きさだけじゃないようね! けどね……そんな力だけじゃ押し切れるとは思わないでねっ!」


 腕を頭上に伸ばして手を広げる志保は上空にさらにもう一つの風の大玉を作り上げる。


 「巻き起こせよ風! お前は潰れろっ――!」


 風の大玉と相対していた優和の頭上からさらにもう一つの風の大玉の出現により前進を続けていた足が停止する。

 ほんの数秒だけ優和は苦悶の表情を浮かべると力いっぱいに大地を蹴り、その場から大きく飛び退いた。直後、優和が受け止めていた風の大玉と新たに出現した風の大玉の衝突により今日一番の爆発と土煙が発生した。

 地面を転がりながらも優和は強化された身体能力により大地を滑るように踏みとどまる。


 「上手く逃げたじゃない。でも、今度はこんな煙なんて無い状態で存分にやらせてもらうから」


 志保が腕を振るえば土煙は霧散する。新たな強風を起こし、視界をクリアにしたのだ。

 単純な力比べや我慢対決なら今の優和に分があるだろう。しかし、自然の力を操る存在というのがこれほど厄介になるとは考えもしなかった。

 必死に勝機を探して優和は再び走り出す。

 この期に及んで、愚直に前進して向かって来る優和に志保は失笑する。


 「何とか近づけば勝てると思ってんの? だったら、大間違いよ!」


 手の平を広げた優和はそこに風を収束させる。一つの塊になった風を強く握りしめると、それが透明な一本の剣に変化する。


 「風の剣、これは私が接近戦をする為に磨いた技。……私の得意な接近戦をする為のねっ!」


 高速移動で近づく優和はぎょっとして急ブレーキをすれば、寸前で自分の首があった位置を風の刃が通り過ぎた。

 常人なら目で追うのも困難なスピードで突っ込んだはずの優和だったが、志保はそれを直感と反射能力で対応してきたのだ。

 ギリギリで回避した優和に向かって次の一振りが繰り出される。咄嗟にジャンプして後退するが――。


 「――え」


 優和の右肩の辺りに血が滲んだ。優和はアナザーアビリティ”キズナスイッチ”の力で痛覚を鈍くさせていたことが、傷付いたことへの発見を遅くさせた。

 着地した優和の脇腹の辺りもじわりと熱くなる。はっとして視線を動かすと一センチ程の傷跡を発見した。


 「どうし……て!」


 考える前に体が動いていた。動物的な感覚が能力の上昇により研ぎ澄まされた結果、優和の思考が追い付かない段階で体を捻りつつ回転していた。

 その後、地面に縦長の窪みが発生する。

 点と線が繋がったように優和が志保の方に目をやると、風の剣をこちらに振り下ろしていたところだった。


 そこで優和は合点がいった。あの風の剣は伸縮自在なのだ。だからこそ、ただ後退しただけの優和と刃の先の方向が一緒なら剣を伸ばせば軽くに届く。幸いにも足を止めていなかった状態での攻撃だったこともあり致命傷は外れているようだった。

 こうした展開はエルデも心配していたことを思い出した。

 優和の能力はかなり強力な部類に入るらしいが、絶対的な欠点がそこにはある。これからの成長次第にはなるものの、優和の攻撃方法は肉弾戦しかない。遠距離からの攻撃が得意な敵と相対した時にどうしても優和は不利な状況に立たされることは目に見えているのだ。そうした場合は、事前に優和自身が武装した方が良いだろうと教えられていた。

 その心配が見事に的中し、優和の動揺から手応えを感じた志保の執拗な攻撃が続いた。

 伸縮自在の風の剣を回避しつつ優和はどんどんその場から後退する。


 (どうすればいい、どうしたら……!)


 うまく避けていたつもりだったが、志保もエルデに教わった教え子の一人。戦いながら成長しているようで、的確に優和の体に剣の刃を掠めさせていった。

 風の剣はさらに精度を高めていく、このまま続ければ結果は見えていた。


 「くぅ――!」


 痛覚を感じにくくなっているせいか自分が血を流し過ぎていることに気付いていなかった優和はその場で片膝をついた。

 回避行動を中断した優和を志保はそのまま放っておく訳もなく、一度腕を引く動作をすると優和の胸元へと狙いを定めて押し出す。


 「そこっ!」


 腕を引いた瞬間を見逃さなかった優和は咄嗟に横転することで剣の一押しから逃れると空地の隅の土の山が目に留まると土の裏に回り込んだ。

 今は一秒でも休息が欲しいと考えた優和は、土の山を背中に体を横たえてほっと一息をついた。

 我ながらなかなか機転が利いていると思った優和だったが、そう思考した直後に頭上の山の一部が爆風と共に抉れて舞い上がった。


 横たえた姿勢から咄嗟に体をうつ伏せにする優和の前で再度泥の山の一部が爆風と共に吹き飛ばされる。まるで、戦争映画や特撮で見かける爆発のように豪快だ。

 体を低くさせた優和は、その爆風に覚えがある。

 恐らく例の風の大玉をコンパクトにさせた物体をこちに投げつけているのだろう。しかし、それが分かったからといって解決策には結びつかない。


 「どうしたらいいんだよ……」


 考える優和の頭上でなおも土が抉れて爆発したように、上空に吹き飛んでいった。隠れ蓑にしているこの山が無くなれば、丸腰の優和が出現する。

 優和なりにシュミレーションを考えてみるが、ここから全力で脱出したとしても風の小玉の標的にされて、接近しても例の風の剣で攻撃される。

 遠距離攻撃に気を付けろと言われていたが、接近戦にも精通している敵のことは教えてもらっていない。

 全身を土に埋もれていきながら、優和はこのシチュエーションとよく似た出来事が過去にあったことを思い出していた。

 それはある大雪の日、幼い優和はクラスメイトと雪合戦を始めた。しかし、優和は雪玉を作るのも遅く、球を投げても相手に届く前に落下する。満足に遊ぶこともできずに優和は自分のチームの陣地でずっと隠れてやり過ごしていた。

 あれは雪に埋もれて隠れていたが、今回は土に埋もれている。冗談にしては笑えないなあと自嘲気味に失笑した。


 「いや……いけるかも……」


 土が口の中に入りながらも優和は呟かずにはいられなかった。もしかしたら、逆転の糸口があるかもしれない。

 優和は匍匐前進で進みつつ手を伸ばせば、どこにでもある”それ”を手にした。


 「うん、これも武器だ」


 そして、土に埋もれていくこの体。このままの状態なら埋もれたとしても、志保だって馬鹿じゃない。きっととどめに攻撃をしてくるはずだ。

 だがしかし、今の優和は身体能力が超人の域に達している。なら、できる作戦もある。


 「志保ちゃん、ここからが本当の戦いだよ」


 勝率ゼロパーセントから半分ぐらいまで確立が上がったような気がしながら優和は作戦の準備を始めた。

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