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いつか異世界に行くよりも、貴女の冒険を教えてほしい  作者: きし
第一章 プロローグのプロローグのプロローグを教えたい
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第1話 明城優和というドジな少女

 空椿女子高等学校そらつばきじょしこうとうがっこうの一年C組の昼休みの次の授業は、体育のバレーボールの授業だった。

 自分のコートと相手のコートを行き来するボールを明城優和あかじょうゆわは小さな口を大きく開けて、小動物を連想させるつぶらな瞳で目で追いかけていた。その姿はまるで木の上の枝にぶら下がるクルミを眺めるリスのようだ。

 バレー部のあの子がやんわりとスマッシュを打ち、運動が得意なあの子が運動が苦手な子を励まし、つい一か月前に入学式を終えたクラスはまだ新鮮な空気が流れていた。一ヵ月そこそこの人間関係の者と中学から連れ立ったグループの割合が微妙なクラスは見えない壁がそこら中に立っているようだった。

 体育館の二階から零れる温かな春の陽気に優和は目を細める。


 (あぁ、光合成~)


 体育館の窓の隙間から館内に入り込む太陽の光に、優和の頭の中のお花畑がどんどん成長していっていたところに――。


 「――優和! ボール来たよ!」


 幼馴染であり親友の井伊薪澪奈いいまきみおなの声に弾かれたように反応する。弾かれると言っても、人の数倍はスローテンポなのだが。


 「さあ、おいで! どんな剛速球にも反応するよ! 私はね、どんな時も全力なのがモットーなんだよ!」


 「優和! 今そうやって喋っている時点で剛速球じゃないから安心しなさい! ただのレシーブだよ! レシーブ! ほら、上!」


 「う~え~?」


 まるで錘を乗せた風船のようにバレーボールがみるみる内に優和の視界の中で大きくなって近づいてくる。

 優和からすれば、今日一番のチャンスとも言える。ここで颯爽と堅実な仕事をすれば、親友の清香ちゃんやクラスメイト達に一目置かれる存在になれるかもしれない。縁の下の力持ち的存在は、後々のイベントで日の目を浴びる可能性がある少年漫画的展開にワクワクものだ。

 もちろんトスを上げる程度でクラスメイト達から賞賛を浴びることも、澪奈の中での優和は運動音痴だという評価を覆すこともできやしないのだが、ここでそんなことを考えてしまうことこそ優和にとっても野暮というものだろう。


 (ちょっと待って、よく考えたら……私は全力でやるのがモットーなのだ。そういうキャラで行こうと入学式のあの日に少年ジャン○の前で誓ったのだ。ここで安易に堅実な仕事をしてしまえば、高くしたハードルを前にクラスのみんなの嘲笑を誘うかもしれない!?)


 気持ちをフルスロットルに切り替えた優和は、全力でレシーブを上げることを決意する。既に頭の辺りで行うオーバーハンドは間に合わない、ここはアンダーハンドで返す!


 「はあああああぁぁぁぁぁ!!! レシィィィィィイイイヤアアァァァァァァ――くへぇ!?」


 「優和わぁぁぁぁぁぁぁぁ――!?」


 本来なら腰を落として、両手を絡ませて面を作って、天井に向かって打ち上げるのが基本だ。

 体育の授業レベルのレシーブなので、チーム内に居るバレーボール部の女子も高く上げさえしてくれれば、さほど多くは求めていなかった。

 そのはずが、あろうことに素人の優和はわざわざ大急ぎで後退し助走をつけてボールに向かってスライディングレシーブを強行。水泳の飛び込みすら腹から着水してしまう優和は、そのまま助走の時点で足を絡ませてこけながら顔面から体育の床に顔面スライディングをかましたのだ。

 悪い意味で現実が想像を凌駕した瞬間だと授業の後にクラスメイトは語ることになる。


 「優和! 優和! 優和! 大丈夫!?」


 大急ぎで駆け寄って来る澪奈の声を耳にしながら、優和は最後の力を振り絞った。


 「……ごめん、澪奈ちゃんの買ったジュースのポイントシールを勝手に剥がしたの……私なんだ……しかも、それ無くしちゃった……」


 「それ今言うことなのっ――!?」


 これが、優和の入学式から四度目の保健室行きとなる。

 彼女は病弱でもなければ、何か秘密を抱えている訳でもない。

 ただの少女で、ただの――ドジなのだ。


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