第1章‐7
結構量のあったフルーツがすべて私の胃に収まった頃、なんともタイミング良くお母さんが部屋に来た。けれど、部屋に入ってきたのはお母さんだけじゃない。お母さんの後ろには、春日がいた。
「若葉ー、調子どうー?」
春日はいつもよりも少し小さめの声でしゃべってくれた。私が風邪ひいてるから、あんまり騒がしくしないほうがいいって思ったのかな? …春日、昔から気が利いてるしね。さすがというか…本当に、尊敬します。
「あ、うん、結構良くなったよ」
「そっかー。よかったー」
春日はそういうと、微笑した。
「あ、若葉、熱計っておきなさいよ」
フルーツが盛ってあったお皿を持ってさりげなく部屋を出ようとしたお母さんがふと思い出したように言った。
「はいはい。わかったから、早く部屋出てってよー。春日に大事な話があるんだから」
私がそう言ったのを聞くと、お母さんはあきれ顔で「はいはい」と言って出て行った。
「でもさぁ、若葉が学校休むなんて、本当に珍しいよねぇー。どうして風邪なんてひいたの? お腹出して寝てた?」
「いや、なんでそうなるわけ? 昨日薄着で長時間ベランダにいたらこうなっただけ」
私はペロッと舌を出した。春日は呆れ顔だ。
「あー、この寒さで上着を着ないで外に出るのは正気の沙汰じゃないね。何かあったわけ?」
「…春日さん、するどいですね」
ふぅと溜息をつくと、私は昨日のことを話し始めた。千尋が一緒に帰れないと言ったこと、春日と帰ろうかと思ったけどテニス部は終わるのが早いからやめたこと、そして1人で帰ってると陸斗がやってきたこと、それに…全然話せなかったこと。
「うーん…若葉も青春してるねぇ。若いっていいねぇ…」
「春日だってそうでしょ。それよりさぁー…もう、最悪」
「なんで? 陸斗と一緒に帰れてよかったじゃん?」
「よくないって。だって、私、ずっとだんまりとしちゃってたもん。絶対好感度下がった…」
そう言いながらふくれっ面になった私を見て、春日は笑った。そして、「人生何事もうまくいかないって」と笑いながら言った。
「でも、すごいね、本当に。超少女漫画的展開」
「あ、春日もやっぱりそう思うー?」
そしてそこから話は大いにそれまくり、春日がそろそろ帰らなくっちゃさすがに怒られる、と言ったときには最近のアニメの質が落ちてきた気がするという話にまで展開していた。
「でも…若葉、いつまでうじうじしてたって何にも変わらないよ? 陸斗モテるし、早くしないと他の女の子にとられるよ? これ、冗談抜きで」
玄関先で上着を着ながら、いつもみたいなからかい口調ではなく、重々しいシリアスな口調で春日はそう言った。…確かに、このままじゃ何も変わらない、よね。
そんなことを考えているうちに、春日は家の前に止まっていた春日のシルバーの自転車の鍵を開けて、またがっていた。そのとき、春日はいたずらめいた笑顔を浮かべて私にこう言った。
「あ、じゃあこうしよっか! 来月のクリスマスまでに陸斗に告る! これ、宿題ね!」
「え、ちょっ、春日?!」
私が真っ赤になって照れているのを見て笑いつつ、「絶対だよー」と言って春日は自転車を漕ぎ出し、家へと帰っていった。
「…無理ー!」
私がそう言っても、春日に聞こえているはずはなく。私はしかたなく、自分の部屋へと戻っていった。
春日が帰ってすぐに、私は布団に横になって熱を計った。…37度2分。だいぶ、下がったなぁ。
そして布団をしっかりとかぶって、目を閉じる。だけど……暇。正直、話す相手がいないっていうのは暇すぎる。今はなんとなくマンガを読む気分じゃないし、本を読む気分でもないし…。もちろん、勉強なんて絶対いや。だからと言って、また寝るのもちょっと無理だし…。春日にもうちょっとだけでもいてほしかったなぁ。
「あ~あ…暇っ!」
声に出すと、余計にむなしくなるこの静けさ…。なんだか、暇という気持ちに寂しいという気持ちがプラスされちゃったかも。
昔は風邪をひいて横になってるとき、いつも陸斗がそばにいてくれた。他の友達との約束を蹴ってでも、枕元にいてくれて、ずっとしゃべってた。陸斗は隣の家だから夜までいてくれたし、ときどき夜ご飯も食べていった。
…陸斗のメアド、知ってたらなぁ。直接や電話だと絶対昨日見たいにあがっちゃうだろうけど、メールだったら大丈夫…だと思うし。まぁ、それ以前にメアドを聞く勇気すらないんだよねぇ。あぁ、悲しい。陸斗が携帯持ってるのは知ってるんだけどなぁ。この間、うちのお母さんと陸斗のお母さんがしゃべってるの聞いたから。(確か「陸斗に塾に行かせる代わりに携帯を買ってあげた」みたいな感じで言ってた覚えがある)
せっかく私だって携帯持ってるのに。あーあ、誰かに陸斗のメアド聞きたい。たとえば…新城君とか知ってそう。あ、でも私、新城君としゃべったこと、あんまりないし…。あと、千尋も知ってそうかも? …でも、死んでも聞けない自信がある。
でも、確か「将をいんとせば馬をなんちゃら」…っていうし、春日の言ってた通り、陸斗への恋を進展させなければいけないかも。…よし、決意。まず、小さなことでもいいから行動しよう。じゃあ、はじめに朝陸斗がうちのクラスに来た時に、「おはよう」ぐらいを…。いや、でもあの状況じゃ無理だ! …じゃあ、廊下のあたりに立ってる? そして陸斗が通る時に「おはよう」って言おうかな?
そんなことをいろいろと考えていると、お母さんが部屋へとやってきた。熱は計ったのか、と言ってきた。けれど私が寝っ転がったまま「37度2分ー」というとあっさりと部屋から出て行ってくれた。
【チャラチャラチャラ~チャ~…♪】
寝っ転がったままいつのまにか寝ていた私を起こしたのは、1通のメールが届いたと知らせる携帯の音楽だった。
「あー…いつの間に寝てたんだろう?」
時計を確認すると、11時。どうやら夜ごはんを食べ損ねてしまったらしい。
「メール…あ、千尋」
メールの中身を開くと、こう書かれていた。
『件名:若葉ぁー!! 本文:寝てたらごめん! 今日、学校休んでたけど大丈夫ー? 明日は来るよね? それと、若葉、大ニュース! 詳しくは明日、学校で言うよっ(o^-')b じゃあねー(*´∀`)/"』
…いや、そこはちゃんとメールで内容書こうよ。(千尋らしいと言えば、千尋らしいけれど)
その大ニュースと言うのが気になったけど、なんか返信する気すらおきなかったし、とりあえずそのまま放置して寝ることに決めた。




