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HONEY  作者: sora。+*
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第1章‐4

「さーてと! おしゃべりもいいけど、ちゃんと掃除をしてもらえるかな?」

 私と春日が振り向くと、そこには副担任の美和ちゃんがにっこりと笑って立っていた。

「美和ちゃんごっめーん!」

 春日はそう言うと、けらけらと笑った。私は軽く、「ごめんなさーい」と言った。

 石崎 美和───通称美和ちゃんは、英語の担当の先生。まだ教師1年目だけど、明るくて話しやすくてお姉さん的存在。小さい頃からスポーツが好きらしくて、体はきゅっとひきしまっていて、すっごく細い。ちなみに美和ちゃんはテニス部の副顧問をしている。

「はいはい。まぁ、あとは机を元に戻すだけだし、おしゃべりの続きはその後ゆっくりとどうぞ」

「はーい」

 机つりを始める前に私は窓の外をもう一度、ちらっと見た。そのときは陸斗の姿は見当たらなくって、少し悲しかったりもした…。


「ってわけでさ、若葉、今日は先に帰ってて!」

 部活終了後。千尋がそう言ってきた。何でも急に抜け出せない用事が出来たらしい。

「わかった。気にしないで? じゃあ、また明日ね」

 私はにっこりと笑った後、1人校門へと向かった。最初は春日を待って一緒に帰ろうかとも思ったけど、春日の入っているテニス部は終わるのが早いからすでにいないはず。だから結局、1人で帰ることにした。

 1人で帰るのは、ひさしぶりだった。千尋とは帰る方向が一緒だから、途中まで一緒に帰ってる。いつも、千尋と2人きり。楽しいは楽しいけど…ね。

 でも、たまには1人で帰るのもいいかもしれない。1人でいる時は、物思いにふけっていられる。お話を考えるのも悪くない。

 私の最近の趣味は、詩や小説を書くこと。テスト勉強の息抜きにはぴったりで、落ち込んでいるときにもぴったり。とにかく、最高だと思う。

「ヘレンの物語、そろそろ書き始めようかなぁ…」

 そう独り言をつぶやいていると、後ろから誰かに「若葉ぁー!」と大声で呼ばれた。誰かな? と思いつつ後ろに振り向くと。そこにいたのは、陸斗だった。

 ………陸斗っ??!!




「り、陸斗?」

 やばい、あの、心臓ばくばくなんですけど…。あ、だめ、頬っぺた真っ赤かも。とにかく、ものすごくうれしい。

 …でも、なぜ? ───そう疑問がわいた。今までずっと素っ気なくって、しゃべりかけようともしなかったくせに。何で、今いきなり? …でも、嬉しいからそんなこと気にしないでおく。本当に、私って単純。

「どどど、どうしたの?」

 …あれ? ちょっと、おかしい。しばらく話さなかったうちに、なんだか、昔みたいに話せなくなっちゃった。本当に、妙に意識しちゃう。赤くなってるのに気づかれたら、どうしよう。けど………陸斗は昔となんら変わりない様子だった。明るくて、普通の表情。まるで、昔に戻ったみたいに。

「『どうしたの?』って…。いや、若葉の後姿が見えたからさ。ひさびさに一緒に帰らないかーって、聞こうと思って。だめだった?」

「ぜ、全然! もちろんいいにきまってるよ! 今日はさ、千尋が用事が出来たから一緒に帰れないって言ってたから、1人で帰ることになってさ…。誰か一緒に帰る人ができて嬉しい」

 私はちょっとだけはにかんだ。やばい、すごく早口な気がする。陸斗と話すって、こんなにも緊張することだったっけ? だけど、しゃべれるだけでうれしい。

 でも───その後ちょっと息苦しい時が訪れた。お互い、無言。向こうからは話しかけてくれない。けど、こっちから話そうと思っても頭が真っ白でなにも思いつかない。最悪。せっかく2人きりなのに。なにか、気の利いた話題…。話題のミュージシャン? 駄目だ、私、興味ないから全然思いつかない。最近はやりのドラマ? 千尋が毎週見てるやつ。…これもダメ。私、そのドラマに出てる俳優があんまり好きじゃないから見てない。…お笑いとかも、興味ないからわからないし…。人気小説…は陸斗が読んでいないだろうし。あぁ、だめ。いいものが思いつかない…。


 先に沈黙を破ったのは、陸斗だった。

「なんか…息が詰まっちゃうな」

 ……そう…だよね。私は思わず項垂れた。あぁ、完璧終わった。これはさすがに、嫌われる…。

「ってか若葉、静かになったな。昔なんて、俺の前じゃうるさいほどしゃべってたくせに。ぴーちく、ぱーちくって」

「そっ、そんなにうるさくはしてないよ!」

 思わずムキになって答える。そんな私を見て、陸斗は「そっちのほうが若葉らしい」と言って笑った。

 でも…ひょっとしたら、かなりうるさかったかも。人見知りをして、照れ屋だった私はあんまりおしゃべりじゃなかった。陸斗の前以外では。

 陸斗の前じゃとにかくおしゃべりしていた。誰よりも楽しかったから。誰よりも言いたいことがあったから。他の女の子の友達よりも。男の子の友達よりも。お母さんよりも。先生達よりも。誰よりも。

 ───でも、今は何で楽しめないんだろう。…そっか。楽しむほどの余裕がないから…か。なんかこれはこれで、少し悲しい。今はただただ意識しちゃって───何も言えない。昔、何であんなにしゃべれたのかわからないぐらいに。

「…っていうかさ、陸斗。いきなりなんなの?」

「いきなり何って…そりゃ、若葉が見えたから…」

 けれど、陸斗のその言葉をさえぎって、私が聞いた。

「今まで、何もしゃべりかけてこなかったのに?」

 …聞いちゃった。聞いちゃったよ。陸斗が面くらってる。そりゃ、驚くよね。いきなりこんなこと聞かれたらさ。

「そう…だよな」

 でも、私もちょっと面くらった。てっきり、昔みたいになんか言い返すかと思った。そんなにしんみりされたら困るよ。そして、更に息が詰まった。

ただでさえ頭が真っ白で…あぁ、もう。本当に困るって…。

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