No.9 参加条件
「リバティ後ろ!!」
私の掛け声で振り返るリバティ。
背後に迫っていたラビットエッグに反応し、すかさずそれを蹴り飛ばす。
そして倒れたラビットエッグの耳を押さえ付けるように踏み、ニコッと笑って脳天を銃弾で撃ち抜いた。
「おやすみ」
ズガン!!!
マガジンをガシャっと込め直し、靴に付いたウサギの血をハンカチで拭った。
敵を倒し終えると、すぐに身を隠せる場所に移動する。
止まったメリーゴーランドの、回転木馬の座席の影に隠れながらーー
「全く……『イースターワールド』とはよく言ったものです」
「どういうこと?」
「『イースター』とは『復活祭』とも言います。レナも僕と同じーー『春分の日』に殺されたのではないのですか?」
リバティの言う通り、『春分の日』にあのマイルという少年に殺された。
祝日で学校が休みだったから間違いないーー
「それがどうしたの?確かに春分の日だったけど」
「『イースター』とは本来、”『春分の日』と満月の夜が重なった次の日曜日”に行われます」
「満月……?」
空を見上げると、大きく光り輝く満月が浮かんでいた。
リバティがスマートフォンを取り出し、カレンダーのアプリを開いて私に見せた。
圏外で他に使い物にならない端末だったがーー
「今は日付が変わって日曜日ですーーつまり『イースター』の日が始まっています」
私が死んでからそれだけ時間が経っているという事。
「今日が『イースター』の日……そんな日にデスゲームなんて……」
「恐らくですが、少なくとも『春分の日』の日に殺される事が、奴の言う『天国と地獄ゲーム』への参加条件だと考えられます。つまりこれはーー僕達死者を集めた『復活祭』ですね……クソ喰らえって感じです」
まさにリバティの言う通りだったーー
こんな強制的に集められたイースターは、全くと言って祭りではない。
私はやはり一つ聞いてみたかった事があった。
「もしも他の参加者が襲って来たら、リバティはどうするの?戦うの?」
「なんですかその質問は?まさかここまで来て未だ人殺しは嫌だ……なんて甘えた事言い出すんじゃないですよね?」
迷いがないと言えば勿論嘘だ。
いくら自分が生き返りたいからだとは言え、他人の命を奪うことに躊躇いがある。
けれどやはり私は”死にたくない”。
「……大丈夫。けど私、銃を持ってるリバティと違って丸腰なんだけど?」
このまま敵とエンカウントすれば、間違いなく抵抗も出来ずに瞬殺されるのが目に見えている。
それをリバティは馬鹿にしたように笑って言い返す。
「死んだフリでもしてください。あっ、もう本当に死んでいるんでしたね」
怒りで暴れてやろうかと思ったが、武器の持たない非力な私はただ睨みつけることしか出来なかった。
既に死んでいる私は、先程のコーラの空き缶の事を考えると、おそらく落ちている物を拾って武器に使うーーと言った事は出来ないのだろう。
「リバティはその銃を何処で手に入れたのよ?」
「これですか?配布されたでしょう?」
「配布?」
キョトンとする私だったが、すぐに『イースターワールド』の手紙を思い出す。
中を調べるとーーそこには一枚のチケットと、一枚のパスポートが同封されていた。
首を傾げる私に、リバティはボソッと抑えた声で突然言った。
「それの説明は後でします。どうやらレナ……客人が来たようです」
「えっ?」
その瞬間ーー突如私の視界に、どこからともなく現れた、銀色に光る三本の刃が襲い掛かる。
リバティが咄嗟に私の襟を後ろに引き、持っていた拳銃で受け止めた。
私達の目の前に、空中に謎の鉤爪が浮かんでいた。
何処からか投げられた物ではなく、まるで意思があるかのように、その鉤爪は浮かんで私達に攻撃してきた。
「爪が飛んでる!?」
目の前の現象に戸惑う私だったが、リバティはニヤリと笑って冷静に対処。
拳銃で弾いた後、すぐさま私を引っ張って距離を作る。
「他の参加者が襲って来たらどうするか……レナはさっきそう聞きましたよね?勿論僕はーー捕まえて、腹を空かせたウサギの前に放り出します。そして敵がやって来ました」
「敵……!?この鉤爪が……!?」
「勿論ですーー」
ふわふわと浮かぶ鉤爪に向かって、リバティは笑って言い放つ。
「ーー敵は我々と隠れ鬼をしたいみたいです……みィつけた……!」
リバティは自身の封筒から、私と同じチケットを取り出した。