No.7 目立ちすぎました
「うわぁぁぁ!!!た、助けてくれぇぇえ!!!」
建物の外から、何かが裂けるような大きな悲鳴が聞こえて来た。
この生死を賭けたデスゲームにおいて、その悲鳴は危険の方角を示していた。
「リバティ!あっちから悲鳴がっ!」
「ウサギでも出ましたかね」
「逃げなきゃ!!」
私は正反対の方角に駆け出そうした。
しかしリバティは私の腕を再度掴み、ニコニコの笑顔で悲鳴の方へ引っ張った。
「情けないですよレナ」
「えっ!?ちょっとリバティ!?まさか助けに行くの!?あんたが!?」
「酷い言われ用ですね。僕は優しい人間ですよ忘れましたか?」
「お願い!寝言は寝てから言って!」
間を開けずにすぐさま否定する。
私の知る限り、このリバティ・エンフィールドという男に優しい一面は一瞬もない。
「アハハ!お前を永遠の眠りにつかせますよ!?まぁ、実際助けに行くわけないですがね……!」
「それじゃ一体どこに何をしに!?」
リバティは私を連れながら向かった先は、悲鳴のあった外ではなく、この建物の屋上へ続く室内非常階段だった。
元々二階建てのショッピングモールだが、ここは普段一般客が使うメインフロアの方ではなく、一部パークスタッフしか使わない裏口通路である。
かなり狭く、あちらとは正反対の殺風景な階段。
しかし逆に通路が1本に限られており、ここでもし敵に出くわしたとしても、反対の方向へ逃走すればいい。
そして何より屋上まで繋がる唯一の通路であり、屋上に敵がいなければ、”籠城戦”が可能になる。
私は階段を登りながら、リバティの背中に向かって問い掛けた。
「……籠城戦ってなんか悪足掻きっぽくて、あんまり賢い作戦とは思えないよ」
「確かに籠城戦は、本来援軍が来るまでの時間稼ぎに使う苦肉の策と言われています。殆どがジリ貧で、歴史上それで敗北してしまった戦も多いのが事実です」
「だったら私達も止めようよ!ましてや私達には他に援軍なんていないんだし!」
「ですがレナ。籠城戦の目的に『敵の攻撃を断念させるまで耐える』という使い方もできます」
「『断念』……?」
「今回の”天国と地獄ゲーム”は、全員がソロプレイヤーです」
「それで?」
「まぁ見てなさい」
私はリバティに言われるまま、屋上に辿り着くと隠れるように外に顔を覗かせた。
見下ろすとそこには、先程の悲鳴を挙げた人物と思われる男が、3体のラビットエッグに追いこまれていた。
「あの人やばいよ……!」
遠くから見て分かるーー
片腕から大量の血を流し、長い鉄パイプを無我夢中で振り回している。
おそらく襲われた際に噛み付かれ、必死に抵抗していると言ったところか。
30代と思われる肥満体の男は、鉄パイプで飛び掛るラビットエッグを次々となぎ倒して行く。
「近づくんじゃねぇ!寄るな!来るな!!」
恐怖で錯乱したように叫びながら、2体の頭をカチ割った。
そして最後の1体が男の腹部に潜り込み、鋭い牙で齧り付く。
ガリっ!!!
「あぁぁぁ!!!」
鈍い齧る咀嚼音と、男の痛々しい悲鳴ーー
男は自身の肉ごと強引に引き剥がし、鉄パイプで3匹目のラビットエッグを打ち倒す。
そんな光景を上から見下ろし、私は初めてこれが死のデスゲームである事を実感した。
しかしーー私はまだ全てを実感した訳ではなかった。
「生き残りましたか……しかしあの男はーー目立ち過ぎました」
「えっ……?」
私にはリバティの言った”目立ち過ぎた”という意味がよく分からなかった。
その直後ーー
ズタンッ!!!
遠くで空気を割くような鋭い銃声が鳴り響く。
私は視線を下の男に戻すとーー頭を貫かれ、地面にドサッと真っ直ぐ倒れ込んだ。
「ひゃっ!?」
それを見た私は思わず声を上げそうになった。
リバティがすぐさま私の口を抑え、声を止めた。
「いいですかレナ?これはデスゲームです。ウサギに喰われないよう逃げるだけではダメなのです」
何者かが男の隙を狙い、遠距離から殺害した。
これが私が参加させられた”天国と地獄ゲーム”の実態。
「そんな……!あの人せっかく助かったのに……!」
「『漁夫の利』です。殺し合いを横から第三者が介入し、勝ちを強引に横取りしたんです」
私はそれを聞いてーー目の前で人が死んで、全身に鳥肌がたって震えていた。
このイースターワールドにおいて、安全な時間など一瞬もない。
「先程の籠城戦の話ですがーー」
リバティは続けて言った。
「ーー我々に援軍などいませんが、敵の敵を上手く使います。しかし……敵の1人にスナイパーがいる事が分かりました。となると、籠城戦はあまり得策ではなくなりました。場所を変えましょうレナ」