No.5 大人しく僕に利用されて下さい
「あっ……!あいつ……!!」
目を丸くして驚いた私に、隣にいたリバティはボソッと口を開く。
「……おや、レナもあの黒コートの少年を知っていますか」
「私もってことはリバティも!?」
「えぇ、忘れもしません……私はあの少年に撃ち殺されました」
「えっ!?撃ち殺された!?」
「いきなり目の前に現れて、そのまま説明も無しに心臓をズダンっです。子供と思って油断しました」
「リバティもだなんて……一体どういう」
「その様子ですと、どうやらレナもあの少年に殺されたようですね?」
リバティの言う通り、私はあの少年に突き飛ばされてーートラックに撥ねられて死亡した。
「……うん。道路に突き飛ばされた」
「理由は分かりませんが……どうやら僕達は、あの黒フードの少年に殺されたからここにいるようです。連れてこられたという言い方が正しいですか」
「ここは死後の世界ってこと!?なんで私達、あいつに殺されなきゃならなかったの!?なんで連れてこられたの!?」
私は無我夢中で頭に浮かんだ疑問を乱雑にぶつけていく。
「だから分からないと言いました。目的は不明ですが、目的があるから僕達を殺して、この場所に連れてきたのです……先ずは相手の出方を見てからーー」
リバティがそこまで言ったところで、画面に映っていた少年が、両手を広げて無邪気な笑顔を見せて大声を上げた。
『これでメンバーは大体揃っただろ!分かってると思うけど、ここにいるお前ら全員ーーもう既に死んでいるから!俺が殺したから!!』
謎の達成感に笑う少年に、私は吹き出る怒りを抑えられずにいた。
「あいつ何笑ってんだ!?」
私が思わず飛び出そうとしたが、リバティが腕を掴んで呼び止めた。
「まぁ少し落ち着きなさいレナ。あのガキを泣かすのは話を聞いてからにしましょう」
『ニシシっ!お前ら急に殺されてーー人生終わらされて恐怖してるだろ?だって俺は、明日に希望を抱いてる奴を選んで殺したんだから!』
その少年の言う明日を聞いて思い出したーー
明日私にとってとても大切な日。
弟が生まれてくる日だった。
やはりこのまま黙って隠れているだけなんて、私には出来そうになかった。
「離せリバティ!私はあいつを許せない!!」
「感情的すぎますレナ。今飛び出してもどうにもなりません」
「リバティは悔しくないのか!?あんな訳の分からないやつに殺されて!」
「悔しいのは分かります。ですが感情的になっていては勝てませんよ」
「勝つ!?」
リバティの言う話が、一体何を指している事なのか分からなかった。
キョトンとした表情を浮かべる私に、リバティはため息を吐きながら口にした。
「手紙を読んでいなかったんですか?おそらくもう既に始まっています。奴の言う僕達以外の他のメンバーが姿を見せていないのは、つまりそういうことです」
そこで私は改めて、同封されていた手紙の存在を思い出した。
ーーそういえば手紙は読んでいる途中だった……
『天国と地獄ゲーム』
その内容は映像の少年の口から語られた。
『みんな紹介が遅れたね。俺の名前は”マイル・ラ・ギャレットコート”。長いからマイルって呼んでねー。さて、早速天国と地獄ゲーム始めちゃおうか』
私は手元にあった手紙ーー天国と地獄ゲームのルール概要に目を落とす。
『ルールは簡単!園内にいる君たち10人の中で、最後の一人まで逃げ延びた人の勝ち!単純シンプルさ!っと、おいおい……!もう一人ラビットエッグに食われた人がいるね!そんな早くゲームが終わったらつまらないよ!みんながんばって逃げてね!』
少年が園内を見渡しているのか、笑いながら首を左右に降ってそう言った。
先程私を喰らおうと、襲ってきたラビットエッグがいた事を思い出す。
あの時はリバティがいたから救われたが、あれがもし何も知らない初見だったと思えば、今頃私も食われていただろう。
『襲って来るラビットエッグを殺しても全然構わないけど、奴らは無数にいるからがんばって!あと警告しておいてあげるけど、この”イースターワールド”から逃げ出そうなんて思うなよ?身体が粉々に飛び散っちゃうからさ!』
残酷な事を少年はとても愉快そうに口する。
ーー狂気だ……!
『このゲームに勝利すれば、元の世界に生き返らせてあげる!』
少年のその宣言に、私の目を丸くして驚いた。
「生き返れる……!?ママの所に帰れる……!?」
「……はぁ、やれやれ。生き返りたい気持ちもわかりますがーー」
リバティはため息を吐きながら、私を突然ギュッと抱き寄せた。
「えっ!?ちょ、急に何!?」
私が驚いたところで、リバティは急遽銃声を轟かせた。
ズガン!!
ビクッと一瞬怯える私だったが、すぐにリバティの発砲がーー私の足元に迫るラビットエッグに向けた物だった事に気がついた。
「ボーッとするのは後にしましょうーー」
風穴を開けたラビットエッグの個体を足で転がし、私を軽く突き放す。
乱暴なやり口だが、私をこれで二度も救ってくれた。
そしてリバティは私に不敵な笑みを見せ、冷静に状況を判断していた。
「ーー僕はレナの事が嫌いです」
突然何故か挑発する台詞を吐いてきた。
「は!?」
「レナも僕の事が嫌いですね?しかしお互い知った顔です。このふざけたゲームを勝ち進めるのに都合が良い。いいですか?僕も、ママに会って感謝の意を述べたいのです。なんとしても勝たなくてはならない。その為には貴女の力が必要です」
「私の力……?」
「大人しく僕に利用されて下さい」
「利用……!?」
忘れてはならないーー
この天国と地獄ゲームにおいて、勝利することの出来る枠はたった一人。
リバティの真意を明らかにしないと、私は本当に利用されて捨てられる。
私はリバティをどうしても信用出来ない点があったーー
”ママに会って感謝の意を述べたいのです”
ーーだったらお前はどうして、私達家族の前から姿を消したんだ……!?