No.3 同じ姓を持つ男
私と同じ姓を持つ男ーーリバティ・エンフィールド。
18歳くらいの高身長で、笑顔が耐えない一見好青年を思わせる男。
黒で統一させたハット帽と細身の服装を着こなし、銀のネックレスを首に掛けている。
しかし不信感を抱かせる、クルクルと遊ぶように回す右手の拳銃の存在が気になった。
先ほどラビットエッグを撃ち抜いたのは、恐らくその拳銃だろうか。
ずっしりとしたそのフォルムの拳銃を、リバティは子供の玩具のように手先でクルクルと回す。
「リバティ……!本物か……!?」
何が現実で虚構か分からない混乱した世界で、目の前のリバティを疑うのは必然だった。
「なんですかその言い草は。私はリバティ・エンフィールド。本物です。”あの時”はお世話になりました」
リバティの言う”あの時”は、私達にとって運命の出会いの日を指していたーー
※
10年ほど前の事。
私の前にリバティが初めて現れた日であり、まだ”エンフィールド”の姓が授けられる前の事。
「レナ。この子はリバティ。今日から貴女のお兄ちゃんになる男の子よ」
ママがそう言って、見知らぬ男の子を連れて来た。
その時リバティには一切の笑顔はなく、全身が酷く汚れてボロボロの姿をしていたのをハッキリ覚えている。
「お兄ちゃん……?」
まだ幼稚園児だった私は、ママの突然の台詞に戸惑っていた。
それもそのはず、私は今まで兄妹というものが一人もいなかった。
突然知らない男の子を兄と呼べと言われても、すぐに理解出来るわけもない。
しかし悩む事もしなかった私は、とりあえずその場で純粋に思ったことを口にする。
子供と言うのは時に残酷に、相手の都合をお構い無しに発言する。
「……お前、どうしてそんな汚い服なんか来てるの?寒くないの?」
リバティは当然、好きでボロボロな格好をしているのではなかった。
後で聞いた話だが、リバティは親を幼くして亡くし、保護者に棄てられーー路頭を独りでさ迷っていた孤児だった。
今思えば酷いことを言ったと後悔する私だったが、リバティとは真逆の裕福な暮らしをしていた私は気が付かなかった。
「こらレナ!リバティ君はーー」
ママがすぐに私を叱って訂正しようとした。
けれどリバティは冷めた表情のまま、乾いた笑みを浮かべて言い返した。
「大丈夫ですよ……僕の気持ちが分かる筈ありませんから……」
この頃からリバティは、笑顔を多用しーー本心を人に見せることを一切しなかった。
※
あれから10年ほど経ち、今目の前にリバティが現れたーー
「リバティ。お前が私達の家族になって数年後。突然お前は姿を消した……何でだ?貧しかったお前を、ママは家族にしてくれたのに……」
「アハハ。だから言ってるじゃないですかーー」
そう言ってリバティは冷めた笑い声をあげながら、見下すような目付きで言い放った。
「ーー貴女に僕の気持ちが、分かる筈ないのだと……」
「お前の気持ち……!?何言ってんだ!?お前こそママの気持ちを知らないだろ!?いなくなったお前を、ママはどれだけ心配してーー」
そこまで私が言ったところで、リバティは両手をパンッと叩いて言い返す。
「もう止めましょうこの話は」
「は!?止めないよ!私は怒ってんの!お前に!」
ママの善意を裏切ったリバティを許せない。
しかしリバティは大笑いしながら、私に指を指してニヤリと笑う。
「いくら怒ろうが関係ありませんよ。それより貴女は、まず自分の心配したらいかがですか?」
「私の心配!?何話し逸らそうとしてるの!?」
アハハハハハ。
リバティは不気味に笑いながら、私の耳元に近づいてそっと囁いたーー
「貴女はもうーー『死んでいる』のですから。それすら気が付かない愚か者ですよ」
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