最終回 守られた命。新しい命。
「確かに身体や世界は無くなるかもしれないです!!幸せは無くなってしまうかもしれないです!!ですが!!だとしても!!感じた幸せまではーー無くならない!!!」
兄のリバティが初めて私に怒った瞬間だった。
普段はヘラヘラと笑って、何を考えているのか分からない人物だったが、今は真っ直ぐリバティの心の内が伝わってくる。
「感じた幸せ……!!」
家族と過ごした幸せな思い出ーー
例え今この瞬間世界が終わったとしても、リバティの言う通り、私を満たしている暖かな気持ちは離れない。
それを考えると、なんだか恐怖が薄れていくような、救われた気持ちになった。
「ほらレナ……ママの所へ帰りなさい……!最期くらい兄らしいことをしてあげます……!」
「うわぁぁぁぁぁ!!!」
ーーふざけるな!何が兄らしいことよ!?
私は溢れ出る涙で顔を紅くしていた。
嗚咽のような声で、真っ先に口に出た言葉はこれだったーー
「うぅ……!私の事嫌いなんでしょ!?なんでよ!?」
「……えぇ、確かに僕は、レナの事が嫌いでした……!無知で愚かで、当たり前に与えられた幸せに……感謝すること無く生きている貴女に、嫌悪していました……!」
リバティが語る私への想いーー
その台詞に当てはまる、感謝するべき相手は誰でなのか……
今なら心の底から理解できる。
たくさん貰って、たくさん感じたーー
「ママの……家族の愛……!」
「……僕は、幸せを知らずに生きてきました……!勿論、家族というものも知りません!私は元々の家族に棄てられ、一人貧しく暮らしていましたから……!」
ママに後から聞かされた、義兄リバティの辛い過去。
想像するだけでその過酷さがよく分かる。
だとしたら尚更、私は聞いておかなければならない事がある。
「リバティあなた、どうして私たち家族の前から居なくなったの……!?」
「……あの人の平等な愛情が、僕には眩しすぎたんです……迷惑を、掛けたくなかった……ママも、そしてレナも……」
ドサッとリバティの身体が崩れ落ちる。
意識が薄れていくのを感じ、私はこれほど辛い涙を流したことがなかった。
抑えても拭っても、次から次へと涙が溢れてくる。
私はリバティの手をしっかり握り、感謝の言葉を声にした。
「リバティがお兄ちゃんで本当に!本当に本当に!幸せだった!!」
「……ふっ、全く、退屈しない妹でしたね……」
※
リバティは過去の記憶の断片を、走馬灯のように思い出していたーー
その中で一番強く覚えているのは、私たちが初めて出会った日。
兄妹になった日だーー
『大丈夫です。僕の気持ちが分かるはずありませんからーー』
リバティがママの手に連れられて、初めて家に来た日。
私はボロボロに汚れたリバティを見て、心にもないことを言ってしまったのだ。
リバティが作り笑いで私にそう言い返し、いきなり険悪な雰囲気で包まれようとしていた。
けれど私は、欠伸をしながら吐き捨てたんだーー
『うん。分かんないよ』
これにはキョトンとした表情で立ち尽くすリバティ。
私はニコッと笑い、堂々と胸を張って続けて言った。
新しい兄を笑顔で迎え入れるんだーー
『ーー関係ない!もうあなたは私の家族なんだから!飢えて死ぬのも、凍えて死ぬのもこれからは一緒なんだよ!』
※
リバティ・エンフィールドはあの日あの瞬間、生まれて初めて心暖かな家族ができた。
改めて思い出したリバティは、目の前で無く私を見てフッと笑う。
「……レナ。僕は君に救われた……返しきれない、感謝をしています……家を出た僕が言うのは烏滸がましい事かも、しれませんが……」
意識がすっと落ちていくのを感じた。
私はリバティをギュッと抱き締めて、思いをしっかり受け止める。
「なあにお兄ちゃん……?」
「レナ……僕は、もし生まれ変わることができたなら……もう一度、レナのお兄ちゃんに、なり、たい……」
「うん……!リバティはずっとずっと!私の自慢のお兄ちゃんだよ!!」
リバティの瞳がゆっくり閉じるーー
その瞬間ーー世界が唐突に幕を閉じた。
ガシャーン!!!
いきなり爆音が辺りに轟き、私は飛び上がるように驚いた。
振り返ると、そこには大破したトラックと、それを取り囲む野次馬が溢れていた。
同時に私は、そこが死の直前の景色であることに気がついた。
ーー街に戻って来た……生き返ったんだ……!
「おねぇちゃん大丈夫か!?」
私を心配して近寄って来てくれた通行人。
呆然と立ち尽くす私だったが、生き返った喜びよりも、兄ーーリバティの顔が頭から離れない。
ーーお兄ちゃん……!ありがとう……!大好きだよ……!!
何度も何度も心の内で感謝を叫ぶ。
兄から貰った大切な命ーー
私はすぐさまこの場を離れて駆け出した。
1時間後。
慌てて開けたドアは、ママの待つ病室だった。
「ママ!!」
まるで数年ぶりに会うかのような懐かしさと、ママの抱き抱える『新しい命』に、私は感動で再び涙が溢れ出た。
「あ……!」
「おかえりレナ。ちゃんと挨拶しなさい。あなたはーー今日からお姉ちゃんなんだから」
泣き疲れたのか、安心したのか、ママの腕に抱かれて眠っていた私の弟。
その顔を見た瞬間、兄の顔を思い出すーー
「……よろしく弟くん。私はレナ。あなたのお姉ちゃんよ」
リバティのような、優しくて強いお姉ちゃんになるんだ。
今度は私が、この子を守ってあげる番よね。お兄ちゃん……!
ご愛読ありがとうございました!最終回です!
生と死の向き合い方、皆さまにメッセージが届くように楽しく書かせていただきました!
次回作は準備でき次第連載開始します!!お待ちください!!
もう一度ありがとうございました!これからも応援よろしくお願いします!!




