表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/27

最終回 守られた命。新しい命。


「確かに身体や世界は無くなるかもしれないです!!幸せは無くなってしまうかもしれないです!!ですが!!だとしても!!感じた幸せまではーー無くならない!!!」




 兄のリバティが初めて私に怒った瞬間だった。


 普段はヘラヘラと笑って、何を考えているのか分からない人物だったが、今は真っ直ぐリバティの心の内が伝わってくる。



「感じた幸せ……!!」



 家族と過ごした幸せな思い出ーー



 例え今この瞬間世界が終わったとしても、リバティの言う通り、私を満たしている暖かな気持ちは離れない。


 

 それを考えると、なんだか恐怖が薄れていくような、救われた気持ちになった。



「ほらレナ……ママの所へ帰りなさい……!最期くらい兄らしいことをしてあげます……!」



「うわぁぁぁぁぁ!!!」



ーーふざけるな!何が兄らしいことよ!?



 私は溢れ出る涙で顔を紅くしていた。



 嗚咽のような声で、真っ先に口に出た言葉はこれだったーー



「うぅ……!私の事嫌いなんでしょ!?なんでよ!?」



「……えぇ、確かに僕は、レナの事が嫌いでした……!無知で愚かで、当たり前に与えられた幸せに……感謝すること無く生きている貴女に、嫌悪していました……!」



 リバティが語る私への想いーー



 その台詞に当てはまる、感謝するべき相手は誰でなのか……


 今なら心の底から理解できる。

 たくさん貰って、たくさん感じたーー



「ママの……家族の愛……!」



「……僕は、幸せを知らずに生きてきました……!勿論、家族というものも知りません!私は元々の家族に棄てられ、一人貧しく暮らしていましたから……!」



 ママに後から聞かされた、義兄リバティの辛い過去。


 想像するだけでその過酷さがよく分かる。



 だとしたら尚更、私は聞いておかなければならない事がある。



「リバティあなた、どうして私たち家族の前から居なくなったの……!?」




「……あの人の平等な愛情が、僕には眩しすぎたんです……迷惑を、掛けたくなかった……ママも、そしてレナも……」



 ドサッとリバティの身体が崩れ落ちる。


 意識が薄れていくのを感じ、私はこれほど辛い涙を流したことがなかった。



 抑えても拭っても、次から次へと涙が溢れてくる。



 私はリバティの手をしっかり握り、感謝の言葉を声にした。


 

「リバティがお兄ちゃんで本当に!本当に本当に!幸せだった!!」

 


「……ふっ、全く、退屈しない妹でしたね……」





 リバティは過去の記憶の断片を、走馬灯のように思い出していたーー


 

 その中で一番強く覚えているのは、私たちが初めて出会った日。

 兄妹になった日だーー




『大丈夫です。僕の気持ちが分かるはずありませんからーー』



 リバティがママの手に連れられて、初めて家に来た日。


 私はボロボロに汚れたリバティを見て、心にもないことを言ってしまったのだ。


 リバティが作り笑いで私にそう言い返し、いきなり険悪な雰囲気で包まれようとしていた。



 けれど私は、欠伸をしながら吐き捨てたんだーー



『うん。分かんないよ』



 これにはキョトンとした表情で立ち尽くすリバティ。



 私はニコッと笑い、堂々と胸を張って続けて言った。


 新しい兄を笑顔で迎え入れるんだーー



『ーー関係ない!もうあなたは私の家族なんだから!飢えて死ぬのも、凍えて死ぬのもこれからは一緒なんだよ!』





 リバティ・エンフィールドはあの日あの瞬間、生まれて初めて心暖かな家族ができた。



 改めて思い出したリバティは、目の前で無く私を見てフッと笑う。



「……レナ。僕は君に救われた……返しきれない、感謝をしています……家を出た僕が言うのは烏滸がましい事かも、しれませんが……」



 意識がすっと落ちていくのを感じた。


 私はリバティをギュッと抱き締めて、思いをしっかり受け止める。



「なあにお兄ちゃん……?」




「レナ……僕は、もし生まれ変わることができたなら……もう一度、レナのお兄ちゃんに、なり、たい……」

 


「うん……!リバティはずっとずっと!私の自慢のお兄ちゃんだよ!!」

 



 リバティの瞳がゆっくり閉じるーー



 その瞬間ーー世界が唐突に幕を閉じた。



 

 ガシャーン!!!



 いきなり爆音が辺りに轟き、私は飛び上がるように驚いた。



 振り返ると、そこには大破したトラックと、それを取り囲む野次馬が溢れていた。


 同時に私は、そこが死の直前の景色であることに気がついた。



ーー街に戻って来た……生き返ったんだ……!



「おねぇちゃん大丈夫か!?」



 私を心配して近寄って来てくれた通行人。


 呆然と立ち尽くす私だったが、生き返った喜びよりも、兄ーーリバティの顔が頭から離れない。



ーーお兄ちゃん……!ありがとう……!大好きだよ……!!



 何度も何度も心の内で感謝を叫ぶ。



 兄から貰った大切な命ーー



 私はすぐさまこの場を離れて駆け出した。




 1時間後。




 慌てて開けたドアは、ママの待つ病室だった。



「ママ!!」



 まるで数年ぶりに会うかのような懐かしさと、ママの抱き抱える『新しい命』に、私は感動で再び涙が溢れ出た。



「あ……!」



「おかえりレナ。ちゃんと挨拶しなさい。あなたはーー今日からお姉ちゃんなんだから」



 泣き疲れたのか、安心したのか、ママの腕に抱かれて眠っていた私の弟。


 その顔を見た瞬間、兄の顔を思い出すーー



「……よろしく弟くん。私はレナ。あなたのお姉ちゃんよ」



 リバティのような、優しくて強いお姉ちゃんになるんだ。


 今度は私が、この子を守ってあげる番よね。お兄ちゃん……!

ご愛読ありがとうございました!最終回です!

生と死の向き合い方、皆さまにメッセージが届くように楽しく書かせていただきました!


次回作は準備でき次第連載開始します!!お待ちください!!


もう一度ありがとうございました!これからも応援よろしくお願いします!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ