No23 勝てるかもだから
「お前の霊力は『キャンセル』ーー”相手の霊力を取り消す霊力”!そうパスポートに書いてあっただろ!?取り消す暇なく動ける俺には、無意味な能力だ!」
霊力が全て見抜かれ、先手で動くマイルを前に為す術もなく翻弄される。
その瞬間悟ったーー私たちは勝てないと。
嘲笑うようにマイルは高速移動で私に接近。
回避も間に合わない速さで、私の腹部を膝で蹴り上げた。
「あぁっ!!」
鈍く痛々しい打撃音が響き渡る。
すぐにその脚を掴みかかろうとしたのだが、マイルは瞬時に霊力ーー『ライトニング』を使って背後に移動。
”霊力を取り消す霊力”を持つ私にとって、マイルの言う通り手も足も出ない。
続けざまにマイルが回し蹴りで、私に追い討ちをかける。
「さっきはよくも俺に刀突き刺してくれたな!?」
先ほど重傷を与えたはずだが、死神ことマイルは機敏に攻撃を仕掛けてくる。
蹴り飛ばされた私は、急いで体勢を立て直し、左手を翳して霊力を発動させてみた。
ーーあいつの『ライトニング』を取り消して!『キャンセル』!!
しかしやはり後手に回るーー
マイルは瞬間で私の懐に移動し、思い切り右拳のアッパーカットを繰り出した。
「がっ!!」
身体の中の内臓が、全て吐き出されるような苦しい感覚。
そんな私を助けるように、リバティが走って近づいた。
「レナ!!!」
上空に打ち上がった私を抱き抱え、急いでマイルから離れた。
「お、お兄ちゃん……!」
「立ちなさい!またすぐにあいつは襲ってきます!」
リバティは全身大怪我をしていたが、私のために駆けつけてくれたのだ。
私たちには為す術もないーー
先ほどから空が黒い雲で覆われている。
恐らくリバティの霊力ーー『サクリファイス』の対策だろう。
強力な霊力だったが、月の光が無ければ効果はない。
「いったいどうすればあいつに勝てるの……!?」
絶望していた私に、マイルは満面の笑みを浮かべて大声で言った。
「俺に勝てるわけないだろうが!お前らじっくりなぶり殺しにしてやるから待っていろ!」
やつの言う通り、私たちに勝ち目はない。
懐から取り出したーー主催者であるマイルから配布されたパスポートを睨み付ける。
『相手の霊力を取り消す霊力』
最初は便利で強そうだと思ったけど、今はどんな霊力よりも最弱に思えてくる。
私の生命は、このままマイルの娯楽となって、脆く壊されてしまうのだろうかーー
肩を落としていた所でーー
ピラッ……
パスポートの裏に隠れていた、もう一枚のカードが地に落ちた。
「えっ……」
身に覚えのないそれを拾い上げた。
もう一枚のパスポートだったーー
「レナ!?それは!?」
リバティも驚いて聞いてきたが、私自身身に覚えのないパスポート。
読んでみると、すぐにそれが私のものではない誰かものである事が分かった。
『あなたの霊力は”霊力を凍らせる霊力”です』
ーーそう書かれていたパスポート。
私はすぐに、このパスポートの本来の所有者が誰か、確信に近い検討が付いていた。
「これ、ブルーベルさんのパスポートだ……!」
共闘し、背中を押してくれたブルーベル・パレットカラー。
おそらく気を失う前に、このパスポートを私に持たせてくれたんだ。
これが一体なんの為の行為か……
もちろんパスポートを持っていたところで、他人の霊力を使えるはずもない。
たまたま偶然私の懐に紛れ込んだとも思えない。
私にはこれがーーブルーベルからもらったヒントのような気がしてならなかった。
「……そうか!!」
「レナ……?」
リバティに見せてやるーー
「お兄ちゃんはここで見てて。私、勝てるかもだから」
ーー私が敵をぶった斬る瞬間を。
ゆっくり立ち上がり、剣を構えてマイルに向ける。
当然マイルは首を傾げて呆れ顔。
「お前やっぱり馬鹿でしょ?相性って知ってる?お前の霊力じゃ、俺の霊力には勝てないの」
しかし微塵も不安や恐怖はなく、ヒントを読み解いた私は、勝機の笑みを浮かべて言い放った。
「遊びは終わりよおチビちゃん!私はもう……負けない!!」




