No.20 誰よりも人間らしい
「悪いが勝つのは私達!お前は生きてちゃいけねぇ女なんだ!!」
刀に冷気を集中させ、一気に放つ一閃の鋭い突きを繰り出した。
アスフィアの左半身が凍てつき、ステージの外へ吹き飛んだ。
「こいつはなレナーー」
ブルーベルが語り出す、アスフィアとの因縁の過去。
「ーー誰よりも人間らしく、そして弱い生き物なんだ」
倒れるアスフィアを睨みながら、ブルーベルは私に淡々と説明してくれた。
「私が語るには、あまりに付き合いが浅いんだが……それでもこいつの弱さはよく知っている。こいつーーアスフィア・リ・コンソラトゥールという死神は、”欲”に関して全くの無関心な女だった。人が目の前でもがき苦しもうが、それが例え自分の死期だろうが、この女は気だるいため息を吐き捨てるような奴なんだ」
「自分が死にそうになったとしても……?」
「そう。ただし一つだけ……この女にとって自分の命よりも大切な物があった。原動力と言ってもいいな」
「それって……?」
「……”愛”だ」
言葉にするだけで、なんだか背中がムズ痒くなる。
私がまだ幼い少女だからだろうか。
命よりも愛が大切というその意味がよく分からないと言うのがーー私の本音だった。
「死んじゃったら”愛”とか言ってられないんだよ?」
「それでもこの女は”愛”が大切だったんだ。ただ人を好きになる……だけならよかったんだが、こいつのそれはかなり歪んでいた」
「歪んだ愛……?」
「こいつはある男を愛していた。とてもとても強い愛だった。そして……強すぎた。その男を想うあまり、男の全てを支配して管理したいと考えていた……近づく奴を排除し、殺した。そうーー私を殺したんだ」
「ブルーベルはそんな理由で殺された……!?その男の人と仲良かったの!?」
「そもそもその男と関わっただけで、この死神からすれば敵なんだ」
「関わっただけで……!?」
「このアスフィアっていう死神は、”愛”を自分の身勝手に押し付ける、壊れた『色欲』に塗れたクレイジーな女なんだ」
それを聞いていたアスフィアが、起き上がって狂ったように叫んでいた。
「私の”愛”を侮辱しないでー!!あの人の横にいていいのは私だけ……!あの人が想っていいのは私だけですから!!」
凍りついた左腕を、自ら大鎌で切り落とし、激しく睨みながら襲いかかって来た。
生に執着がないアスフィアにとって、自分の身体が傷つこうがお構い無しなのだ。
死が怖く、今すぐ生き返りたい私には到底理解できるものではなかった。
「おかしいのこの人……!」
「そんなの見りゃ分かるだろ!!」
ブルーベルが迫るアスフィアの大鎌を刀で受け止め、左手でアスフィアの腹部に『霊力』を発動させる。
『霊力ーー”ダイヤモンドダスト”』
掌から凍てつく冷気を放ち、アスフィアの腹部を狙う。
しかしブルーベルの霊力を身をもって体感していたアスフィアにとって、その技の対策を心得ていた。
「同じ手は何度も喰らいませんよ!!」
『霊力ーー”アナザーゲート”』
胸前に黒い穴を展開させる。
それにより、放たれた冷気を穴の中へ逃がすのだった。
”アナザーゲート”は別の場所へ繋げる超空間。
穴の大きさと出現場所は自由自在で、工夫次第でこうした小技もやれる。
霊力には霊力をーー
それなら、更なる霊力をぶつけるまでだった。
私が魅せる究極の切り札ーー
以前敵の『”パラリシス”』を破った時に使った、私の霊力をここでやる。
アスフィアの『”アナザーゲート”』が視認出来る位置に動き、掌を向けて心で強く思う。
ーーあの大穴を『取り消して』と。
「これが私の霊力!どんな霊力にも対抗出来る必殺技!」
私のパスポートに書かれた霊力説明はこうだーー
ーーあなたの霊力は、相手の霊力を”取り消す”霊力です。
『霊力ーー”キャンセル”』




