No.2 ーーなんで……私が”餌”みたいに……!?
「おやおやあれは……」
遠目でこちらを発見し、不敵な笑みを浮かべて立っていた青年がいた。
静止した観覧車の上に立ち、辺りを見下ろして観察していたその青年が、私に狙いを定めてニヤリと笑う。
「みぃつけた……レナ・エンフィールド」
高い観覧車から青年はすっと飛び降りたーー
ーーーー
封筒から落ちた手紙を拾い上げた私は、子供が書いたような文字の文を読み上げていた。
「『天国と地獄ゲーム』……!ルール説明書……!」
その他には、そのルール説明と思われる文が続けて書いてある。
しかしあまりに他人事と思えるその内容に、私はどうも現実味を感じず、深く読み込みはしなかった。
「何これ……?さっきまでこんな説明書なんて紙入ってなかったよね?」
明らかに手書きで作られたそれに、私はこれ以上の考えを放棄しようとしていた。
色々なことが一度に起こり、私の頭はパンク寸前。
まずどうして今私が、閉園後と思われる『イースターワールド』に来ているのかーー
そして先ほどトラックに撥ねられたはずという記憶ーー
さっぱり脳内の整理が付かなかった。
「ん?」
私は階段をぴょんぴょん跳ねて登ってくる、ポップな小動物の存在に気が付いた。
うさぎの耳と顔を持ち、卵のような丸い身体で飛び跳ねる。
ピョコピョコピョコーー
「あっ!」
そのフォルムは見間違いがない。
ここはイースターワールドで、そのマスコットキャラクターはこの園内で生息する。
『ラビットエッグ』
その可愛い生物は、幼少期の頃家族でこの地に遊びに来た時と変わらない姿。
ラビットエッグが私を見つけると、駆け出すようにこちらに向かって来た。
「こっち来たー!うわぁ懐かしい!」
私は両手を広げ、抱き締める準備は出来ていた。
ラビットエッグがいるということは、ここはイースターワールドで間違いない。
きっとこれは”そういう夢”なのだと。
幼少期に慣れ親しんだマスコットと触れ合う、単なる夢のひとつだとーー
私の頭上の高さまで飛び跳ねたラビットエッグが、ヒビ割れたお腹を大きく開きーー私を大きなお腹で噛み付こうとするまではそう思っていた。
「えっ……!?」
食事に食らいつこうとする猛獣の表情がそこにあった。
私を食らおうと飛び掛って来ているーー
ーーなんで……私が”餌”みたいに……!?
以前家族で行った動物園にいた、餌をムシャムシャ齧るウサギを思い出す。
私が与えた餌を一心不乱に食べ、あの時はただ可愛いとしか感じなかったが、餌の立場になった私は、恐怖で頭がおかしくなりそうになった。
足がすくみ、動くことの出来なかった私は、ただその場で固まることしか出来ない。
「や……!ママ……!!」
ラビットエッグが私を喰らおうと接近するーーその直前である人物が現れた。
「相変わらず親離れが出来てないようですねーー」
青年が拳銃をこちらに向けて、ニヤリと笑を浮かべて立っていた。
「ーー伏せなさい。レナ・エンフィールド」
ズガン!!
激しい銃声が轟き、銃弾が空を翔ける。
私は突如私の名を呼んだ青年の声と、銃声に素早く反応して、その場に耳を抑えてしゃがみ込んだ。
「キャッ!!」
銃弾がラビットエッグの身体を貫き、影のようにその場で消滅する。
一体何が起きたのか整理がつかず、呆然と立ち尽くしていたところで、先ほどの青年が笑いながらこちらに近付いてきた。
「やあやあ危なかったですねレナ」
青年の声に振り返ると、そこには私にとってとても懐かしい人物が立っていた。
「あっ!お前はーーリバティ……!リバティ・”エンフィールド”!!」
「どうもお久しぶりですレナ……レナ・”エンフィールド”」